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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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天蓋の杞憂(6)

 

 ヒューリューリーが戒めを解くと、男は死んだように突っ伏して動かなくなった。

 ひくひくと体中が痙攣している。

「起きろ」

 ジムドナルドが言い渡すと、男は飛び起きた。が、しかし、腰が抜けてしまって立ち上がることができず、その場にへたり込んだだけだった。

 よく見ると、男は呪い師が三度逃げ帰った後に、ひとりでやって来た、あの青年だった。

「お前は何を見た?」

 ジムドナルドの言葉に、青年は嗚咽混じりに辛うじて声を絞り出した。

「正しいものを、見ました」青年は言った「呪言師の呼んだのは偽物で、あなたがたの槍で消えた。あなたがたこそ、正しい光の殿方です」

「よかろう」ジムドナルドは言ったが、まだその声から厳しさは抜けていなかった「ならば何故、聖なる帳に立ち入った?」

「お許し下さい」青年は再び床に這いつくばった「お許し下さい。もはや、私には光の殿方にすがるしか方法がないのです」

「お前は何も受け取ることはできない」ジムドナルドは青年の望みをはねつけた「我らは施しをしない。それが正しい光の者の姿だ」

 青年は呆けたような顔をあげた。それが最後通告であって、もはやどうにもならないことを青年は悟った。

「お前は罰を受けなばならぬ」ジムドナルドは申し渡した「我らの空飛ぶ船に乗り、我らの技を見聞きし伝えよ。それよりお前が罪を拭う術はない」

「いかさま、承りました」

 青年は言って、深々と礼をした。

 

「彼、乗っけちゃってほんとに大丈夫なの?」

 ジルフーコは、ジムドナルドの隣で蒼白な顔をしたままの青年を見ながら、言ってみた。聞いたところでジムドナルドが翻意する可能性はゼロだが、いちおうのお約束だ。

「大丈夫だ。俺が保証する」

 これはジムドナルドにとっては、何もする気はないと言っているに等しい。ま、そんなもんだろう、ジルフーコは思った。

「じゃあ、始めていいかい。イリナイワノフ」

「いつでもいいよ」

 回転銃座にはまりこんだままのイリナイワノフがジルフーコに返事する。ジルフーコは多目的機(マルチロール)の出力を上げ、ゆっくりと上昇を始めた。

 火口と平行な高さまで上昇したところで、ジルフーコは多目的機(マルチロール)を旋回させる。

「木を組み上げてある根本のところね。青、黄、赤に塗ってあるところがあるんだけど、わかる?」

「わかる」

「それを青、黄、赤の順番で撃ちぬくんだけど、できる?」

「ジルフーコが操縦まちがわなければ、できる」

「きびしいな」ジルフーコは笑った「操縦まちがえたら、撃つのやめてくれ。時間が空いてもいいんだ。順番さえ、まちがわなければ」

「わかった」

「じゃあいくよ」

 ジルフーコは多目的機(マルチロール)を空中で静止させ、向きだけを90度変えて、青い塗料を塗った木の真ん前に機体を向ける。

「まず青」

 機関砲が青の目標を完全に撃ちぬき、的の部分が中空になった。

「よし、次」

 ジルフーコは機体をそのままスライドさせる。黄色の印がイリナイワノフの照準に入った。これも難なく吹き飛ばす。

「あと最後の赤だけど」

 ジルフーコは火口から多目的機(マルチロール)を離し、高度を少し下げた。

「最後の赤は、上昇気味に火口とすれ違うから、そこで撃ちぬいて。その後、全力で加速して安全圏に逃げる。どう? できそう?」

「とにかくやってみて」イリナイワノフが叫んだ「ダメそうなら撃たないから、まあ大丈夫だと思うけど」

「よし、行くよ」

 わずかの勾配をつけつつ上昇しながら、多目的機(マルチロール)は火口の縁をかすめていく。射手はその一瞬をあやまたず、最後の支柱も木っ端微塵に砕けた。

 全速力の多目的機(マルチロール)の後方、山が地平線に消えてほんの少し立ってから、真っ赤な火の柱が天へと抜けた。

「凄い噴火だな」ビルワンジルがスクリーンを見ながら言った「いつもこんな感じなのかな」

「あいつ見てみろよ」

 ジムドナルドの促すほうにはベルガーの青年がいる。彼の表情は驚愕を通り越して、絶望とも悲愴とも、またそれらの交じり合ったものとも、形容しがたい有り様だった。

「あんなのは見たことない、って感じの顔だ。フェルトート山の噴火を繰り返してるから逃げ慣れてるとは言え、かなり厳しいかもな」

「じゃあ、とびきり凄い噴火だってことか?」

「そりゃ、そうだろう。ジルフーコが綿密に計算して火山脈の活動が最高に達するときを選んで、ケミコさんまで大勢使って、一気に大量の木―有機物を火口に投入したんだぞ。呪い師が適当に日付括って人間飛び込ませるのと訳が違うんだ」

「大丈夫なのか?」

「さあな」

「いい加減だな」

「まあな」ジムドナルドは嘆息した「こういうのは中途半端が良くないのももちろんだが、やり過ぎだって良くはない。これでベルガーが変わるかどうかもわからんしな」

 

 地下の火山脈がすべて繋がっているというベルガーの特性上、噴火はもの凄いが、収まるのもまた早い。ベルガーの時間で半日たって噴火もかなり収まった頃、多目的機(マルチロール)は城壁のそばに下降した。

 幸い、火砕流は城や街の反対側に流れたらしい。

 青年を降ろす間、かなりの人数が遠巻きに見ていたが、近寄ってくる者は誰もいなかった。

「お前はこれから何をする?」

 ジムドナルドは厳かに尋ねた。

「何もしません」青年は声を振り絞り、叫んだ「いえ、私たちは、何もできません」

「よかろう」ジムドナルドは言い渡した「お前の罪は贖われた。あとは好きにするがよい」

 

 多目的機(マルチロール)が上昇する中、まだ宇宙服の脱げないヒューリューリーは操作盤を鮮やかに叩く。

「凄いですねぇ、ジムドナルド。まるでずっと長いこと神様やってたみたいでしたよ」

「昔やってたんだよ、ほんの短い間だったけどな」

 スクリーンには青年の姿がケシ粒のように映る。誰かが駆け出してきて青年に抱きついた。何者なのか、とても判別などできはしない。

「もう俺は神様なんかやらなくて良くなったからな。たまにお遊びで真似事してみるだけさ」

 

 

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