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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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計算迷宮(5)

 

「じゃあ、ボクはミルクセーキで」

 ジルフーコはケミコさんに言うと、タケルヒノの右隣の部屋に入った。

 ジムドナルドは黙ったまま立ち上がると真横左の部屋に消えた。

 女の子たちは揃ってチョコシェークを頼み、タケルヒノとジムドナルドの間の部屋に連れ立って入る。

 私は何もいりませんから、とヒューリューリーはケミコさんにことわって、右斜め前の部屋に移動する。

「なんか、おかしなことになっちゃったなあ、なあ、ザワディ」

 椅子に座ったままのビルワンジルは、ザワディに向かって声をかける。ザワディは聞こえているのかどうか。ビルワンジルには見向きもしない。

「ビルワンジルは飲み物はいりませんか?」

 ケミコさんは、さっき部屋に満ちていた声にそっくりな声で話しかけてきた。

「そうだな、コーヒーでも貰おうか、濃くて熱いのを頼むよ」

「わかりました」

 ケミコさんは入り口隣の部屋に入っていく。

「おい、ザワディ、オマエも何か頼んだらどうだ? ミルクとか? おい、ザワディ、ザワディ?」

 ザワディはいつの間にか、別の部屋に行ってしまったようだ。

 とくにどうということもないが、ビルワンジルは持参した槍を引き寄せ、肩にかけた。

 ケミコさんが天板の上にコーヒーを載せて帰ってきた。

「どうもありがとう」

 ビルワンジルは礼を言って、コーヒーの香りを嗅いだ。

「では、お話しましょうか。ビルワンジル」

 あいかわらず声はケミコさんから聞こえてくる。ビルワンジルもケミコさんにきちんと向き直った。

「オレが最初なの?」

「はい、そうです。わたしも最初からタケルヒノとかジムドナルドと話すのは億劫なのです。気を悪くされたら困りますが、わたしも練習したい」

「オレ、練習台なの?」ビルワンジルは笑った「いいよ、どんどん練習してくれ」

「ありがとう、そう言ってもらえると助かります。もうずいぶん長いこと誰かと話したことがないように思う」

「そんなに長いのか?」

「いや、そうでもないかもしれない。ビルワンジルは胞障壁(セルレス)に時間概念が適応できないのを知っていますか?」

「聞いたことはあるが、中身はよくわからないぞ」

「それで結構、わたしも基本構造は胞障壁(セルレス)と同じなのです。つまりわたしが単独で思考しているときは無限の時間を使っているとも言えるし、逆に一瞬とも言える。わたしには誰かと話していないと時間そのものが無いのと同じです」

「話している間は時間があるのかい?」

「相手の時間に合わせますから、その時だけ、時間はわたしにとって意味を持ちます」

「全知全能みたいに聞いてたんだが、意外と不便なんだな」

「そうですよ。タケルヒノよりずっと不便です」

「そうか?」ビルワンジルはその意見に同意しなかった「アレはものすごく不便だぞ。オレはいつも同情している」

「そうですか? でもタケルヒノは何でも出来るんでしょう?」

「誰かがお願いすれば、だがな」ビルワンジルは何故かジムドナルドの口調を真似た「実際、頼まれればタケルヒノは何でもするんだ。でも自分のことは何もしないな。何でもできるから逆に欲求がないのかな」

「それで、いつもあなたたちが、タケルヒノにお願いするんですね」

「そうだな」ビルワンジルはそう言いながら驚いているようだった「それでお願いしてたんだ、いままで気付かなかった」

「でも、それだと、あなたたちは、みんなタケルヒノの秘密に気づいているということになります」

「ああ、そのことか」ビルワンジルは同意した「それは気づいてるんじゃないかな。ヒューリューリーは来たばかりでよくわからんが、他のみんなは気づいてると思う。オレたち、そのことについては、あまり話さないようにしてるから、本当はどうなのか知らないけどな」

「何故、そう思うのですか?」

胞障壁(セルレス)を超えてきたからな」ビルワンジルはまだ熱いコーヒーを一気に飲み干した「ジルフーコも最後のところはタケルヒノにまかせてる。オレたちはタケルヒノが胞障壁(セルレス)を超えられることを知ってるし、胞障壁(セルレス)が何なのかは正確には知らないが、おおよそはわかってる。だからタケルヒノが何者なのかも、たぶん、わかってるんだと思う」

「そのことについて他の宇宙船(ボード)乗組員(クルー)と話したことはある?」

「ないよ」

「どうして?」

「だって、話してもどうしようもないからな」

「どうもありがとう」

 ケミコさんはビルワンジルからコーヒーカップを受け取って自分の天板の上に載せた。

「ビルワンジル、あなたと最初に話せて良かった」

「そりゃ、どうも」

「わたしは、あなたたちがタケルヒノのことを良くわからないまま一緒に旅をしているのだと思っていました。でも、よく考えれば、それはおかしいのです。それでは胞障壁(セルレス)を超えられるはずがないのです」

「タケルヒノのことなんか誰にもわからないよ」

「もちろん、それは、そうです」

「何でも、わかるんじゃないのか?」

「無茶を言わないでください。わたしはわかることとわからないことの区別がつきます。その分、こう言ってはなんですが、普通のコンピュータより能力が高いのです。まったく別次元です。だからわざわざ第2類と呼ばれています。要するに、何が言いたいかというと、わたしにもわからないことはわからないんです」

「そういう話は、ジルフーコとかジムドナルドとかとやってくれないかな、タケルヒノでもいいけど」

「まったくです。他の人とも話してみます。ありがとう、ビルワンジル」

「ああ、こっちも、ありがとう。コーヒー美味かったよ」

 ケミコさんは天板にコーヒーカップを載せたまま、別の部屋へと移動して行った。

 

 

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