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『異世界』のメタい姉とメタい弟


「弟くん、異世界に行こう!」


 今日も今日とて物語は急にはじまる。

 いつもの六畳一間。姉さんは、いつものようにベッドに腰掛けながらそう切り出した。

 そんな『そうだ、京都行こう』くらいのノリで言われても、異世界への電車も通ってなけりゃ、観光ツアーも組まれてないんだけどな。


「でも大体の主人公はホイホイ異世界渡ってるよ?」


「そりゃあ、アレだよ。何かあったんだよ」


 色んな事情があったんだよ。ちょっと、具体的にどんな事情かは知らないけど。

 少なくとも、俺に異世界に行く事情なんかないな。アニメとか無さそうだし。


「弟くんも主人公なら、一度は世界を救わないと! チート能力とか目覚めて、魔王相手にギッタンバッタンやらないと!」


「そんなこと言われても、俺には特殊能力なんざないぞ」


 特殊な姉ならいるけど、正直そんなもの全く役に立たん。せいぜいはじまりの街から一歩出て即死オチだ。

 そこで特殊能力に目覚めて……とかあれば夢があるかもしれないが、現実は非常である。いや、空想だけどさ。

  

「大体よく考えてみろ。仮に俺たちが異世界に行くとするだろ? どうなると思う?」


「チート能力に目覚めて、魔王相手に勇敢な戦いを繰り広げる?」


 ぶっぶー。外れ。


「正解は、三流アマチュア小説書きが書く物語だから、設定ばかりが多くなり、結果的に打ち切りになってしまう、でしたー」


 自分の首を絞めるような設定出し。ダメ、絶対。ラスボスの設定は決めてあるんだけど、そこまで物語が続かないっていう話もちらほら。


「えー、設定なんて気にしないよー。ご都合主義さんで行こうよー。異世界行こうよー」


 ベッドに寝転がり手足をばたつかせる姉。はしたないから止めなさい。あとスカート穿いてるとか描写するのも面倒だから止めなさい。

 終いにはパンツの色まで描写する羽目になるんだから、俺としては非常に困る。勝手にラッキースケベ属性とか付けられたくない。ほら、俺平凡な男子高校生だし。

 ……まぁ、関係ないけど白色っていいよな。なんか清潔感あるしさ。うん、俺はいいと思う。


「設定なんて気にしないとは言ってもなぁ。大事だぞ、設定は」


「なんでよー。口調どころか容姿すら決まってない物語があるんだから、異世界なんてやり放題だよー。現実じゃないから許されるよー。私もモンスターをハンティングしたいよー」


「わかってない。姉さんは全然わかってないな」


 安易にラッキースケベネタに走るくらいわかってない。

 あっ、もちろんさっきの白色の話は全く関係ないけどね?


「異世界ってことは、現実世界じゃないんだぞ。つまり、それはもはや新しい世界を創造するってことだ」


 どういう理屈でその世界は出来てて、どういう人々が住んでて、どういう暮らしをしてるのか。

 

「しかもそこに『異なる人』が送り込まれて来るわけだ」


 その人はどこから来たのか。どう違うのか。何故違うのか。何故来たのか。


「そうやって生まれた疑問をどんどん『設定』にしていって、一つの『世界』が出来たとき、はじめて『異世界』になるんだ」


 まぁ、異世界の作り方って人それぞれだろうけど、俺はそう思ってる。


「……ふーん。じゃあ『魔王が勇者に敗れたけど異世界に転移して、勇者かもって疑われながら美少女達と旅する話』もそうやって作られてるんだね!」


「――ごめん、そんなことなかったわ。よっしゃ行くか、異世界!」


 異世界なんて頭の中で一発構築だわ! 小難しい設定とか考えてられっか! 全てはご都合主義さんが何とかしてくれる。

 矛盾? 違和感? そういうの後回しでも大丈夫大丈夫。とりあえず書こう。


「行こう、異世界! 倒そう、モンスター!」


 開け、異世界への門! 俺の気持ちは今世界を超えたね。異世界級のハートが、ドキドキマッハビートだぜ!

  

「おぉ、なんか弟くんがいつになくテンション上がってるね! いいよー! お姉ちゃん、世界の果てまでついてっちゃうよー!」


 俺のテンションにあてられたのか、姉さんのバタ足もヒートアップ。

 おぉ!? 見える! 俺にも見えるぞ! 異世界へ誘う神秘のベールの向こう側!


「行くぞー!? 異世界、行くぞー!?」


 張り切る姉さん。応えるように俺も声を張り上げた。


「異世界に行きたいかー!?」


「おー!」


「モンスター狩りたいかー!?」


「おー!」


「よーし、じゃあ次回は異世界からお送りするぞー!」


「え、本当に? 異世界行けちゃうの? そんな簡単でいいの?」


 もちろん、そんな簡単に行けます。

 そう、この物語ならね?

 三流アマチュア小説書きの主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。

 作者が飽きるくらいまでは、続く。

 

 

   

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