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『年末』のメタい姉とメタい弟




 物語はいつもの六畳一間からはじまる。


「もう今年も終わりだねぇー……」

 

 風邪が治ってどことなく気が抜けた顔の姉さんと――。


「今年もあっという間だったな……」


 ――いつも通りパソコンへ向かい座る俺。

 このはじまりかたも十話を超えてくると定着してきたな。書き出しに悩まなくて済むので大変結構。

 

「今年も色々あったねぇ、弟くん」


「いや、何もねぇよ」


 俺たちに設定はない。

 設定がないってことは、過去もない。あるのは今だけ。

 お、なんかこれカッコいいな、実態はともかくとして。


「俺と姉さんの出会いすら設定されてないんだぞ。この一年俺たちが何したかなんて決まってるわけないだろ」

 

「えー……あ、じゃあ勝手に決めちゃおう? 私、この夏アメリカ行ったんだぁー」


「よく知りもしない地に行ったことにするのは、申し訳ないけどNG」

 

 アメリカについてなんて、コーラがめちゃくちゃデカいくらいしか知らねぇよ。

 つーか仮に本当だとしても、姉さんがアメリカ行ったら迷子になった挙句ひったくりとかに遭いそう。

 ……これも完全にアメリカへの偏見だけどさ。


「じゃあ私たち、年末なのにこの一年何してたかも回想できないの?」


 出来ないな。全く出来ないな。

 思い出話に花を咲かせるなんて、俺たちには無縁の言葉だ。

 辛うじて物語の回想とかは出来る。


「そんなの弟くんとここで話したことだけじゃん……」


 嫌そうに言うな、嫌そうに。

 いや、俺も嫌だよ。なんだよ一年の思い出が姉と話した日々のみって。重度のシスコンじゃねぇか。

 

「弟くんには他にもあるでしょ? アニメ見た感想とか、今年のアニメは豊作でしたー、とか」


「まぁそういう設定は勝手に出来たからな」


 散々設定がない設定がないとのたまっている俺たちだが、流石に十話を超えると勝手に出来てきている。

 まるでキノコみたいにニョキニョキそこらへんから設定が生えてくるのだ。

 なお、生えてきたはいいけど後々忘れ去られて、ひょんなことで足元すくわれるパターンが多い。

  

「弟くんも嫌がってたのに、最近は物語に協力的っぽい感じだもんね」


「連載当初は悪役だったのに、いつの間にか人道的な行いをすることになっててつじつまが合わないから仕方なく味方側についた奴みたいだな」


 実際、そんな感じ。

 妹に合鍵渡したりなんやら。設定ガバガバすぎて、物語の裏付けとか理由づけとか動機づけはめちゃくちゃである。

 全く気にせず進めるけどね?


「だったら私の思い出も……!」


「それはそれ。これはこれ」


 勝手に生えてきてしまうものは仕方ないけど、分かっているなら伸びる前に摘んでおこうというスタンスだから。

 まぁ、それでも色々どうしようもなく確定しそうな設定とかあるけどな。

 俺が姉さんより年下とか、妹は俺より身長が低いとか。

 特に妹が登場したせいで、俺たちの設定はこれから経済成長期のビルのように急激に伸びていくだろう。


「ほー……。それまたなんでー?」


「以前言ったが、『人間ものさし』だよ」


「……そんな話、したっけ?」


「したよ! 覚えてないのかよ!」

 

 姉さん、思い出以前に記憶力が壊滅的なんじゃないか?

 登場人物と比較して、他の物や人を表現するっていう話だ。

 

「妹は設定がある程度出来ているテンプレツンデレ妹だから、それと比較して俺たちも勝手に設定が出来ていくんだよ」


 一人の身長が分かれば、それと比べて、高い低いで大体の身長が分かる。

 登場人物が三人になるとモノローグも増えるだろうから勝手にそういう描写も入ることになるだろう。

 いつまでも同じ表現してると飽きるだろうし。……もう遅いけど。


「おぉー! じゃあお姉ちゃんの設定も山もりてんこもりのザックザクだね!」


 嬉しそうだな、姉さん。 

 設定ないのがそんなに嫌か。いや、まぁそりゃ設定ある方が嬉しいか。


「俺にとってはめんどくさいことこの上ないんだけどなぁ……」


 設定も一定周期で捨てられたりしないかな。

 ほら、年末の大掃除みたいにさ。溜まった物は捨てないといけない。


「そんな! それを捨てるだなんてとんでもない!」


 思わず姉さんが叫ぶ。

 姉さんはあれだな。小学生のときにもらった年賀状とかも大事に取って置くタイプだな。きっと几帳面にファイリングとかしてるんだ。

 そういうとこマメそう。


「俺はいいわ……。むしろ時間が欲しい」


 最近、物語に協力的すぎてアニメ見てる描写も減ったし。

    

「来年はどうなるのかなぁ♪」


「さぁ、どうだろうなぁ……?」


 案外、作者が飽きて打ち切りとかになるかもしんない。

 年の暮れだというのに俺たちはいつも通り他愛もない会話をする。

 それだけのことを、もうこれだけ続けたんだ。

 来年もそうやって過ごすのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。


「来年は劇場版くるかな!? くるかな!?」


「それはない」


 楽しそうにはしゃぐ姉さんを、一言で両断した。

 年末だからって、俺たちはこんな感じ。

 三流アマチュア小説書きの物語の主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。

 作者が飽きるくらいまでは、続く。




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