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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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天蓋の杞憂(3)

 

 タケルヒノは、彼にとっては珍しいことだが、後悔していた。

 今回の人選についてである。

 降りる人間のことしか考えていなかった、のである。

 ベルガー降下部隊については、大筋では問題ない。

 今回、自分が宇宙船(ボード)に残るのは考慮しなくとも、ジムドナルドを降ろすのは最初から決めていた。

 ベルガーとの交渉事について彼に頼らなければならないのは明白だ。

 これは動かせない。

 ビルワンジルとイリナイワノフも同様。

 どういった展開になるかはわからないが、それでも、この2人を入れないことには、戦力的に極めてやりくりが難しいことになるわけで、そんなことはとてもできない。

 あとは誰が仕事するか、という話だが。

 タケルヒノが降りない以上、ジルフーコしか任せられる人間はいない。

 返す返すも後悔は、ヒューリューリーの願いを聞き入れてしまったことである。

 ヒューリューリーはベルガーでやらなければならないことなど何もない。

 宇宙船(ボード)にいてもやることがないから、降ろした訳だが。

 いまになってわかる。

 何もやることがなくても彼を宇宙船(ボード)に残すべきだった。

 

「なあ、タケルヒノ」

「な、なんだい?」

 ボゥシューの問いかけに、タケルヒノは首だけ彼女のほうを向けて、返事した。

「サイユルには降りないんだから、そっちの適合試験は終わりにしていいんだな?」

「…いいよ」

 首しか動かせないのには訳がある。体を動かすと肘がボゥシューにあたってしまうのだ。それぐらい傍にボゥシューがいる。反対側に体を動かせば良いようなものだが、そうできない理由も、もちろんある。

「タケルヒノ」サイカーラクラが言った「胞宇宙(セルベル)マップを更新したのですが確認していただけますか?」

「あ、ありがとう…、後で見ておくよ」

 タケルヒノは首だけ反対側に動かす。何故か、今日はフェースガードを開けたままのサイカーラクラがいる。たまにしかサイカーラクラの素顔を見られないタケルヒノは、それだけでドギマギしてしまうが、こちらも少しでも動くと体がくっついてしまうほど接近しているわけで、つまり、まったく身動きが取れない。

 朝の段階ではこうではなかった。

 タケルヒノは、いつもどおり、ミィーティングルームに来て自分の席に座り、サイユル関連のことをしていただけである。

 気が付くと、サイカーラクラがいて、それは彼女のいつもの位置で、もっと離れていた。

 後からボゥシューが来て、おはよう、と言ってタケルヒノの隣で仕事を始めた。

 そのときは、けっこう距離があいてた気がする。

 何かの用で(用向きは忘れた)サイカーラクラが隣に来て、そしてサイカーラクラは帰らなかった気がする。

 そうしたらボゥシューが無言で距離を詰めてきた。あとは、双方からにじり寄られて、今の状況である。

「あのさあ、タケルヒノ」

 ボゥシューが半立ちになって、コンソールとタケルヒノの間に割り込んできた。ラバースーツの素材は柔軟性に富み、ボディーラインの起伏を忠実に再現する。タケルヒノの眼前にはボゥシューの微妙な胸の膨らみが迫ってきて、思わずタケルヒノは身を引いてしまった。

 タケルヒノの背中に、とても柔らかい何かが当たった。

「あ、あの…、そろそろお昼だから、今日、僕の当番だし…」

 タケルヒノはごまかそうとして、むちゃくちゃ適当なことを言った。

「今日は、人数も少ないので私たちがやります。ね? ボゥシュー」

「あ、そうだな。オマエ、いそがしいみたいだから、ワタシらでやるよ。なんか食いたいモンあるか?」

 トーストかな、と答えると、彼女らは連れ立ってビュッフェのほうに姿を消した。

 

 昼食の間、ずっとボゥシューとサイカーラクラはタケルヒノをはさんで座っていた。いつもと違って、食事中はテーブルソルトを取る時以外に会話はなかった。

 午後のタケルヒノは、ずっと正面のコンソールを見つめていて、どちらが話しかけても返答は上の空だった。

 それで、誰かが不幸だったというわけではない。

 不思議なことに。

 ボゥシューもサイカーラクラもとても幸せだったのだ。

 

 その日の夜。

 部屋に戻ったボゥシューはお気に入りのロッキングチェアーでゆらゆら揺れている。

 ソファに寝そべっていたサイカーラクラは、ふと頭を持ち上げた。

「ボゥシューは、何故、ベルガーに降りなかったのですか?」

「人数が多かったからな」

「ボゥシューは、新しい星には真っ先に降りたい、といつも言ってましたが」

「たまには、こういうこともある」

 しばらくロッキングチェアの揺れる音だけが続いて、でも、それを打ち消すようにボゥシューが言った。

「ごめん、嘘」

「うそ…?」

「サイカーラクラとタケルヒノを二人きりにするのが嫌だった」

 ロッキングチェアーの音は止まっていた。

 サイカーラクラは上げていた顔を両手の内に戻した、

「タケルヒノが女の子なら良かったですね」

「え?」

「そしたら、私たち、とてもうまくやれたと思います」

「それはどうかなあ」またロッキングチェアーが揺れだした「それだと、ジムドナルドの気が狂うんじゃないか?」

「え?」

 もういちどサイカーラクラは顔を上げたが、ボゥシューは黙って椅子を揺らし続けるだけだった。

 


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