タイトル同文
更新は遅め。どういう話にしたいのか分かるのは当分先かもしれません。
興味があればどうぞ。
『うらあぁぁぁぁ!!!!!』
俺の聖剣シュレスマグナが魔王を切り裂き、魔王が断末魔の叫びを上げて倒れ塵となって消えていく。
長い旅、長い闘いの末全身ボロボロだったが魔王を倒した喜びが心の底からぐつぐつとわいてくる。
「ついに……。」
声をあげ、剣を天に突きかざす。
湧いてきた喜びを隠すことなく大声で叫んだ。
「ついに魔王を倒したぞぉぉ!!!!」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」
わずか500人の魔王討伐軍からその百倍はいるかのような大きな歓声が上がる。
こんな少数で50万を超える魔王の大軍勢に勝てるわけがないと言われていたがやり遂げた。皆同じ思いなのだろう。満身創痍の仲間たちも嬉しそうだ。
「やったな、兄貴ぃ。」
斧を持った大男・元山賊頭領のガスタードが元山賊たちに囲まれ大声を上げて嬉し泣きしている。酒でも持って行ってやれば三日三晩飲み続けるだろう。それほど熱を上げて盛り上がっていた。
「エスタさま……。エスタさまっ!!」
仲間の一人エルフのヒーラー、後方にいたシノアが駆け寄って抱きついてくる。
「ありがとうございます。本当に。あの時、エスタさまに会えていなかったら……。」
涙目で感謝を告げるシノア。思えばこの世界に来て初めて出会ったのがシノアだった。
魔王に占領されたハルタ国から命からがら逃げ出したシノアは行くあてもなく砂漠の中をふらふらと彷徨い、突然空から降りてきた俺を神だと信じて魔王を倒してほしいと懇願してきたのだ。
あれから山賊を蹴散らし、空に浮かぶエルガスタ公国を魔王の配下・ガルグラドから奪還し、この聖剣シュレスマグナの製造に不可欠な鉱石シュレスタビアを求めて水中島・スンクレインを訪れたりと多忙な旅だった。
「わたしもーわたしも。ありがとーなのですー。」
鳥人ユーリがいつもの様に少し舌足らずな言葉で話す。ユーリとの出会いもシノアとの出会いと似たようなものだった。違ったのは、エルガスタから落ちてきたのがユーリで助けを求めてきたのもユーリだったという点だ。
エルガスタへ行くまでも、エルガスタを奪還してからも3歩歩いたら忘れる彼女の鳥頭には散々困らされたが、その一方で瞬間的な判断力とその行動力には何度も助けられた。……でもやはり困らされたことの方が多いな。
「あんたたちいつまでそうしてるつもりなのよ。」
その声でシノアが俺の身体からパッと離れる。このつんとした声は元マーメイドのサテラだ。スンクレインの学者で研究をしていたのだが陸地に憧れを抱くようになり、陸地を目指して泳いでいた途中渦潮に飲まれ浜辺に打ちあがっていたところを俺たちが保護した。
回復した後、サテラは渦潮に飲まれたのはたまたま運が悪かっただけだと言って一人でスンクレインへ帰ったのだが、その二日後同じ場所に打ちあがっているところを再度保護したことで仲間になった。
しばらくの間は水槽で運んでいたのだが、歓楽街ラクタシアのパブでアルコールを摂取したことが原因で下半身の魚部分が取れ人間の脚になってしまった。
それから一週間ほど宿屋に引き籠り続けたサテラを、それこそ天岩戸を思い起こさせる四苦八苦の末なんとか引っ張り出したのだが、引っ張り出されたサテラは何故かケロリとしていて当初の目標であった陸地の研究をするようになった。
いつもしっかりしていてよく参謀を果たしてくれていたし、シノアが連れ去られて俺が取り乱したときは俺を励まし助けてくれたりもした頼もしい相棒だ。
「サテラも抱きついてきて良いんだぞ。」
「わ、私は別に……そんなつもりで言ったんじゃない!」
「ったく、最期まで素直じゃない奴だ。」
サテラが素直に喜んだのはスンクレインに行くために立ち寄った港町ハーバルトで人魚化の魔石マールハネスを渡したときくらいのものだ。あれを手に入れるためにハーバルトの屈強な男たちと闘ったことを思い出すと今でも背筋が寒くなる。あれは本当に辛い戦いだった。
だが結局、サテラはマールハネスを使って帰ることはなく、まだ陸地の研究が済んでいないからと言って旅についてきてくれている。
「な、なによ。最期って。別にこれからだって……。」
サテラが言葉を止めたのは俺の身体の変化が目に入ったからだろう。
俺の身体が少しずつ、炭酸水の泡のように光の粒になって天へと昇り始めていた。
「こういうことさ。もともと魔王討伐の為に転生されたんだ。魔王がいなくなれば俺は用済みって事だよ。」
「ま、また例の冗談でしょ?嘘よね。」
旅の途中ことあるごとにサテラをからかったから信用されないのも無理は無いのだが……、だが聡い彼女のことだ。表情からも本当だと分かっていると理解できた。
「最期くらい素直なステラの言葉が聞きたいな。」
卑怯かもしれないがこのくらいの魔王討伐の褒美があってもいいだろう。茶化すようにステラに言う。
散々迷ったサテラだったが口を開いた。
「浜で助けてくれてありがとう。旅に連れて行ってくれてありがとう。マールハネスをくれてありがとう。でも、でも……もっと一緒に!!」
言いかけたサテラの口に、もうすでに透き通り感覚もない人差し指を当てる。ありがとうと聞けただけで十分だ。多分この後の言葉は言わせちゃいけない。
「サテラ。陸地を研究し尽くしてスンクレインに引き籠っている人魚共に陸地の面白さを教えてやれよ。」
目に溜めた涙を必死にこぼすまいとしながらサテラが頷く。
「ユーリ。お前はいつもどこでもトラブルを持ってくるから大変だったよ。でも、おかげで退屈しなかった。ありがとう。……それとユーリの兄貴を助けられなくてごめん。」
ユーリは首をぶるぶると振る。
「ガスタード。俺がいなくなったからってまた山賊みたいな事するなよ。あとちゃんと胸を張って生きろ。」
「兄貴ぃ。俺、兄貴がいないと生きていけねぇ。俺も連れて行ってくれよ。」
ガスタードが体に似合わない情けない声をだす。こう見えてガスタードは臆病で自信のない性格をしていた。四天王の一人ゲンドルとの戦いで一皮剥けたような気がしていたのだが、気がしただけだったようだ。
「子分の前でそんな情けない声だすな。まだ魔物の残党だっているんだ。これからはお前が魔王討伐軍を率いて治安維持に努めるんだ。」
「でも、俺が兄貴みたいに出来るはずねぇよ。」
「俺みたいにやる必要はない。お前はお前らしくやれば良い。そいつらだってお前のお前らしいところに魅かれてついてきたんだろ?そのままでいいんだよ。」
「で、でも。」
「俺の最期の頼みだ。聞いてくれるな。」
それでもぐずるガスタードに強く言い聞かせる。「最後の頼み」その重さを分かってくれたのだろう。ガスタードは胸に拳を当ててしっかりと俺を見据える。その眼はゲンドルを倒したときの勇ましい戦士の眼だった。
「シノア。」
最後にシノアに声をかける。連れ添った時間は仲間の内で一番長い。この世界のしくみが分からなかった俺の世話をしてくれたのもシノアだ。病に伏せたときに看病もしてくれた。
「約束通り、俺は魔王は倒した。後はお前の努力次第だ。こんなにも荒れてしまったハルタ国をもう一度緑豊かで人の笑顔があふれる国にして見せろ。お前ならきっとできる。頑張れよ、シノア姫。」
シノアは隠していたつもりなのだろうが、ハルタ国の姫だというのがバレバレだった。初めて訪れた街・ビギルスについた段階で少なくとも高貴な生まれなのだろうと確信していた程だ。
「あぁ、それと神様だなんて騙して悪かったな。」
他のメンバーは全く信じていなかったが唯一シノアだけは最後まで俺のことを神様と崇めていた。
俺の言葉にシノアは大きく首を振る。
「誰が何と言おうとエスタさまは、私の国を救ってくださった私の神様です!」
熱のこもった目で見られると少し照れてしまう。彼女がそう思ってくれるのならそれでいいのだろう。
「もう時間がないみたいだ。それじゃあ、魔王討伐軍の長として最後の号令をかけよう。みんなの努力のおかげで、魔王を倒すことができた。それでも傷跡も多く残り、まだまだ問題は山済みだ。各人自分が出来る仕事を見つけ一刻も早くこの世界が復興出来るよう全力を尽くしてくれ。それでは……。」
一旦言葉を止め、討伐軍を見渡す。腕を怪我している者、足を怪我している者、みんなボロボロの身体のはずなのにしっかりと地に足を付けて立ち、こちらを見つめていた。一人一人の顔を見ていく。眼に涙を浮かべ耐えている者もいればボロボロと涙をこぼしている者もいる。全員生まれた場所は違うけれども志を一つにしここまで戦い抜いてきた家族のようなものだ。
俺だって出来る事なら別れたくはない。
でも、出会いがあるから別れがあり、別れがあるからまた新たな出会いがあるのだ。
「それでは……。」
声が少し震えていた。やはり別れに慣れるということは無いようだ。
鼻をすすり、ぐっとこらえる。大きく息を吸い腹から声を出して最後の号令をかける。
「解散!!!!!」
「「「「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」」」
魔王を討伐した後の雄たけびよりも遥かに大きい。そんな声に後押しされるようにだんだんと体が溶けていく。身体の感覚は無くなり、耳も聞こえなくなった。シノア達が何か言っているが、その景色もだんだんと薄れていく。
いつものような上昇しているとも下降しているとも言えない奇妙な感覚に包まれる。
あの神は次にどの世界を救えと言うんだろうか。
しばらくの間その感覚に包まれたまま時間が過ぎていく。
「衛よ。今回も上手くやったようだな。」
奇妙な感覚が収まり発された声に目を開く。シャチのようなフォルムの光体、神・シャルカがいつもの様に宙に浮いていた。
こいつに与えられた能力を駆使して世界の秩序を乱すバランスブレイカ―、今回で言うところの魔王、の排除を遂行する。それが俺の役目。
シャルカの呼んだ名前も久しぶりに聞く。久宮衛、思い出したくもない俺の本名だ。
「久しぶりだな、シャルカ。で次はどこだ?」
「せっかちなのはいつまでたっても変わらんな。」
ふぉっふぉっふぉと老人のような笑い方をするのも変わりない。
「次は一度お前さんがいたことのある世界にもう一度言ってもらう。」
「へぇ、同じところにバランスブレイカ―が二度も現れることがあるんだな。」
多分今解決したばかりのハルタ国ではないだろう。だとすると一回目に訪れた妖精の楽園・ピアリーか。あそこでは初めての転生で理解が追いつかず大変だった。与えられた能力「自動学習」が真の力を発揮するまではガラクタも同然だったことも大変だった原因の一つだ。
もしくは電脳空間で超巨大ウイルスを破壊して回ったカルキュールだろうか。しかし、どちらかと言えばあそこにはいきたくない。あのえも言えぬ浮遊感、どちらが上なのか下なのかも分からなくなり何度道に迷ったことか。
それとも……と候補は尽きない。どの世界にも一緒に戦ってきた仲間がいる、会いたい人がいる。だから再開できることが本当に嬉しかった。それがカルキュールであってもだ。
どこにいけるのだろう。そんな思いに馳せているとシャルカが口を開いた。
「次で転生は最期じゃ。今までご苦労じゃったな。最後は人間界。能力は無しじゃ。」
「はぁ⁉ちょ、ちょ、ちょっと待てよ。」
俺の言葉も聞かず、転生のたびに味わうあの奇妙な感覚に突き落とされる。徐々に加速していく。徐々に意識が薄れていく。
人間界?なんで今更そんなところ行かなくちゃいけないんだ。しかも能力無しだって?
転生の感覚が解け、身体の感覚が戻る。眼を開けると見知った、というよりは懐かしい天井が見えた。
「知ってる天井だ。」
誰もいないと分かっている。一人呟く。
周りを見ればゴミゴミゴミの山。俺の捨てたゴミのはずなのに、記憶にない。
閉め切られたカーテン、いつ干したのか分からない布団、その部屋に唯一ゴミに埋もれず存在しているパソコン。くたびれた俺の部屋。
あろうことか異世界を救ったはずの俺はキモオタ引きニート久宮衛の身体に戻されてしまったのだった。
ファンタジー成分はここで終了です。
2話3話は出来るだけ早く上げたいけれど、すこし難しいかも。