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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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計算迷宮(17)


 ダーは立ち上げ機(ピスアール)に戻って、引っ越しの最終確認をしていた。

 とは言ってもいちばん大事な荷物はダー自身だし、資材とケミコさんに関してはジルフーコが仕切っているので、ダーとしてはそんなにすることはない。

 お肉いっぱい持って行こうね、とイリナイワノフは目を輝かして言うのだが、実は養殖場(プラント)は一夜の饗応のために再稼働したようなもので、食材の量はそれほど多くない。無駄なことはしない、精緻な計画が信条のコンピュータとしての特性が裏目に出た感じだ。

 ダーにとって立ち上げ機(ピスアール)は、そんなに思い入れのある設備ではない。なんとなれば、その機能の半分はダーの完成ということで日の目をみたものの、残りの移住船としての機能はついに使用されることがなかったからである。朽ち果てさせるというのもひとつの手ではあるが、タケルヒノが最小限稼働域を維持しましょう、というのでその手続だけは取った。

 再立ち上げが面倒、という理由は確かにあるが、どうもそれだけでもなさそうだ。

 本当に、タケルヒノの考えていることはわからない。

 ダーにとって、それは、とても新鮮だった。

「もう、終わった?」

 宇宙服のジムドナルドが尋ねてきた。ビルワンジルは例の槍を持ってその隣にいる。

 彼らは護衛(丶丶)なのだそうだが、ダーに護衛(丶丶)が必要な理由がまたわからない。

「もう、作業は終わりました。帰りましょうか」

 そのまま宇宙船(ボード)に帰るのかと思われたジムドナルドだったが、通路の奥のほうを指さし、言った。

「じゃあ、あの奥の方にいるやつの相手してやってくれないか。作業中、ずっと張り付いてたんで、気味悪くてかなわん。たぶん、あんたに用があるんじゃないかと思う」

 闇と暗がりの中間のようなそれは、急速に近づくと共に光を増し、少年の姿を取るとはにかむように笑んだ。

「やあ、第2類量子コンピュータ」

「レウインデ、お久しぶりね」

「またまたぁ、この間、来たばかりじゃない」

「あなたの時間とわたしの時間は違いますから」

「なんなら席はずそうか?」

 ビルワンジルが言った。

「いいよお、そんな気を使わなくても、ホントはタケルヒノとも話したいけど、ガードが硬いからなぁ」

「一度しか言わないからよく聞けよ」ジムドナルドが腕時計のタイマーをセットしながら言う「いまから地球時間の7200秒後に15秒間シールドを開ける。そしてその3600秒後、トータルで10815秒後にシールドを5秒だけ開ける。以上」

「わかった」レウインデは短く答えた「でも、どうして?」

「パラレスケルに行くんだ。その前のほうがいいんだろ?」

「パラレスケル? あそこはクズしかいないのに、何でまた?」

「クズの親玉に用がある」

第一光子体(ピスリーニア)? でも、最近のパラレスケルは皇帝陛下よりだよ?」

「その両方に用がある」

 はーん、レウインデはやんちゃな笑顔を返し、ジムドナルドにはもう何も言わなかった。かわりにレウインデはケミコさんの形をしたものに話しかけた。

「彼らと一緒に行くんだね」

「そうです、途中までね」

「途中?」

「わたしが自分で超えられる胞障壁(セルレス)の前まで、連れて行ってもらいます」

 突然、レウインデは笑い出した。もう、面白くてしょうがないという感じで、笑い続ける。

「何それ、凄いなあ。皇帝陛下が聞いたら、破裂しちゃうんじゃない? 早く教えてあげなきゃ」

「あんまりいじめると、本当に破裂しますよ」

「あれ、そんなタマじゃないから、破裂するんなら、さっさと破裂してほしいよ、ホント」

 ここでレウインデは何かを思い出したらしい。ビルワンジルにむかって声をかけた。

「あ、君、君、えーと、だれだっけ? 君」

「ビルワンジル」

「そぉう、ビルワンジル、忘れてたわけじゃないよ。ちょっと名前が出てこなかっただけ、それでね、ビルワンジル。うちのゴーガイヤ、覚えてる? そう、そう、あの、気の短いの。彼、君に会いたいんだって」

「再戦でもするのか?」

「いやあ、彼、潔いからそんなことはないんだけど、どっちかって言うと、もっと面倒な話かな。うん、まあ、今度、一緒に連れてくるから、よろしくね。じゃあ、私、もう行くから、また来るね、きっと来るから、タケルヒノによろしく」

 現れたときとは逆に、レウインデは光を落としつつ廊下のすみに後退し、闇に溶け込んで行った。

「あいかわらず、やかましいヤツだな」

 レウインデを見送ったジムドナルドが呟いた。

「いいんですか? あんな約束して」

「ん? ああ」ジムドナルドはダーの問いに答えた「毎回、毎回、タケルヒノと話しさせろってうるさいからなあ。一度話したら落ち着くだろ」

「だと、いいですけど」

「ダーもタケルヒノと話したんだから、わかるだろ? そんな何回も話したくなる相手じゃないんだよ」

 なるほど、と一瞬、ダーは納得しかけたが、目の前のジムドナルドを見て、思い直した。

「ジムドナルド、あなたはよくタケルヒノと話してますが、それはどうなんですか?」

「俺はいろんなものに話しかけるんだ。椅子とかテーブルとか柱とかスプーンとか、それとコンピュータとか」

 ジムドナルドは言った。

「だから、タケルヒノにだって話しかける。それにな、タケルヒノだって宇宙の真理みたいな話をしなけりゃ、別段、とっつきにくい、ってわけでもない。頭の中身がおかしい以外は、これといって悪いところもないわけだしな」 

 


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