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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人
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閉塞空間(4)

 

「なんだ、こりゃ」

 食堂のラウンドテーブルの上、四角い白色のプレートが乗っている。そこに書かれた文字(セルレス)にビルワンジルは頓狂な声をあげた。

 

――重力区画2出張中――

 

 「タケルヒノだよ」いつもはタケルヒノのいる席に今日はジルフーコが座っている「トマトの苗の植え直しで、今日は一日むこうだってさ」

「ああ」と、意味ありげに顔を緩めるビルワンジル「食っちまったヤツがいるんだよな」

「食っちまった?」

「まだ緑色で熟れる前のトマト」

「へぇ」

 

 「わぁ、なんだ、タケルヒノいないのか、困ったなー」

 そこいら中に響き渡らせ、ジムドナルドがやってきた。

「今日は一日、畑仕事らしいよ。用があるんなら、重力区画2に行ってみれば?」

 ジルフーコが言うと、いや、あそこは、ちょっと、などと急にトーンダウンするジムドナルド。

――コイツか、ジルフーコは思ったが、とくに口には出さなかった。

 

「ひどい有り様だね」

 掘り返された畑を覗きこんで、イリナイワノフが言う。

「まあね」タケルヒノは苦笑いだ「まだ小指の先ほどのトマトを食べたらしいんだが、あまりおいしくなかったらしい。これは、根の方に何かあるのではないかと調べてみた、というのが本人の言い訳なんだけど…」

「頭おかしいんじゃないの」

「彼のプロファイルによると、11才で博士号をとった天才のハズなんだが」

「何の博士号?」

「社会宗教学」

「うさんくさいなー、神童って、数学とか、科学とかそういうイメージがあるけど…」

「それはジルフーコのほう、もっとも彼はまだ博士課程で、学位はもってないけど」

「ワタシはアナタのほうが不思議だと思うぞ」声の方に振り向くとボゥシューだった「タケルヒノ、アナタは何者?」

「何者って言われても」タケルヒノは困惑を隠せない「ただの中学生だよ、あなたと違って飛び級とかしてるわけじゃないし」

「そういうことを言っているのではない。ワタシは大学で勉強していたけど、それは親が金持ちで、ワタシにたくさん勉強させたからだ」ワタシのことはどうでもいい、と、ボゥシューは強調する「タケルヒノ、何故、アナタはなんでも知っているんだ?」

「情報キューブを検索すれば、なんでも出てくるよ」

「そういうこと言ってるんじゃないのに」ボゥシューのテンションがどんどん上がってくる「知ってることは検索すれば出てくるよ。タケルヒノ、アナタ、誰も知らないことを知ってる。何故?」

「あ、ボゥシューの言いたいこと、あたし、わかる」イリナイワノフが間に入った。ボゥシューとタケルヒノの顔を交互に見比べ、最後にボゥシューにむかって言った「でもさ、それ、タケルヒノに聞いてもわかんないよ、たぶんだけど」

 おぅ、と手を叩いてボゥシューはあっという間に得心してしまった「イリナイワノフ、頭いいね」

 タケルヒノだけ、なんだかわからない。

「今日は違う用事で来たんだよ。タケルヒノ」ボゥシューは思い出したらしい「サイカーラクラに謝りたい。どうしたらいいかな」

「この間の喧嘩のこと?」

「そう」

「普通に謝ればいいんじゃないかな、彼女、そんなに気にしている感じでもないし」

「ワタシも普段はあまり気にしてないんだ、ほんとは。でも食堂で顔を隠すから、ついイライラして」

「あ、それわかるな」タケルヒノも同意した「近づくと、こう、パシっとシャッター閉めるんだよね。悪気は無いんだろうけど、確かにイラつく」

「近づくと閉める? 誰が?」

「サイカーラクラが」

「え?」

「え?」

 イリナイワノフとボゥシューは互いに顔を見合わせた。

「ごめん、用事思い出した。帰る」ボゥシューは、突然、くるりと踵を返した。

「あ、待って、あたしも」イリナイワノフも弾かれたように後を追う「ごめんね、タケルヒノ、また今度」

 

 無重量区画に続くエレベーター、ドアが閉まるなり、ボゥシューが吠える。

「前言撤回、タケルヒノは馬鹿だ」

「馬鹿じゃなくて、鈍いんだと思う。男ってあんなもんじゃないかな」

「とにかく、サイカーラクラと話する。抜け駆けは許さない」

「抜け駆け、って、彼女、まだ何もしてないでしょうが」

「されてからじゃ遅い、サイカーラクラは美人だから。スタイルもいいし」そしてボゥシューは、イリナイワノフをキッと睨んだ「抜け駆けはぜったい許さない。アナタもだ、イリナイワノフ」

「あ、あたしぃ?」今度はイリナイワノフが叫ぶ「あたしは関係ないでしょ」

「関係ないなら、いい」

「いえ、あの、そういうわけじゃ…」

「そら見ろ」

「とにかく、大声出すのは、やめてよ」イリナイワノフはボゥシューの口を押さえて、自分も声のトーンを下げた「誰かに聞かれたら…、とにかく、女の子以外がいるときは、この話、ぜったいに、しないでよ」

 

 

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