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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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計算迷宮(19)


「さっき、レウインデが来てた」

 部屋に戻るなり、イリナイワノフが皆に向かって言った。

「おや、やっぱり来たんですか」

 ダーが言う。

 ダーは宇宙船(ボード)に移ってから、半ば強制的に、夜は女の子たちの部屋で過ごすことになってしまった。もちろん、ダーに睡眠の必要はないが、3人娘の誰かが夜起きた時に、ダーが部屋にいないと大騒ぎで探しまわるので、夜は部屋でじっとしていることにしたのだ。

「やっぱり、って来るの知ってたの?」

「ええ。立ち上げ機(ピスアール)で作業していた時に、会ったんですけど、ジムドナルドがシールド外すからおいで、みたいなことを言ってました」

「へぇ、そうだったんだ。あと、レウインデと一緒にゴーガイヤも来てたよ」

「ゴーガイヤも?」ベッドに寝転んでいたボゥシューが半身を起こした「何でまた、ゴーガイヤが?」

「知らない」イリナイワノフは答えた「なんか最初、ビルワンジルに話してたんだけど、あたしのほうに向かってきたから、えいっ、って…」

「また、やっつけちゃったんですか?」

 サイカーラクラが驚いて声を上げるものだから、イリナイワノフのほうもびっくりして否定する。

「違う、違う。こう、ぱーん、と警棒当てただけで、ぱーっ、て、ゴーガイヤがはじけちゃったから、でも、レウインデが大事そうなのひろって、大丈夫だって、言ってたから、やっつけたわけではない」

「はじけちゃったんですか?」

「そうそう、前にビルワンジルが槍を投げつけた時も、はじけてたから、はじけやすいんだと思うよ」

「そうなんですか? ダー?」

「あ、いえ、光子体(リーニア)は、そんなにはじけやすいわけではないですけど」

「違うらしいですよ。イリナイワノフ」

「違うよ。はじけやすいのはゴーガイヤだよ。レウインデがはじけたの見たことないもん」

「ゴーガイヤがですか?」

 イリナイワノフとサイカーラクラは同時にダーを見つめた。

「わたしはゴーガイヤに会ったことがありませんから」

「あたし、これで3回め」イリナイワノフが指折り数える「会うたびにちっちゃくなってる気がする。最初はもっと大きかったような」

「エウロパでは多目的機(マルチロール)より大きかったからな」

「そうそうそう」ボゥシューの言葉に相槌を打つイリナイワノフ「今日はレウインデの倍ぐらいしかなかった。ビルワンジルの1・5倍くらい」

「イリナイワノフが何度もやっつけるから、その度に小さくなってるんだろ」

「2回めはあたしじゃないもん、ビルワンジルだもん」

「でも、凄いですよね。3回のうち2回は、イリナイワノフがやっつけているんですよね」

 うっとりとした表情でサイカーラクラが見つめるので、イリナイワノフは必死になって否定した。

「だから違うってば、1回めはゴーガイヤは逃げて行っただけなの。2回めはビルワンジル。今日は違うって、やっつけたんじゃないって、レウインデが言ってたの」

「まあ、ゴーガイヤはいいとして」

 どうせ何を言っても、自分がやっつけたわけではない、とイリナイワノフは言い張るだろう。それより、ボゥシューは別のことが気になっていた。

「レウインデは何しに来たんだ」

「タケルヒノとよくわからないことしゃべってた」

「よくわからないこと?」

 ボゥシューの不審げな顔に、イリナイワノフも自信なげに答える。

「途中で知らない言葉に切り替わるんだよ。そのへんで、あたしもビルワンジルもわからくなる。それで、しばらくすると、また原語に戻るんだ。それの繰り返し。あたしにわかったのは第一光子体(ピスリーニア)の行方をタケルヒノが聞いて、レウインデが知らない、って言ったトコぐらいかな」

「ワタシたちがときどきやる、英語で話す(丶丶丶丶丶)のとは違うみたいだな」

 ボゥシューが首をひねった。それを見てイリナイワノフは自分の説明が足りないと思って付け足した。

「タケルヒノは自分のことをレウインデが試したんだ、って言ってた」

「試した? 何を?」

「よくわからない。レウインデもタケルヒノのことがよくわかっただろうから、あとはレウインデ次第だ、ってタケルヒノは言ってた」

「レウインデは、タケルヒノの能力を試したんですね」

 サイカーラクラが言い、ボゥシューが肯いた。ダーは特に動かなかったが、おそらく同意だったろう。

「タケルヒノの能力、って」イリナイワノフはおずおずと尋ねた「何?」

「私は最初、タケルヒノは何でも知ってるんだと思ってたんです」

 サイカーラクラは言い、しかし、ちょっと眉をしかめた。

「でも、それは少し違うみたい。ダーも何でも知っているけど、タケルヒノの能力は、ダー以上みたいですから」

「そうですね」ダーは答えた「わたしが知らないこともタケルヒノは知っていますからね」

「何それ、いったいどういうこと?」

 イリナイワノフは途方にくれて、泣きそうな顔になった。

「まあ、そんな顔するなよ」ボゥシューがイリナイワノフを慰めた「ワタシたちもタケルヒノのことはちゃんとわかってるわけじゃないんだ。そもそも、とうのタケルヒノにしてからが、自分のことをあまりよくわかってない。そのへんをきちんと説明できるのはジムドナルドぐらいだけど、たぶん、聞いたって教えてくれないしな」

「何でよ?」

「アイツは性格が悪い」

「そうじゃなくて」とうとうイリナイワノフは怒りだした「何でジムドナルドはタケルヒノのこと説明できるのか聞いてるのっ」

「だって、アイツ、タケルヒノのこと、やたら詳しいんだもの」

 ボゥシューは言ったが、その目は何故か寂しげだった。

「何故かは知らない。でも、羨ましいとは思う」

 


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