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『トイレ』のメタい姉とメタい弟


「うぅ、トイレトイレ」


 今トイレを求めて走る俺は、ごく一般的な男子高校生。ちょっと違うことといえば、三流アマチュア小説書きの物語の主人公にされたってことかな。

 そんなわけで、俺は急いで自宅のトイレに駆け込んだ。


「え……?」


 トイレの扉を開けた途端聞こえる声。

 今まさに用を足そうと上体をかがませながら、パンツを脱ぐ姉さんと目が合った。

 うほっ、いいオンナ……。ってほどいい女でもないけどさ。

 つーか、なんで姉さんがトイレ入ってるのに俺もトイレに駆け込んでるんだよ。姉さんが先にトイレ入ってることくらい分かるだろ、狭い部屋なんだからさ。


「私、今来たばっかだから……」


 パンツを脱ぎかけたまま姉さんが答える。

 あぁ、なるほど。そういえば合鍵渡してたな。玄関から部屋に向かうまでの間にトイレがあるから、俺は気付かなかったと。

 でもトイレ入るときは鍵ぐらいかけないかなぁ、普通さ。

 

「い、急いでたから……」


「稀によくあるけど、何もこういうときじゃなくてもいいんじゃねぇかな」


「ごめん……。あの、それと、一ついいかな……?」


 うん? なんだい姉さん。

 俺と姉さんの仲じゃないか。なんでも言ってくれたまえよ。


「いい加減、扉閉めて欲しいんだけど」


 かがんでるせいか、自然と上目遣い。これは中々ポイント高いよ。パンツ下ろして上目遣い。いやぁ、そうそう拝めるものじゃない。姉じゃなかったら、もっと嬉しかった。

 まぁでもそうだな。いつまでも扉を開けておいたままというのもよろしくない。一応、俺達トイレの内と外で会話してるってことだし。


「そうだな。失敬失敬」


 そう言って俺はトイレの扉を閉める。

 トイレに一歩入って、閉める。ガチャンとなっ。

 自然と姉さんの真ん前に立つことになるわけだが、ウチのトイレは結構広い。部屋選ぶときトイレにはこだわったんだよ。狭いと嫌じゃん?

 つまり、前かがみで立ってる姉さんと向かい合わせに立ってもなんとか扉は閉めることが出来る。

 うん、これでよし。


「これでよし、じゃないよ!? 何してんの? 何で入ってきてるの!?」


 いや、閉めろって言ったのはそっちだろ。何も可笑しいことなどない。

 ちなみに先ほどから、俺の視線は主に下方向に全力集中である。

 ……今日は薄い青か。いや、何がとは言わないけどね?


「それ私のパンツの色だよ! 隠す気ゼロじゃん!」


 おや、俺としたことがモノローグをいつの間にか口に出していたようだ。まぁ口に出さなくても分かるか。

 はっきり言おう。


「俺は姉さんのパンツをガン見してます。色は薄い青です」


「知ってるよ! さっき私が言ったよ! ていうかいつまで見てるの? 早く出てってよ!」


 なんだなんだ、騒がしいな。トイレくらい静かにするべきじゃないか?

 それともアレかな。姉さんは気合入れないと出ないタイプかな? おっと、俺としたことが下品な話を。


「もう今更だよ……。姉の入ってるトイレに入ってくる時点で今更だよ……。早く出てってよ……」

 

「ふむ……まぁ出ていくのもやぶさかではない」


 思わずパンツをガン見して入ったが、正直そんなに意味はないのだ。

 いくらトイレが広いからって、こんなに近くちゃほぼ姉さんの顔しか見えないし。まあ、姉さんは今の態勢を変えたら分かんないけどね? 

 動く瞬間に、こう、チラッと色々見えるかもしれない。 


「ホント……? じゃあ早く出てって。お姉ちゃん、そろそろ限界だから……」


 姉さんの瞳も心なしか潤んできた。涙目の上目遣い。

 これもポイント高いんじゃないか? うんうん、中々あざとさが分かってるね、姉さん。弟くんは嬉しいです。繰り返すけど、これが姉さんじゃなかったら更に嬉しい。

 まあでもほら、『やめて』って言われるとやりたくなるよね。『押すなよ!? 絶対押すなよ!?』みたいな。


「じゃあどうすればいいの……」


 あ、ホントに限界なのかな?

 そろそろ声にも覇気が無くなってきたように思う。単純に、前かがみでパンツに手をかけたままってのも体勢的にツラいしね。そのうえ急いでトイレ入った割に、声張り上げてたし。

 んー、しかしそうだなぁ。どうしよっかなぁ?


「お、お姉ちゃんに出来ることなら何でもするから……」


「ん? 今何でもって言った?」


 何でもって何でも? ホントに?

 書き始めた頃はこの物語に「R-15」タグ入ってなかったけど、今回から入ってるんだよ? 

 いいの? ホントに!? 何でも!?


「……やっぱ何でもはダメ。え、えっちなのとか以外で……」


 俺も流石に鬼じゃない。っていうかホントに何でもにすると、R-15じゃ済まなくなる。俺だって健全な男子高校生だからね。仕方ないね。


「ふむ、じゃあこういうのはどうだろう――――」


 俺は姉さんに一つの提案をする。


「え? そんなことでいいの……?」


 俺の提案に、姉さんはきょとんとした表情で答えた。

 全然問題ないね。


「わかったよ……。じゃあほら、早く出てって……」


「ほいほい、わかりましたよ」


 あ、ちなみにもしこの件で俺を懲らしめようとしたら、姉さんの悲しい胸元から見えた色も公表するから。


「うぐ……!」


 果たして姉さんは上下揃える派か、気にしない派か。姉さんの女子力が試される。

 正解は、姉さんの胸元と俺の心の中に。


「じゃ、ごゆっくりー」


 俺はひらひらと手を振り、トイレから出る。閉めた扉の向こうから水の流れる音と、悔しそうにうめく声が聞えた気もするけど、気のせいだろ。

 ん? 俺もトイレを我慢してたんじゃなかったかって?

 いや、今から近くにある公園のトイレにひとっ走り行ってくるんだよ。

 

「うぅ、トイレトイレ!」


 俺は玄関から外へと向かって飛び出した。


 その後、公園のトイレでツナギを着たやたら美形の男に出会うんだけど、それはまた別の話。てかこれ以上登場人物は増やさないぞ。

 姉さんにした提案は、次回にでも分かるさ。

 三流アマチュア小説書きの主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。

 作者が飽きるくらいまでは、続く。




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