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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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計算迷宮(16)


「サイカーラクラの件はひとまず落ち着いたらしいな」

「まあ、なによりだよ。いろいろ問題はあるらしいけど」

「あんなのは問題のうちに入らんさ、さて、となると…」

 ジムドナルドがにじり寄ってくるので、タケルヒノは嫌な予感がしていたのだが、仕方なしに相手している。

「次はいよいよお前の番だ」

「そうか、それはありがとう」

「何が、ありがとう、だ?」

「僕は自分のことは自分で解決できないから、もしどうにかするんなら、君がやるんだろ?」

 ジムドナルドは間を開けて、ソファに腰を降ろすとそのまま寝転んだ。持久戦らしい。

「だいたいなあ、お前とサイカーラクラは、最初から分かりにくかったんだよ」

 ミーティングルームには、ボゥシューとジルフーコも居て、素知らぬ顔で、2人の会話に聞き耳をたてている。たぶん、それも、ジムドナルドとしては狙っているのだろう。

「それで、サイカーラクラのほうが落ち着いたから、今度はお前の番だ」

「分かりにくいのは認めるけど、それは僕のせいじゃない」

「そんなことは知ってる」

 ジムドナルドはソファに寝そべり、右肘で頬杖をついた。

「問題はお前じゃなくて、最初(ピス)光子体(リーニア)だ。そんなことはこの宇宙船(ボード)に乗ってるやつなら誰でも知ってる。だから、最後に責められるのはお前じゃなくて最初(ピス)光子体(リーニア)だから安心しろ」

――最後は、ってことは、途中、責められるの必至じゃないか。

 おまけにジムドナルドの場合、その最後ですら怪しいわけだから、タケルヒノとしては全く面白く無い。

「そう、最初から行こうか」

 タケルヒノがふさぐほど、ジムドナルドは饒舌になる。

「他の5人の話からだ。目立ちすぎる、ぱっと見、地球人のローティーンを選抜したら、すぐに思い浮かぶようなやつか、さもなければその道のプロご推薦みたいなのばっかりだ。イリナイワノフの先生(丶丶)、デニーキン少将なんか、地球の軍関係者なら名前聞いただけでびびるような人だ」

「ビルワンジルは?」

 面白がってジルフーコが口をはさむ。

「12才のときから、10種競技の最年少記録塗り替えてるからなぁ。もっとも本人曰く、いちばん得意なのはロッククライミングらしいんだが。ついでだが、そこにいるボゥシューはタイムの表紙を飾ったことがある」

「あれは盗み撮りだったんだ」

 突然、話を振られたボゥシューは声を荒らげた。

「しかも、ロジスティックスの神様の娘、11歳で大学入学、だぞ。父さんが抗議して、電子版は写真を父さんのに差し替えさせた」

「載ったのは事実じゃないか」

「オマエも載ったろ?」

「俺のは写真写りがいまいちだったから、何度も差し替えした」

「写りの問題じゃなくて、オマエの底意地の悪さが写真に出るんだ」

「あー、なんか、成り行き上、ジムドナルドに言われたら腹が立つから自分で言うよ」

 ジルフーコがボゥシューとジムドナルドを制して話し始めた。

「ボクの両親はボクがこの世に誕生する前に死んでた。どっちもフランス屈指の天才だったらしいよ。両親の死後、凍結保存されてた卵子と精子を体外受精して、子宮を貸してくれたお母さんから生まれた。ボクが載ったのはタイムじゃなくてネイチャー、論文自体はまともだったんだろうけど、いろいろ叩かれて主導した教授は更迭された。以上」

 そして、ジルフーコはボゥシューのほうを向いて、照れくさそうに笑った。

「そういう事情で、細胞提供にはちょっと抵抗があるんだ」

「ま、しょうがないな。気が変わったら教えてくれ」

「なんかいろいろと暴露合戦になってしまったようだが、話をもとに戻すぞ」

 自分が原因なのは完全棚上げのジムドナルドである。

「まあ、そんなわけでスクリーニングにかけたらこの5人はどうしても上がってきてしまうんだ。他に凄いのもいたかもしれないが、入ってきても全然おかしくない程度にはこの5人は有名だ。一方…」

 ジムドナルドは、じろり、とタケルヒノを見た。

「サイカーラクラとタケルヒノ、一目見れば明らかにおかしいのはすぐわかるが、データだけじゃなんのことやらだ。ゴシップ誌スクラップ王の目に取りこぼしがあるとか、にわかには信じがたいわけで…」

「ゴシップ誌スクラップ王って誰だ?」

「俺だよ。俺」ジムドナルドは自分を指さした「俺の数少ない趣味のひとつなんだ。口出しはやめてくれ」

「それについては口出ししないけど」

 タケルヒノが言った。

「サイカーラクラは宇宙最高のコンピュータの部分集合(サブセット)なんだから、ある意味、乗ってて当然じゃないか」

「そりゃ、いまになってみればそう言えるし、そもそもサイカーラクラを入れた最初(ピス)光子体(リーニア)はそれを知ってたんだから、乗せて当然だ」

 ジムドナルドは、ここで言葉を切り、まじまじとタケルヒノを見つめた。

「お前が選ばれた理由はなんだ? 言っておくが、胞障壁(セルレス)を超えられそうだから、なんてのは無しだぞ、地球でそんなことわかるはずがないからな」

「お言葉を返すようで悪いんだけど」こういうときのタケルヒノはすこぶる歯切れが悪い「もしかしたら、それが理由なんじゃないかと思う」

「何?」

「いや、いまは推測だけなんで、なんとも言えないんだが。もう一度、第一光子体(ピスリーニア)に会って話せばはっきりするんだろうけど…」

「おいコラ」ジムドナルドはソファから立ち上がった「いま、何て言った。もういっぺん言ってみろ」

「いや、だから…」タケルヒノは口ごもりながらも続けた「もう一度、第一光子体(ピスリーニア)と話せばはっきりすると思う、って」

「もう一度、って、前に会ったことあるのか?」

「いや、わからないよ」タケルヒノはいちおう抗弁した「なんとなくそんな気がするだけだ。そもそも、叔父、っていう触れ込みだったんだよ。でも、父とも母とも似てないし、どっちの兄弟なのか聞くとときどき間違えたりで、とにかくいい加減な人だった」

「俺の最初(ピス)光子体(リーニア)のイメージにもかなり近いぞ。それで?」

「いちおう父母にはことわってたらしいが、よく初めての色んな所に付き合わされた。日本国内のこともあったけど、海外も多かったな。僕の反応を楽しんでいると思ってたんだが、いまから思うと観察されてたのかもしれない」

「で、何か言ってなかったか? 宇宙のこととか?」

「宇宙の話はどうだったかな。でも、大きくなったら叔父さんの会社で働かないか、とは言われた」

「で? 何て答えた?」

「できれば将来の妻や子と仲良く過ごしたいので、転勤の多い仕事は、ちょっと…、と答えた記憶がある」

「お前、ってほんとうに正しいことしか言わないんだな」

 もういいや、という感じで、ジムドナルドはソファに腰を降ろした。

「それで、こんな茶番を思いつきやがったか、いかにも最初(ピス)光子体(リーニア)のやりそうなことだ」

「どういうことだ?」

 話の成り行きについていけないボゥシューが尋ねた。

「地球は可能性の宝庫だった。あるいは君たちなら私の果たせなかった夢を叶えられるかもしれない。すべての種族が障壁を超え、互いに語り合える世界を」

 ジルフーコが言い、タケルヒノが後を引き継いだ。

「エリスに乗り捨てられてた第一光子体(ピスリーニア)の宇宙船からのメッセージだ。胞障壁(セルレス)突破用の解と一緒に付けられてたから、ありきたりな激励文だと思ってたが、あるいは第一光子体(ピスリーニア)の本音かもしれない」

「それはいいけど、茶番、ってなんだ?」

「たとえば俺たちを無理やりさらって来て、胞障壁(セルレス)を超えさせるなんてこと、できやしないんだ」

 こんどはジムドナルドが説明する。

「そんなことしても、最初(ピス)光子体(リーニア)の言うことなんか俺たちは聞かないからな。スキ見て逃げ出されるのがオチだ。それぐらいのメンバーを最初(ピス)光子体(リーニア)はそろえた。実際、一度、地球に帰ってるくらいだ。だから、こんなよくわからない状況を演出した。俺たちの好奇心と探究心を刺激して、最初(ピス)光子体(リーニア)を探させることにしたんだ」

「同意はするが、その説も想像の域を出ない話だから、やはり直接あって話したほうが良さそうだ」

 タケルヒノはコンソールを操作し、サイカーラクラの作った胞宇宙(セルベル)マップを開いた。

「次は、パラレスケルか。あまり近寄りたくないが迂回してる時間もなさそうだ。それに第一光子体(ピスリーニア)の情報は入手しやすいかもしれない」

「どんなとこなんだ? そのパラレスケルってのは?」

光子体(リーニア)の天国って呼ばれてるらしい。かなりの数の光子体(リーニア)がいる」

光子体(リーニア)なんて、どこにでも行けるのが唯一利点らしい利点なのに、なんで固まってるんだ?」

 ジムドナルドの問いに、ボゥシューが珍しく罵倒抜きで答えた。

「その唯一の利点を、利点と考えられない光子体(リーニア)ばかりいるってことだろ。タケルヒノが行きたくないってのもわかる。でも、第一光子体(ピスリーニア)の情報を得るんなら、やっぱり、光子体(リーニア)に聞くしかないんだろうな」

 

 

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