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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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からまる紐(2)

 

「サイユルから何か言ってきていますか?」

「いろんなことを言ってきてます」

 ヒューリューリーの問いにタケルヒノはそう答えた。実際、通信は引っ切り無しで入ってくるし、つなぐたびに違うことを言ってくるので、タケルヒノの答えで間違いはない。

「あなた方はどんな返事をしたのですか?」

「何も返事はしていません」

「何も? ですか」

「はい、あなたが宇宙船(ボード)に乗ってからは、向こうの話を聞き流しているだけです」

「すごいですねぇ」ヒューリューリーは体の下5分の1だけで踏ん張り、残りを全部ぐるうりと回した「そういうことができるんですね。尊敬します」

「何もしてないから、楽なもんです」

「いつまで続けるつもりですか?」

 タケルヒノはそれには答えず、かわりにヒューリューリーに質問した。

「あなたと同じ養育プログラムを受けたサイユルのことを、あなたはどう思いますか?」

「なんとも思いません」ヒューリューリーは答えた「と言うよりもわからないのです。私は今回の件が持ち上がるまで、他のサイユルと会ったことがありません。私がものごころついてからロボット以外と初めて会話したのは、私と同伴してこの船に乗り込むはずだった2名のサイユルだけです。おかしな話だと自分でも思いますが、異星人のあなた方と過ごしたこの数日間のほうが、私のそれまでの人生すべてよりはるかに充実しているのです」

「そういう養育プログラムですからね」タケルヒノは言った「想像はしていましたが、あなた自身の口から聞きたかった」

「どういうことですか?」

 ヒューリューリーの質問には彼自身の希望が少し混じっていた。

「あなたはとても幸運でした」タケルヒノはそう切り出した「あなたと同じプログラムを受けたサイユルに、あなたほどではないにしても、チャンスを与えられたらと思って、少し細工をしてたんです。あなたがベルガーに降りている間にです」

「でも、みんなをこの宇宙船(ボード)に乗せるなんて無理ですよ」

「そう、それは無理です。でも、ただ光子体(リーニア)になるためだけに人生を送り、だめならそれでおしまいというのは、もっと無理です。無理がありすぎてどんな形の成功も望めません」

「何だかよくわかりません」

「養育プログラムに問題がありますが、始めてしまったものをいきなりやめても問題は解決しません。問題は養育プログラムの目標が間違っていることです。目標を修正すればいいいんです」

「彼らは目的を変えたりしませんよ」

「彼ら? サイユルのことですか? でもサイユルは養育プログラムを運用していません。サイユルにはできないんです。だからロボットが運用しています」

「でも、ロボットに指示を出しているのはサイユルでしょう?」

「そんなことができるなら、そもそも養育プログラムなんか立ち上げていないでしょう。あれは情報キューブの技術なんです。サイユルにはそれを不完全な形で模倣することはできても、修正して自分たちの目的にあわせるなんてことはできないんです。不完全なロボットと養育プログラムは是正されなくてはいけません。というか、是正しました」

「え?」

「ケミコさんを大量に降下させて、養育プログラムのロボットと交代させました」

「それは、いったいどういう…」

 ヒューリューリーの体がぐらぐらと揺れだした。それは発音動作でもなければ、ましてや感情表現でもない。

「ケミコさんはきちんと仕事をこなしますから、中途半端な養育などしませんよ。最優先プログラムは養育対象の安全です。まだ精神レベルが未達の個体に対して、見込みの無い光子体転換など絶対にさせたりしません」

「でも、サイユルはそんなこと許しませんよ」うまく体の振れないヒューリューリーはとうとう操作盤を叩き出した「たぶん、ですけど」

「許さない? だから何ですか?」タケルヒノの口調はとても挑発的になった。挑発の相手はヒューリューリーではない「ケミコさんはオーバーテクノロジーの結晶です。光子体転換装置であるとか、この宇宙船(ボード)の設計であるとか、次元変換駆動だとかと同じクラスのものなんです。ケミコさんが本気を出したら、中途半端なサイユルの技術レベルではまったく手出しできないでしょう」

「じゃあ、もう私の仲間、私の兄弟たちは安全なんですね」

 ヒューリューリーは操作盤を叩くのをやめ、体を回して自分の言葉を語りだした。

「本当のことを言います。私はあなたたちと旅をして、いつか自分が光子体(リーニア)になれたら、彼らを助けに戻るつもりでした」

「それについては、止めはしませんけど」タケルヒノはそう言いながらもすこし困った顔をした「まだ光子体(リーニア)になるつもりなんですか?」

「いいえ」ヒューリューリーは体を大きく振って否定した「タケルヒノを信じます。きっとあなたのほうが正しいでしょうから」

 

「あの、タケルヒノ」

 廊下でサイカーラクラが話しかけてきた。

「ヒューヒューさんですが、何か良いことでもあったんでしょうか?」

「え? どうして?」

「ヒューヒューさんが話すとき、とても体が伸びやかなのです」サイカーラクラは両手を広げて、伸びやか(丶丶丶丶)の仕草をした「わかりますか?」

「あ、いや、そうだったかな、僕、そういうのよくわからないんだけど…。サイカーラクラは、わかるんだね」

「わかります」サイカーラクラは答えたが、自分でも腑に落ちなかったらしく、つけくわえた「私は自分の表情が乏しいので、他人の表情の変化によく気がつくのです」

――表情が乏しいんじゃなくて、顔隠してるだけだよなあ

 もちろん、またシャッターを閉じられてはかなわないので、タケルヒノは思ったことを口には出さずに適当にごまかした。

 

 


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