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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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もつれない紐(1)

 

 サイユル、ベルガーを周回する8の字軌道にのってから既に3日たつ。

 ドッキングポートのすり合わせは短期間では無理だったので、サイユルの小艇(ポーター)宇宙船(ボード)に全収納することにした。

 多目的機(マルチロール)の隣のローンチに固定された小艇(ポーター)に宇宙服を着たタケルヒノとビルワンジルがつく。無重力区画ではあるが大気のあるこのエリアは、本来、宇宙服は不要だ。が、サイユルの検疫がすむまでは、ボゥシューが接触者の宇宙服の着用をかたく義務付けている。

 ハッチが開いてサイユルの宇宙服が顔を出す。

 正確には顔ではないが。

 サイユルの宇宙服は直径10センチ長さ3メートルの完全なロープ型外套だ。中にサイユルがいる。

「ようこそ、お疲れ様」

 タケルヒノの言葉は翻訳されてサイユルの宇宙服の中に響いているはずだが、この状態ではサイユル側からの返答を期待するのは難しい。

 紐状人、サイユルは、普段、自分の体を大気中で振って風切音を発する。それがサイユルの言葉だ。宇宙服を着ている状態ではそれができない。地球人であればマスクで口をふさがれているようなものだ。

 タケルヒノとビルワンジルが支えて、エレベーターに誘導する。

 遮断区域(アイソレートゾーン)専用のエレベータに乗ったサイユルは、重力を感じ始めると自らの下部を2重にとぐろを巻いて、そこから上部を屹立させた。宇宙服がなければもっとスマートなのだろうが、やはり、もどかしげだ。

 サイユルの宇宙服は頭部に支持フレームつきの操作盤がついていた。直立した彼は頭頂部を使って、一本指打鍵法のように操作盤をあやつる。

「搭乗許可ありがとう、とても大きな宇宙船で驚いています」

 タケルヒノとビルワンジルのヘルメットの中、そしてミーティングルームの皆にその声は届いた。サイユル的には筆談に近いのだろう。

 遮断区域(アイソレートゾーン)のゲートをくぐり、個室(コンパートメント)に入ったところで、タケルヒノが言った。

「申し訳ないけれど、ここでしばらく逗留してもらいます。サイユルの日付で3日間ぐらいです。その間に検疫工程をすませます。宇宙服は脱いでいただいても結構ですが、不安でしたらそのままでかまいません。検疫中の食事は持参していただいたものでお願いします。これから小艇(ポーター)から荷物をこちらに運びこむので、空腹でもしばらくがまんしてください。検疫後の食事はこちらで用意しますが、お口にあうかどうかはあまり自信がない」

「きちんと対面できるのは3日後になりますね」

 鮮やかな高速タイピングでサイユルは筆談する。

「検疫中でも用があればいつでも呼んでください」タケルヒノは言った「あなたの操作盤からの出力は文字でも言葉でも私たちにすべて届くようになっています。あなたの筆談のスピードは素晴らしいし、大抵の要件はいまの状態でも問題なくすませられると思います」

 ここでタケルヒノはいったん言葉を切り、さらにゆったりとした口調で言った。

「僕はタケルヒノです。よろしくお願いします」

「オレはビルワンジルです」

 ビルワンジルも挨拶した。

 サイユルは一瞬動作が止まったが、さっきとは異なる動作で操作盤の角を何度か叩いた。

「ヒューリューリー」そしてまた操作盤を叩く「私の名前です。操作盤だととても難しいし、あなたがたもこの音を正確に出すのは無理でしょう。似たような音でかまいませんよ。違う名前で呼ばれても、いまここにサイユルは一人しかいませんから、ちゃんと返事します」

 

「ワタシはボゥシュー」

「あたし、イリナイワノフ」

 ヒューリューリーは操作盤を叩こうとしたが、ボゥシューが止めた。

「いいよ、さっき聞いたから。名前打つのめんどくさいんだろ?」

「ありがとう、実はそうなんです。宇宙服を脱いだらちゃんと自己紹介しますね」

「いちおう脱いでも大丈夫なように大気は調整してある」ボゥシューが説明する「酸素分圧はサイユルとワタシたちの中間にしてあるので、あなたには少し濃いと思う。ただ、安全を考えたらあと1日待って欲しい。情報キューブのデータからの適応指数は70を超えているので、この値が90を超えればまず問題ないハズ」

「あなたは医者ですか?」

「いや分子生物学者だよ、医者の真似事もするけど。こっちの子は狙撃手(スナイパー)

「ちょっと、ボゥシュー、やめてよ」

「人手が足りないんで、別のこともいろいろやるんだよ。みんな器用だしな」

「忙しいんですね。すみません、私の相手までしてもらって」

「いや、あなたの相手をするのが最優先の仕事だから、気にしないで」

「そうそう、初めて会う宇宙人だし」

「実は私もそうです」ヒューリューリーは独特の仕草で体を揺すった「私は光子体(リーニア)に会ったことがないし、ベルガーにも行ったことがない。機知の胞宇宙(セルベル)で同一胞宇宙(セルベル)内に2種族以上がいるのは珍しいことらしいのに残念です」

「あ、光子体(リーニア)なら、このあいだ会った」

「本当ですか?」ヒューリューリーは結び目ができそうなくらいに体を丸める「光子体(リーニア)ってどんな感じでした?」

「ヘンな人だった」

 イリナイワノフは、悪いやつ、とは人前で言わないよう、サイカーラクラに注意されている。

「あなたたちは本当に胞障壁(セルレス)を超えて来たんですね」

「証拠ないけどな」

「いえ、わかります」ヒューリューリーは体をくねらすのをやめ、ピーンと一本の棒のようになった「あなたたちは、私たちサイユルと違うものを持っています。だから胞障壁(セルレス)を超えられた」

――伸びるとずいぶん大きいんだな

 ボゥシューとイリナイワノフは、まったく同じことを考えていた。

 

 


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