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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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からまる紐(1)

 

多目的機(マルチロール)にベルガーを載せたんだな」

 遮断区域(アイソレートゾーン)に宇宙服を着て現れたボゥシューが、もう一度確認した。

「悪かった、か?」

 恐る恐る尋ねるジムドナルドだが、ボゥシューは無頓着に返した。

「いや、別に。多目的機(マルチロール)は捨てるからいいんだ。ケミコさんは船外作業用を重力圏でも動けるようにしたやつだから、もう宇宙船(ボード)の中には入れないから。無菌テント以外では、ちゃんと宇宙服着てたろうな?」

「おう、着てた、着てた」ジムドナルドは、ちょっと思いついたので、かるい気持ちでボゥシューに聞いてみた「もし、言うこと聞かなかったら、俺、どうなってたんだ?」

「いや、別に」ボゥシューはさっきとまるで同じに答えた「宇宙服と一緒にオマエも捨てるだけだから、いいんだ」

 

「隔離期間は、船内時間の一週間ですから、ヒューヒューさんにとっては3日くらいです。少し長いですが、我慢して下さいね」

「大丈夫です。初めて来た時と同じですから」

 ヒューリューリーはもう宇宙服を脱いだので、力いっぱい体を振り回した。

「元気そうでよかったです。ヒューヒューさんだけは他の人と違うので、検疫期間中だけはひとりで我慢してくださいね。その代わり、何かありましたら、呼んでいただければすぐ来ますので」

「あの…」ヒューリューリーは、ほんの少し遠慮がちに頭を回した「来てくださるのはサイカーラクラだけですか?」

「え?」

「タケルヒノも来てくれるでしょうか?」

「ああ、そういうことですか」サイカーラクラはすぐに察した「もちろん大丈夫ですよ。何でしたら、いまタケルヒノと交代しましょうか?」

「できれば、よろしくお願いします」

 ヒューリューリーは体の振り方こそ遠慮がちだったが、はっきりと自分の希望を伝えた。

 

「なかなか良かったぞ、あの槍」

「そうか使えたか」

 ビルワンジルの評価に、タケルヒノのヘルメットの中からホッとした溜め息が聞こえてくる。

「イリナイワノフの警棒と同じやつを仕込め、って言われた時は驚いたが、使い物になったんなら何よりだ」

「でも」とジルフーコは少し不満気だ「あれでも光子体(リーニア)を完全に散らすことはできないんだよね」

光子体(リーニア)情報体(リーンファノア)だからね。変な言い方だが、情報体(リーンファノア)は自分自身を見失わない限りは不死だ。物理的な攻撃で散らすことはできない。力をそぐことはできるけど」

「まあ、戦闘不能にすることができるだけでも、だいぶ違う」ビルワンジルが太鼓判を押した「向こうも、そうそう無茶なことはしてこなくなるだろ」

「だと良いんだが」

「タケルヒノ」ヘルメットの中にサイカーラクラの声が響いた「ヒューヒューさんが呼んでますよ。急ぎの用みたいです」

 わかった、とタケルヒノはサイカーラクラに答えた。それじゃ、また後で、と遮断区域(アイソレートゾーン)の別区画に向かう。

 

「一週間、ひとりかあ」

 イリナイワノフは眉間にしわを寄せた。

「そういうな、時々こっちにも来るから」

「そうですよ。イリナイワノフは、まだビルワンジルとかジルフーコとか自由に行き来できますが、ヒューヒューさんは、本当にひとりですから」

「ヒューヒュー、ひとりぼっちなの?」

「しかたないんだ」ボゥシューが言う「アイツだけ体のしくみが、ぜんぜん違うから、一緒に検疫は無理だ」

「ジムドナルドも?」

「あれは体じゃなくて頭の中身が違う、っていうか、アレと一緒がいいのか?」

 イリナイワノフは、ふるふると頭を振った。

「あれは、ほら、観賞用だから、ガラス越しくらいがちょうどいいよ」

 

「どうした浮かない顔して?」

「いい加減なこと言うなよ。ヘルメットの中は見えないだろ?」

 タケルヒノの言い分など、ジムドナルドには、どこ吹く風だ。

「見えなくたって、わかる。どうだ、図星だろ」

「ベルガーはどうだった? 君の見込みだと何とかなりそうか?」

「やれるだけはやった」ジムドナルドは答えた「最後に拾った奴が、もしかしたら化けるかもしれん」

「ひろったやつ?」

「ヒューリューリーが捕まえた奴だ」

「ああ」タケルヒノも思い当たったようだ「いずれにしろあの運営方法では自ずと行き詰まる。あれだけの噴火の後だから、火山脈のエネルギーも蓄積するまではしばらくかかる。19ヶ月というサイクルはもう維持できないし、人身御供を差し出しても、噴火させるのは無理だろう」

「無知蒙昧の輩を甘く見るとひどい目にあうぞ。ベルガーもしばらくは試行錯誤が続く」

「しかたないさ。2千年分を一気に修正はできない」

「わかってるんなら、いい。楔は打ち込んだんだ。変われるかどうかはベルガーしだいだ、ところで…」ジムドナルドは妙な感じで体をくねくねさせた「こっちのほうはどうなってる?」

「サイユルはずっと文句ばっかりだな」タケルヒノも右腕だけをくねらせる「ヒューリューリーの針を抜いてからずっとだ。特にベルガーの火山が噴火してからはひっきりなしだよ。無視してるけど」

「ずっと、放っておくのか?」

「向こうが上がってこないなら、表向きは放置だ。裏ではいろいろやってるけど」

「何をやった?」

「ヒューリューリー抜きで話すわけにもいかないからね。彼とはさっき少し話したけど、個別に話すより、みんな一緒のほうがいいだろう。隔離期間が終わるまで待ってくれ」

「差し迫った脅威はない、ってことでいいのか?」

「そう考えてもらって間違いない」

「ならいい」ジムドナルドはベッドに寝転んだ「何もないんならまかせる。用ができたら呼んでくれ」

 わかった、と言いかけたタケルヒノは、ジムドナルドがすでに寝息をたてているのに気づいて、そのまま部屋を出た。

 


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