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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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天蓋の杞憂(1)

 

「今回はケミコさんが並行してついてくるから、ゆっくり飛ぶよ」

 ジルフーコは多目的機(マルチロール)小宇宙船(ダート)から切り離して降下軌道に乗せていく。

「ゆっくりってどれくらいだ?」

 いちばん後ろの席に陣取ったジムドナルドが尋ねる。ジルフーコは振り向きもせずに答えた。

「1時間位だよ。小宇宙線(ダート)で低位軌道まで来たからね。帰りは静止軌道を使わなきゃ帰れないから倍くらいかかるな」

「その程度ならどうってことないな、な、ヒューリューリー」

「そうですね」

 ヒューリューリーもラバースーツにヘッドキャップといういでたちなので、また操作盤を使っている。ジムドナルドの隣のバーに体を巻きつけている。はたから見ると窮屈そうだが、ヒューリューリーいわく、これがいちばん楽なのだそうだ。

「この間のエウロパのときもこんな感じだったのか?」

 ビルワンジルに問われて、イリナイワノフは首をかしげた。

「こんなヘンじゃなかったなあ」

「どこが違う?」

「ジムドナルド」

「ジムドナルド? エウロパの時も一緒だったろ?」

「だって、なんかやる気まんまんなんだもん、気持ちわるいくらい」

 ふーむ、と唸って、ビルワンジルは沈黙した。これはあまり良い傾向ではない。

 

 スクリーンに映る地表がぐんぐん近づいてくる。ひときわ高い山頂にぽっかり開いた火口が見える。

「あれがフェルトート山か?」

 ジムドナルドが尋ねると、ジルフーコは首を振った。

「違うよ。フェルトート山は、となりの低いほう。こっちは名前もついてない、ただの高い山だ」

「名前もつけないとはな。神の鉄槌(フェルトート)以外は無視か。ベルガーもなかなか徹底している。俺達はこっちに降りるのか?」

「そうだよ。頼むから、いまさら変更だなんて言わないでくれよ。計算し直しとか嫌だからね」

「あの火山に降りるのですか?」

 ヒューリューリーが尋ねた。

「そうらしいな」

「熱いですよ」

「テッペンには降りないよ、もっと麓の方だ」

 ジムドナルドが答える。

「テッペンだとギャラリーが来づらいからな。もっとたくさん人の来そうなところに降りる」

「人が来たら、追い払ったり、たいへんではないですか?」

「そりゃあ大変さ」ジムドナルドは上機嫌だ「こんなこと、こっそりやって誰も気づかないんじゃ意味がないんだよ。花火を上げるんなら、思いっきり派手にやらなけりゃいけない」

 

 多目的機(マルチロール)から降りた一行は、無菌室仕様の自動テントを展開し中に入る。ケミコさんたちも散開して自分たちの仕事をはじめた。

「中型の輸送機(キャリア)が3機、追っ付けやって来る、そいつとケミコさんたちでボクのほうの仕事は何とかなるかな」

「こっちの仕事のネタもやってきたぞ」

 モニターを見ながらジムドナルドが指示を出す。

「イリナイワノフ」

「なあに?」

「こいつ、この頭に羽根つけてるヤツ。こいつの羽根、撃ちぬいてくれない?」

「いいよ、羽根の下にあるのはどうする?」

「羽根だけ、頭は撃ちぬかなくていい」

「わかった」

「あ、白煙弾でやってくれない? そのほうが派手だし」

「無茶言わないで」

 イリナイワノフが言うより先に銃声が響いた。ジムドナルドの指していた羽根かざりの男は、装身具を吹き飛ばされてあたふたと逃げ帰る。後に続く軽武装の集団も散り散りになった。

「白煙弾とかそういうことは撃つ前に言ってよ」イリナイワノフはカービン銃を構えたままの姿勢をくずさない「撃ってから弾換えるとかできるわけないじゃない」

「おっしゃるとおりです」

 さすがのジムドナルドも素直に謝るしかなかった。

 

 二度めも同じように、羽根つきの男が数十人の鎧兵士を連れてやってきたが、羽根飾りを撃ちぬかれて逃げ帰った。鎧兵士の方は踏ん張るかと思ったのだが、最初と同じだった。

 三度め、もう羽根飾りはつけておらず、兜をかぶってきたが、白煙弾をかすめて威嚇すると、お供と一緒にどこかへ行ってしまった。

「いつまでこんなことやってるんだ?」

 いいかげん、焦れたビルワンジルが呟いた。

「まともな交渉相手が来るまでだよ」ジムドナルドは答えながらヘルメットの向きを微調整した「この程度でびびって逃げ帰るような奴とじゃ話しなんかできない。だが、そろそろ、行けそうだ」

 モニターに映る人影は、今度はひとりだった。武具は身につけず、徒手空拳で悠然と進んでくる。

「待ち人来るだ」

 ジムドナルドはテントの入口に立つイリナイワノフの肩をポンと叩いた。

「援護たのんだぞ」

 わかった、と答えるイリナイワノフに、殺さないでね、とジムドナルドはつけたした。

 

 


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