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『目的』のメタい姉とメタい弟



 物語はいつもの六畳一間から。

 

「今日も遊びにきたよー、弟くん」


 姉さんが流れるように玄関から入ってきて、ベッドの上へと収まる。

 俺はそれを横目にパソコンデスクへと突っ伏していた。


「へいへい、いらっしゃい……」


「あれ? 弟くん、元気ないね? どうしたの?」


「今、センチメンタルな気分に浸ってるんだよ……」


 ナイーブなお年頃なのだ。

 俺だって色々考える。

 なんで物語やってんだろ、とか。なんであんなこと語っちゃったかなぁ、とか。うわぁ恥ずかしいわぁ、とか。

 とにかく色々考える。

 

「でもいつも偉そうに小説講座もどきみたいなことしてるよね?」


「だからオブラートに包めって言ってるだろぉ!」


 もうそんなこと言い出したら、この物語自体恥ずかしいわ!

 出来もしないことをべらべら喋ってるんだからなぁ!

 

「そうそう、そうやって開き直らなきゃっ」


「まぁそうなんだけどな……」


 開き直ることが本当に正しいのか。悩めばいつか答えは出るんじゃないのか。


「はぁ……なんで俺生きてるんだろう……」


 思わずためいき。あぁ、アンニュイ。


「うわ、そこまで悩まなくてもいいのに……」


 ちょっと引き気味の姉さん。

 それを横目に流し見て、更に憂鬱な気分になる俺。

 無限ループって怖くね?


「しょうがないなぁ……。じゃあ今日はお姉ちゃんが物語を進めてあげる。だから弟くんも元気出して! ねっ?」


「あぁ……そうだな……こんなクソ物語、どうせ読む人いないけどな……」


「い、いちいちやりづらいなぁ……」


 もうほっといてくれ。今、可哀想な自分って可哀想っていう妄想で、頭の中ぬるま湯状態にしてるから。

 自虐することで加虐心と被虐心を同時に満たし、客観視しているという錯覚が自尊心と自己顕示欲を潤す。

 あぁー、頭が駄目になるんじゃー……。


「お、弟くん! それ以上は駄目だよ! ダークサイドっていうか、もはやメンタルに行っちゃわないといけなくなるよっ!」


「ほら、天才と馬鹿は紙一重っていうじゃん……。じゃあ常人と馬鹿なんて、紙一枚の差もない。ほぼ同一なんだよ……。俺も……あはは……」


「あああぁぁ弟くんが、一見哲学的なことを語ってるようで全く意味が通らないことを口走って悦に浸っている……!」

 

 あれだろ? 難しい言葉並べとけばなんかそういう風に聞こえる現象……。コクーンでパージみたいな。


「本格的にいっちゃってるなぁ……。これ、物語としていいのかなぁ……?」


 不安げに呟く姉さん。

 もう俺には答える気力もない。今、ちょうど俺の人生と蝉の一生を比較して、その儚さを妄想するので忙しいから。ポエム的な感じで。

 あぁ、蝉ってすごいよな。土の中から出てきたのに一週間くらいで逝っちまうんだぜ。でも、やりたいことやり遂げてるじゃん……。それに比べて俺ときたら、目的もなく物語をだらだらやって……――。


「蝉に劣等感を感じるくらい病み始めるなら、真面目にやればいいのに……。そんなに目的って大事なの?」


「そりゃ大事だ……。蝉だって訳もなく羽生やしてミンミン鳴いてるわけじゃないんだぞ……」


 ヒトだってそうだ。発生から結果だけで語るなら、人間なんてみんな生まれて死ぬ。

 じゃあ死ぬために生まれてきたのか?

 そうだ、っていう奴は、大体みんな死んでる。

 違うから生きてる。そうだろ?

 死ぬ以外の結果を残す目的があるから生きてるんだ。


「いや、そんなこと考えたこともないけど……。じゃあ目的を達成したら死ぬの?」


「うんにゃ……そしたら次の目的を探すだけさ……」


 俺が生きてるのは死ぬためじゃない。

 死にたくないから生きてるとも言いたくない。

 だから、目的を探すのさ。おぉ、なんかもっともらしいぞ……!?


「じゃあじゃあ、この物語も目的があれば変わる!?」


「目的がないから変わらないんだなぁー……」


 勇者は魔王を倒す目的がある。恋愛ものの主人公は、意中の相手と結ばれるという目的がある。

 それを達成したら、次の目的を作る。

 一つの人生でどれだけの目的を達成するかは、物語次第。


「さしずめ、この物語の目的はだらだら喋ること、だな……」


「……終わりそうにないね。っていうかどうすれば達成したことになるのかな……?」


「あぁ……だから俺たちは飽きたら終わるんだ。蝉よりみじめだぞ……」


 俺の言葉に、姉さんの表情も沈んできた。

 憂鬱な気分って伝染するらしいね。おう、みんなで憂鬱な気分に浸って、だらだら喋ろうぜ……。


「私もなんだか眠くなってきた……」


 ベッドに倒れ込む姉さん。

 もう、おやすみ……。

 それを見守る俺の心境は、もはや「もう疲れたよ……」と愛犬に寄り添うフランでダースな少年のそれである。

 なんだかとっても眠いんだ……。

 そうして俺たちは静かに目を閉じた。






 ――……さて、それから俺たちはどうなったか。


「――おはよう、弟くん! お姉ちゃん、お昼寝したらなんかお腹すいちゃった! ごはん食べに行こう!」


「おっ、たまには外で食うのも悪くないな。焼肉とかガッツリしたもの喰いたい気分だ!」


 ――昼寝したら、元気になった。

 目的? 飽きたら終わる? 飽きなきゃ終わらないの間違いだろ。

 大体、あのテンションでずっと喋ってると『……』が多くて大変なんだよ! やっぱいつものが楽だわ。

 物語において、目的って大事だ。

 それこそ、その登場人物が辿る道の最重要項目かもしれない。

 でも、この物語に壮大な目的なんてありゃしない。勇者も出てこないし、意中の相手と結ばれるなんてことない。

 それでも、この物語は続く。

 いつ終わったっていい。明日途切れてもいい。

 気負わず続くから、気負わず読んでもらえりゃそれでいい。

 俺と姉さんがぐだぐだと好き勝手喋る。

 これ、そういう物語だから。

 

「……ねぇ、弟くん。なんかこれ打ち切りっぽい台詞じゃない?」


「俺も思ったけど、それ言ったら毎回そうだろ」


 三流アマチュア小説書きの物語の主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。

 作者が飽きるくらいまでは、続く。




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