『ゲーム』のメタい姉とメタい弟
今日も物語ははじまる。
昼下がり。俺がアニメを鑑賞しつつのんびりしているところに、姉さんが遊びに来た。
「やっほー、弟くん。ひと狩りいこうー!」
嬉しそうに姉さんが手にしているのは、巷で人気のポータブルゲーム機。モンスターをハンティングする某有名ゲームがプレイ出来る、あのゲーム機だ。
「私アクションゲームって苦手なんだけど、ハマちゃって……。弟くん、こういうの得意でしょ? 協力プレイで手伝ってよー」
もはや定位置となっているベッドの上に腰掛けながら、姉さんはなおも話す。
だが、残念だった。
「俺、それ持ってねぇから」
ウチ、ゲーム機とかないから。
確かにそのゲームはそれなりにやりこんでたけど、最新作は買ってねぇし。
「じゃあ一緒にゲーム出来ないの!?」
「残念だが、そうなるな」
「えー! ゲームぅ! ゲームしたいー! お姉ちゃん、弟くんとゲームしたいー!」
手足をばたつかせて駄々をこねはじめる姉さん。
姉さんキャラぶれすぎじゃないか? いや、このセリフも何回目かわからんけど。
とにもかくにも、そのゲームを持ってないことにはどうしようもない。
「ちなみに金もないから今から買いに行くってのも無理だ」
今月は金欠でね。年始って何かと入用だしさ。
いつもの飯をちょっと豪勢に、とかやってたら懐具合がピンチになってしまった。
「えー……ゲームぅ……」
恨めしそうに呟かれても、ないもんはない。
つーか、ゲームしたいだけなら他にもいっぱいあるだろ。
「他にも……?」
「なんだ、姉さん。すっかり現代っこになっちゃったのか? テレビやポータブルゲーム機がない時代でも、ゲームなんていくらでもあったんだぞ?」
将棋や囲碁、チェスだって立派なゲームだ。
今やゲームと言えば『テレビゲーム』をまっさきに思い浮かべる人が多いかもしれないが、ゲームとはそもそも『遊び』。古今東西、あらゆる人が楽しんできたものだ。
「あいにく俺の部屋には将棋盤も囲碁盤もないが、せっかくだ。たまには姉さんと遊ぼう」
「ホント!? ……あれ? でも何もないってことはボードゲームとかは出来ないってことだよね?」
「まぁ出来なくはないが。今日はちょっと違うものをしよう」
そういって俺はパソコンデスクに置いてあるメモとペンを取り出す。
ボードゲームも紙にマス目を引いて作れば出来るんだが、今回は違う。
あくまで、この紙とペンはやりやすいように記憶するためのもので、必ずしも必要じゃない。記憶力がよろしくない姉さんへの配慮だ。
それらを姉さんに手渡すと、俺は口を開いた。
「今から、姉さんと『マスターマインド』っていう遊びをする」
「『マスターマインド』?」
おうむ返しに首を傾げる姉さん。
俺も正式名称は今知った。っていうか正式名称っていうのかな。
要は『数字当てゲーム』だ。
「ルールは簡単。今から俺が、0から9の間の数字を使って、4ケタの数字を作る。姉さんはその数字を当てるだけ」
ね、簡単でしょ?
「簡単でしょ、って言われても。私、超能力とか使えないよ?」
誰がノーヒントで当てろって言った。
もちろん、姉さんには当てるための手段を用意する。
「まず、0から9の間の数字と言ったが、これらは重複しない」
俺が考える数字は、『0000』とか『0099』にはならない。必ず『0123』とか『6789』といった具合に違う数字が入る。
「次に、姉さんには回答権が5回ある」
つまり4回は外れてもいい。
本当は難易度を下げるためにもっと増やしてもいいんだけど、とりあえずで。
「そして最後に、姉さんが回答する度に、俺はその数字の『ケタが合っているか』と『数字があっているか』を、『ヒット』と『ブロウ』という単語で教える」
最後のはちょっとややこしいが、これがこのゲームの肝だ。
俺が考えた数字が『1234』で、姉さんの回答が『1243』だった場合、『数字とケタが合っている数字』は2つ、『数字は合ってるけど、ケタが違う数字』が2つだ。
『数字とケタの位置、両方が合っている』場合、『ヒット』。
『数字は合っているけど、ケタの位置が違う』場合は、『ブロウ』。
つまり、この例だと、『2ヒット』『2ブロウ』。
どれがヒットでどれがブロウかは教えない。
こうやってヒントをもらいながら、5回目で当てれば回答者の勝ち。
「ん、んんんー……。な、なんとなくわかった」
「まぁ説明するよりやってみたほうが早いだろ」
ちなみにヒットとブロウという単語から、俺はこの遊びを文字通り『ヒットアンドブロウ』と呼んでた。分かりやすいじゃん。
「んじゃあ、やるか。――……よし、俺は数字を決めたぞ」
「えー、早いよぉー……」
ぶっちゃけ出題者は楽ちんだ。
4ケタの数字を考えるだけでいい。一応、それなりに分かりにくくするんだけど、5回もあれば大抵当てられるからなぁ。
……姉さんは当てられるか知らないが。
姉さんはうんうんうなりながら、それでも4ケタの数字を答える。
「え、えーっと、まずは『1234』!」
「おぉ、シンプルだな。『1234』ね……。ノーヒット、2ブロウ」
「ノーヒットって、どれも位置は違うってこと?」
「おう、そういうことだ」
ちなみに当然、ブロウよりもヒットが優先されるから、2ヒット4ブロウってことはない。
今回なら、『数字もケタの位置も合ってる数字』が一つもなくて、『数字は合ってるけど、ケタの位置が違う数字』が2つあるってことになる。
「――『1234』から2つの数字が使われている、ってことだね……」
そうそう。そうやって考えて、考えて。
「回答権はあと4回だぞー」
「まだ4回もあるもん! えっとね、じゃあ次は『5678』!」
「はいはい。『5678』っと……。ノーヒット、2ブロウだな」
「またー? えーっと……すると『5678』からも2つの数字が入ってるっと……」
姉さんは渡されたメモに丸っこい字で色々書き込んでいる。
正直、ここまではセオリー通り。
ちなみにこれで俺の考えた数字の中に『0』が入ってないってことが分かる。
「『1234』から2つ、『5678』から2つ。しかも並びは合ってないから……」
姉さんはぶつぶつと呟きながら考え中のようで、いつになく真剣な面持ちだ。
いつもぽけーっとしてるから、なんだか新鮮だなぁ。
いや、やってよかったなぁ。待たされてる俺は暇だけどな。
まぁ、ぶっちゃけこのゲーム。ほぼ回答側が勝つ。
定石も存在するし、そんなに難易度自体は高くないのだ。
でも初めてやると色々考えちゃうよなぁー。
俺は姉さんがうんうんうなりながら考えているのを眺めながら、ゆっくり待つ。
「……よし。じゃあ次は『3456』で!」
「ほいほい。『3456』ね……。ノーヒット、2ブロウ」
「うえええぇ!? えーっと、じゃあ『3456』から2つ、っと……」
そうしてまたメモとにらめっこをはじめる姉さん。
正直、この姉さんの回答は悪手だなぁ。
数字の選びはどうでもいいんだが、ケタの位置が悪かった。
さっきも言ったように、このゲームにはある程度定石がある。
まず、最初に『1234』と『5678』で『0』が入るかどうかを見極めること。これで2手。
そして大事なのは、『4回目の回答でいかに選択肢を減らせるか』だ。
究極的に言えば、『4回目で2択』の状況に出来ないとキツい。
さて、それを踏まえてこれまでの回答を並べてみよう。
まずは、
『1234』がノーヒット、2ブロウ。
『5678』がノーヒット、2ブロウ。
そして先ほどの
『3456』がノーヒット、2ブロウ。
これだと、『3456』のどれがブロウしたかさっぱりわからん。
例えば、『34』がブロウだとすると『56』は正解に入らないわけだが、それだと今度は『78』が入るということになる。
ただ、これは『56』がブロウだとしたときにも言える訳で。
あんまり、手として進まないのだ。
そういうわけで、次の4回目の回答で挽回しないとキツい。
……そろそろいいかな? いい加減、待つのも暇なんだが。
「う、うーん……よ、『4256』……」
なんか姉さんが今にも目を回しそうな感じになってきた。
おいおい、これぐらいで頭がパンクしそうなのか。
「『4256』は、1ヒット、ノーブロウ」
「おぉ! ついにヒットだ!」
喜ぶ姉さん。いやいや、喜ぶのは早いぞ。
これでもう回答は4回目。次で決めなきゃアウトだ。
「さぁ、考えてくれたまえよ。正解はなーんだ?」
「うぅ……うーん……」
運命の瞬間、姉さんの導き出した答えは……!
「よ、『4387』?」
「ぶっぶー。外れです」
現実は非情であった。
「ていうか4回目以降の回答、明らかにあてずっぽうじゃねぇか!」
「だ、だってぇ……考え始めたらわからなくなっちゃったんだもん……!」
だもん……とか言われてもな。
姉さんの成績を、俺は本気で心配するよ。
「まぁ手順はわかったな。要はこういうゲームだ」
勝敗はともかく、定石が掴めないうちは結構面白いゲームだ。頭の体操にもなっていいぞ。
ただし、出題者はめっちゃ暇だ。
「うぅー……なんかお姉ちゃん疲れた……」
「一回くらいで疲れるなよ……」
あいにく姉さんには向かないみたいだけど。
他にも昔懐かしの潜水艦ゲームとか、ブラックボックスとか、紙とペンで簡単に出来るゲームは色々ある。
もうテレビゲームにも飽きたし、だからといってトランプとかボードゲームの用意とか持ってないわぁーってときは、やってみると面白いぞ。
いい暇つぶしになる。
「お姉ちゃん、当分ゲームはいいよ……」
「そうだな。姉さんは大人しくそこらで転がってなさい」
そうして今日も時間は過ぎていく。
三流アマチュア小説書きの物語の主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。
作者が飽きるくらいまでは、続く。




