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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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再びセルレスへ(1)

 

 サイユル―ベルガー星系の第5惑星は、ジルフーコの言う通り、火星に似ていた。大気はあるが酸素は無く、気圧は低い。宇宙服は必須である。

 最近のヒューリューリーは宇宙服を着ていても素早く動く。慣れもあるだろうが、オーダーシステムも使いこなせるようになってきたので、自分なりにかなり改良しているらしい。

「ごきげんだな、ヒューリューリー」

「ごきげんありますが、はじめて、はじめて、たいへんに楽しい、あ、やっぱりダメですねえ」

 いちおう大気があるので、体を振ってボゥシューに普通に話しかけてみたヒューリューリーだが、マイクで拾って翻訳されるのを聞いて無理と悟ったらしい。いつもの操作盤に切り替えた。

 隣のザワディに宇宙服のまま巻き付いて、連れて行ってもらう。最初ザワディのことを怖がっていたヒューリューリーだが、最近はすすんでこれをやる。

「ザワディは本当に気高き獣(ファローフル)によく似ている」ヒューリューリーは操作盤を叩く「そう言えばあなたがたもベルガーに似たところがあるし、あなたたちの知っている動物で私に似ているものはありますか?」

「蛇が似てるかな、ちょっと違うけど」

「蛇ですか」

「舌が長くて、口が大きくてがばって開くんだ。自分の頭より大きなものを飲み込む」

「何それ? 怖いです」

「似てるのは、細長いとこだけだからな。地球とサイユルじゃ、違うところのほうが多いよ」

「それもそうです。帰ったら情報キューブで調べてみます」

 

「よく考えると、あの太陽って、地球の太陽じゃないんだね」

 空を見上げて、天中にうっすらと小さく輝く太陽を見つめながらイリナイワノフが言う。

「それもそうだな。サイユル―ベルガーの太陽、なんか変だな。おい、ヒューリューリー、あれには名前ついてないのか?」

「太陽は太陽ですよ」ヒューリューリーはイリナイワノフとジムドナルドに説明した「私からすれば地球の太陽のほうが別の太陽です」

「おい、ボゥシュー、お前、星くわしいじゃないか、あれは地球ではなんて言うんだ?」

「お前、胞障壁(セルレス)の説明聞いただろ、馬鹿め。地球から見える星は胞障壁(セルレス)に映る影みたいなもんで実体はないんだ。あの太陽は地球からは見えない。地球人が名前をつけられるわけがないだろ」

「理屈を言うな、理屈を」ヘルメットの中にジムドナルドの声が、がんがん響く「俺はあの太陽が何ていう太陽なのか知りたいだけなんだ」

「そんなことは、タケルヒノにでも聞けばいいだろ。ワタシに聞くな」

「言われなくても帰ったらそうする」

 ヒューリューリーは通信路を切り替えてイリナイワノフにだけメッセージを送った。

「みなさん、ときどき、タケルヒノに聞けって、言いますけど、どういう意味ですか?」

 イリナイワノフは困惑したが、彼女もヒューリューリーにだけ返事した。

「どうって言われても、わからないことはタケルヒノに聞くの。みんなそうするよ」

「タケルヒノだって知らないこともあるでしょう?」

「無いよ」

「無い?」

「無いんだよ」イリナイワノフは誰かに説明することに慣れていないので、もどかしそうだ「タケルヒノにはわからないことなんて無いんだよ。頼めば説明してくれるし、説明はよくわからないんだけど。だからあたしはあんまりタケルヒノには聞かないの。これはタケルヒノのせいじゃないけど」

「なんとなくわかったような気がします」

「ほんと?」

 イリナイワノフの笑顔が遮光スクリーン越しにもわかったので、ヒューリューリーは次の言葉を叩くのをやめた。

 

農場(ファームゾーン)に来るなんてめずらしいな」

 ビルワンジルがジルフーコに声をかけた。

「うーん、ケミコさんの調子を見にね」

「そっちのほうか」

「野菜作りにも興味はあるんだけどさ」

 ジルフーコはケミコさんの背面を押してパネルを開ける。このへんが面白いのだが、ジルフーコ以外がこれをやるとケミコさんはとても嫌がる。ケミコさんの中身をあれこれ調べていたジルフーコがパネルをしめると、ケミコさんは、すす、と他所にいってしまった。

「手伝ってくれるのはいいんだが」ビルワンジルはケミコさんの後ろ姿を見送ってからじゃがいもの収穫に戻る「気まぐれだから、ぷい、っといなくなっちゃうんだよな。当てにしてると泣きを見る」

「ケミコさんは、そういうものだから」ジルフーコも土をかきわけてじゃがいもを掘り出すがうまくはいかない「むずかしいな、これ」

「慣れないとなかなか、な」

「ケミコさん、よくこんなことできるなあ」

「え? ジルフーコがプログラムしたんじゃないのか?」

「そんなことしたことないし、できないよ。強いて言うなら、お願いしたことならある」

「オレとたいしてかわらんな」

「ケミコさんは完全自立型だからね。そもそもプログラムなんかできないんだ」

「そうか、それにしてはよく手伝ってくれるなあ」

「ビルワンジルがよくお礼言ってるからじゃないかな」

「そんなもんなのか?」

「そんなもんだよ」

「ザワディとよく一緒にいるが、あれは何なんだろう?」

「さあ?」

 数体のケミコさんが、芋掘りの手伝いにやってきた。軽く土をかきわけて根本を掴んでゆっくり引き抜いていく。

「友達なのかな?」

「え? 誰が?」

「ザワディとケミコさん」

 ジルフーコはそう言って笑う。

「そうかもな」

 ビルワンジルも笑った。

 


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