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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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再びセルレスへ(3)

 

「ヒューヒューさんは第2類量子コンピュータに興味はありますか?」

「いいえ、あんまり」

 ヒューリューリーはサイカーラクラに体を丸めて見せた。これは発音ではなくて感情表現らしい。

「コンピュータには興味がないんですよ。それより私は胞障壁(セルレス)のほうが気になります」

「そうですよね」

 サイカーラクラはちょっぴり残念そうだった。

胞障壁(セルレス)にはどれくらいかかるんでしょうか?」

「艦内時間であと10日くらいらしいです」

「らしい? ですか」

 ヒューリューリーはサイカーラクラが見たこともない仕草で体をくねらせた。

「らしい、のです」サイカーラクラは強調しつつ繰り返した「胞障壁(セルレス)付近では時間の概念が怪しいらしくて、正確には言えないんだそうです。私、よくわからないんですけど…、もし詳しい話が聞きたいのなら、タケ…」

「タケルヒノに聞けばいいんですね」

「はい、そうです」

 サイカーラクラは、ホッとした表情で微笑みかける。

 ヒューリューリーは迷ったが、思い切って尋ねてみた。

「タケルヒノ以外の人に聞くのはどうなんでしょう? たとえばジルフーコとか?」

「ジルフーコは説明を嫌がりますね」サイカーラクラの目は天井を向いている。それは考え事をしているようでもあり、何かを誤魔化しているようにも見えた「タケルヒノとは胞障壁(セルレス)について話しているのをよく見かけますが、他の人に説明するのは嫌みたいです」

「ボゥシューは?」

「ボゥシューは自分の専門以外では難しい話はしません」

「ビルワンジルは?」

「ビルワンジルも自分の仕事以外は興味ないみたいです」

「イリナ…」

「イリナイワノフは私と同じです」

「ジムドナルドは?」

 この時ばかりは、サイカーラクラも真剣な顔で答えた。

「それだけは絶対にやめておいたほうがいいです」

 サイカーラクラは更に念押しをした。

「ヒューヒューさん、ジムドナルドにそんなことを聞いてはいけません。きっとヒドイ目に会うと思います」

 

「と、まあ、こういうことなんですが、わかりました?」

 結局、ヒューリューリーはサイカーラクラの助言に従い、タケルヒノを訪れた。とりあえず話を聞いた今、かなり後悔している。

「まあ、他のみなさんと同じくらいには」

「そうですか、それは良かった」

 まったくわからなかった、を婉曲に伝えたつもりだったが、タケルヒノには通じないみたいだった。

「落ち着いて考えれば、そんな難しい話ではないんですよ。大事なのは、何かあったら光子体転換して脱出するということです」

光子体(リーニア)になるのですか?」

「最悪の場合です」タケルヒノは最悪(丶丶)をとくに強調した「胞障壁(セルレス)を超えるのはもう成功してますからね。一度だけですけど。何事にも不測の事態というのは起きるわけですから。もともとこの方法は光子体(リーニア)が他の胞宇宙(セルベル)に機材を持ち込むのに使ったのがはじまりで…」

「何ですって?」

「いや、だって、光子体(リーニア)だけが胞障壁(セルレス)を超えても、そんなにたいしたことはできないから、機械とかコンピュータとかいろいろ持ち込みたいわけじゃないですか、胞宇宙(セルベル)の中にそういうものを持ち込めれば、何をやるにもいろいろ捗るという」

「何故、光子体(リーニア)は、そうしないんですか?」

「いや、やったんですけどね。宇宙船で胞障壁(セルレス)を超えるんだけど、失敗したら光子体(リーニア)は適当な胞宇宙(セルベル)に帰れば良いだけですが、宇宙船はおじゃんです。どこかよくわからない次元の狭間に消えてしまうのかな? 第一光子体(ピスリーニア)の場合で成功率0・11%という記録があります」

「1000回に1回しか成功しない?」

「違います。25481回に28回の成功です」

「他の光子体(リーニア)の成功率はもっと低いんですか?」

「ゼロです」

「え? それは…」

 ヒューリューリーの回転は途中で失速した。

第一光子体(ピスリーニア)以外での成功例はありません。だって、いくらなんでも、こんなこと何万回もやりませんよ。宇宙船造るのだってたいへんなんだし」

「そうですね」

 ヒューリューリーの体のキレはあきらかに悪い。相槌すら、自信がない感じだ。

 ヒューリューリーはとても大事な何か(丶丶)を聞きにきたはずだった。でも、もうとても疲れてしまって、何を聞きに来たのかすら忘れてしまった。

 ヒューリューリーは何故みんなが、タケルヒノに聞け、というのかわかった気がした。誰もが本当のことを知りたい。タケルヒノはそれを教えてくれる。けれど、タケルヒノの話を聞くのはとても疲れるのだ。だから代わりに誰かに聞いて欲しいのだ。

「あの…、ヒューリューリー?」

 タケルヒノが声をかけた。心配そうな顔をしている。

 ヒューリューリーは力を振り絞って、上半身を回転させた。

「ありがとう、タケルヒノ」ヒューリューリーは言った「いっぺんに全部は無理そうなので、また後で話を聞かせてください」

 

 


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