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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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もつれない紐(3)

 

「さてと、ヒューリューリー」タケルヒノは笑みを浮かべながらヒューリューリーに近づいた「多少の偶然も味方になってくれたおかげで、あなたと話し合う準備はすべて整ったようです。いま、残りのみんなも呼びますから」

「みんな、ですか?」ヒューリューリーは戸惑っている「そんなたくさんの人と会っても、私には何をしたらいいのかよくわかりません」

「いや、もう、あなたは、我々全員と会っていますよ」

「全員じゃない」ボゥシューが言った「ザワディがいる」

「ああ、ザワディがいた。それは後で」

「でも私が会ったのは、あなたと、ボゥシュー、サイカーラクラ、ジムドナルド…」

 ヒューリューリーはこの場にいる者を頭で指し示しながら数えていく。

「あとはジルフーコ、イリナイワノフ、ビルワンジル、私の会ったのはこの7人だけですよ」

「それで全員です」

「何ですって?」ヒューリューリーは体の上部3分の1だけを高速で回転させる「こんな大きな船なのにたった7人しかいないのですか? 私はてっきり何万人も乗っているのだと」

宇宙船(ボード)が大きいのは、胞障壁(セルレス)を超えるのに必要だったからです。あ、みんな、来たみたいです」

「ザワディもいたから、連れてきたよ」

 イリナイワノフの傍らに付き添ってきたザワディを認めて、ヒューリューリーの回転速度は最高値に達する。

気高き獣(ファローフル)

 ぴんと硬直して動かなくなったヒューリューリーに寄っていくと、ザワディは、ふんふんと匂いを嗅いだ。

「ファローフルそっくりです。私を食べませんか?」

「大丈夫だよ。ザワディは友達だから」

 ザワディは腹ばいになってあくびをした。ボゥシューがザワディの皿を出したので、おとなしく中身を食べる。

「じゃあ、初めましょうか」タケルヒノが言った「さすがに自己紹介はもういいよね」

 

「私の要望、というかサイユルの要望ですが、二つあります。いまとなっては、私には関係のないことなのですが、どうしましょうか?」

「面白そうだから、それについて話そう」

 ヒューリューリーの話にジムドナルドが乗ってきた。タケルヒノは嫌な予感がしたが、皆、意外と乗り気なようなので黙っていた。

「サイユルの要望の一つ目はベルガーの攻撃をやめさせることです」

「僕もあれはやめさせたほうが良いと思ってた」ヒューリューリーの話は宇宙船(ボード)でも話題になっていたことだった「サイユル、というか、あなたの件が片付いたら、どうにかしようとみんなで話し合っていた最中です。その件はあなたも交えて後で話しましょう」

「それは、うれしいです。サイユル抜きでも、私もどうにかしたいと思っていました」

「では、その件は後で、あと一つは?」

「光子体転換です」

 あー、と、ジルフーコ、ジムドナルドの両名から声が漏れた。

「そんなことじゃないかと思ってた」

 ジムドナルドが言う。

「でも、それって問題自体はもう決着してるよね」

 ジルフーコはあえて解決という言葉を使わないことで自分の意見を婉曲に伝えた。

「まあ、そうです」ヒューリューリーは同意した「私、個人的にはもう問題ですらないので、あくまでサイユルの要望だということです」

「どういうこと? よくわからないんだけど」

 この場の過半数の気持ちをイリナイワノフが代弁した。

「サイユルはずっと光子体(リーニア)になりたかったんだよ」タケルヒノが説明した「というより、なるにはなれたんだがその後がいけない。光子体(リーニア)には転換機を使えばすぐに転換できるけど、転換後の光子体(リーニア)を維持できないんだ」

情報体(リーンファノア)の維持は一般にとても困難です」サイカーラクラが説明を引き継ぐ「前にも強い光に干渉を受ける、という話をしましたが、光だけではなく様々なものに干渉を受けます。元の実体情報を光子の振動数情報に還元していますから、情報(リーンファン)が揺らぐと最悪の場合、情報体(リーンファノア)は散ってしまいます」

「これはボゥシューのほうが詳しいんだけど」前置きをしてジルフーコが話しだす「たとえば生体だと個々の細胞同士が補完しあって全体を維持するんだが、情報体(リーンファノア)ではその個々の補完を情報(リーンファン)としてトップダウンで維持しなけりゃならないんだ。簡単に言うと自我が崩壊したらすべてなくなる」

恒常性(ホメオスタシス)が効かないというか、情報体(リーンファノア)になるとなくなるんだな」ボゥシューが言う「やっかいだな、それだけで情報体(リーンファノア)なんかなりたくなくなる」

「ねえ、だからどういうことよ?」

 小声で聞くイリナイワノフに、ボゥシューも小声で返す。

「気分が落ち込んだ時に、美味しいもの食べて気晴らしするのができないってこと」

「なに、それ、ヒドイ」イリナイワノフは思わず上げた悲鳴に、あわてて口を抑えた「あたし情報体(リーンファノア)なんて絶対ならない」

「さっき、もう決着したとか言ってた気がするけど、何が決着したんだ?」

 ビルワンジルがジルフーコに尋ねた。

「サイユルには心理的バリアの問題があるので実質的に情報体(リーンファノア)を維持するのは不可能だったが、そのために調整されたヒューリューリーなら、そんな問題は生じない、って話だよ」

「ヒューリューリーは情報体(リーンファノア)になりたいのか?」

「なりたくないですよ」

 ヒューリューリの答えにビルワンジルは首をひねった。

「何か解決した問題があるのか?」

「ないよ」ジルフーコは答えた「もともとボクらにサイユルの問題なんか解決する義務はないからね。フューリューリーの希望があるんなら聞いたほうが良いとは思うけど」

「私の希望を言って良いんですか?」

 サイユルの所作にあまり詳しくないメンバーにも、ヒューリューリーの質問はとても控えめに見えた。

「ああ、どうぞ」タケルヒノが促した「むしろ、そちらのほうを先に聞くべきでしたね」

 ヒューリューリーはコンソールに向かった。

 スクリーンに打鍵した文字が映し出される。

「私にとって、とても大事なことですので翻訳で意味が変わるとこまりますから、文字にします」

 ヒューリューリーの打鍵速度は専用機を使わなくても高速だった。

「私はみなさんと一緒に旅がしたい。胞障壁(セルレス)を超えて別の宇宙に行きたいのです」

「たいへん良い考えだと思います。僕は賛成です」

 タケルヒノがコンソールに打ち込むと、同意見がすぐさま6行続いた。

「ザワディ、どう思う?」

 ビルワンジルの問いにザワディもしっぽを振って答え、満場一致でヒューリューリーの同行が決定した。

 

 

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