計算迷宮(21)
「レウインデはパラレスケルのこと何て言ってた?」
ダーと女の子3人がミーティングルームから部屋に戻ったところで、ジムドナルドが切り出した。
「行くのなら止めないけど、見るべきものは無い所、だそうだよ」
タケルヒノの言葉に、ジルフーコが解説を入れた。
「白色矮星を中心にガス状物質に満たされた胞宇宙だよ。重力均衡が取れるほどの惑星も存在しないし、漠然と何かがある、って感じのところかな」
「そんなところが、何で、光子体の楽園なんだ?」
ビルワンジルの問いに、他の3人が同時に答えようと口を開いたのだが、互いに気がついて譲り合いになった。
「せっかく途中まで説明したんだから、ジルフーコお前がやれよ」
「いや、物理的には、もう何も言うこと無いんで、心理学なり宗教学の見地でジムドナルド、どうぞ」
「光子体だぞ? 心理も、宗教もあるか、ああ、もういいや、タケルヒノ説明してくれ」
「何で、僕が?」
「ああ、そうだ、説明は、タケルヒノがいいな」
「誰でもいいから、早いとこ頼む」ビルワンジルが急かした「オレも、まあ、タケルヒノがいいかな」
誰ももう口を開きそうにないので、しかたなくタケルヒノが説明しだした。
「光子体は情報体の中でも特に他から影響を受けやすいんだ。情報核がしっかりしてれば問題はないんだが、理論上不死、なんて言葉に惑わされて光子体になったような輩は、維持するのがとても難しい」
「最初の光子体とかレウインデとかゴーガイヤみたいなのは殺したって死にやしないから全く問題ないけどな」
何故かジムドナルドはうれしそうだ。
「みんななってるから、俺もあたしも、みたいなのは、あっという間に散ってしまう」
「それは光子体だけでなく、情報体すべてに共通する性質だ。それに加えて光子体は光や重力エネルギーにも弱い」
タケルヒノが付け加えた。
「ゴーガイヤはオレの槍を受けても復活したようだが」
ビルワンジルのコメントに対して、タケルヒノは肯きながらも説明を続ける。
「もし確固たる意志をもって情報核が構成されていれば、外からエネルギーを供給するだけで光子体は復活できる。逆に情報核の構成があやふやで内部整合性が取れていなければ、少しの外乱で光子体は散る」
「なんか根性のあるやつが生き残るみたいな話だな」
「ちょっと違うかな」
こんどはジルフーコが口をはさんできた。
「根性っていうのは、まあ、体を脳の指令で無理やり動かすことの総称だから。光子体はもう体がなくて情報だけなんだ。構成された情報の内部整合性がとれなければ、崩壊する」
「根性だけでは体も動かんさ、スポーツマンならよく知ってる」
ビルワンジルは笑った。
「地球人がみんなスポーツマンじゃないのと同じで、光子体にも向き不向きがある」
そういうタケルヒノの顔はお世辞にも楽しそうとは言えないものだった。
「第一光子体なら光子体の良い所も悪い所も知り尽くして光子体になったのだろうから、問題は起こりようもない。問題なのはあまり光子体に適正がないのになってしまった光子体だ。そういう光子体が楽に光子体でいられるのがパラレスケルだ」
「主星の白色矮星は光が弱く、光子体の情報核をかき乱さない。光子体にとってほどよい暗さの光を投げかけてくれる」
ジルフーコは白色矮星のことを薄暗いランプのように言う。
「惑星といえるほどの大きさの星も無く、公転により重力場を乱す天体はごくわずかしかないのさ。重力変動もとても平坦で、エウロパのときのような極端な変動場は生じないんだ。あんな所に居るためには、ゴーガイヤのような強靭さが必要だからね」
「光エネルギーと重力エネルギー、双方が、極めてなだらかで変動の少ないのがパラレスケルの特徴だ」
タケルヒノは坦々と話す。
「光子体の中でも外乱要因に弱い者たちにとって、非常に住みやすい。それが理由で光子体の楽園と呼ばれている」
「レウインデは、もっと簡単に言ってたな」
ジムドナルドは立ち上げ機の中に来ていたレウインデを思い出していた。
「あそこにはクズしかいない。なかなか辛辣だが、まあ、レウインデの本音だろう」




