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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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セルベル(4)

 

 壁スクリーンに映し出される2つの惑星。ジルフーコが説明をはじめる。

「これがサイユルとベルガー、気持ち大きいほうがサイユルね。それぞれ大きさは地球の88%と72%だ。距離は4万8千キロメートル、軌道が拘束されてるから自転、公転周期は同じ61・5時間、2日と13時間30分だね、常に相手の星の同じ側しか見えない。どちらも地球型惑星で、大気組成はボクらでも呼吸可能だ。マスク無しで良いって意味じゃないよ。火山活動はベルガーのほうが活発、海の面積はサイユルが広い。あとの細かいデータは各人で見て」

 壁スクリーンの端に宇宙船(ボード)と進行方向を示す矢印が描画され、それが刻々と移動していく。

宇宙船(ボード)はこの8の字軌道でサイユルとベルガーを周回する予定。その間にボゥシューに検疫を最高スピードでやってもらいながら、平行して地上データを採取する、主に光学分析になっちゃうけどね。あとは、サイカーラクラ、文化面の説明お願い」

 サイカーラクラが立ち上がるのと同時に宇宙船(ボード)図示画像(カリカチュア)がスクリーンから消えた。

「サイユルとベルガーは争っています、というか、ベルガー側が一方的にサイユルに攻撃を仕掛けているのですが、サイユル側の損害はほぼゼロです」

「サイユルが攻撃を受けてるってことはベルガーのほうが技術レベルは上なのか?」

「いいえ」ボゥシューの質問をサイカーラクラが即座に否定した「サイユルのほうが数千~1万年程度は進んでいます。情報キューブの内容がサイユルに渡るまでは、ここまで開きはなかったんですけど」

「つまり、ベルガーには情報キューブの内容を理解する能力が無い?」

「そういうことになります。ベルガーの技術レベルは地球でいう四大河文明初期ぐらいだと考えてもらえればいい」

「サイユルは、何故、ベルガーの攻撃をやめさせないんだ? それだけ技術レベルに差があったら、どうにでもなるだろう?」

「それは、そうです。サイユルでもベルガーに攻撃をやめさせようとする試みはなかったわけではありませんが、現状の被害が少ない上に、攻撃を停止させるのにはサイユル側の労力が大きいので」

「よくわからないな」

「これから説明しますが、理由はベルガーの攻撃方法にあるのです」

 スクリーン上のサイユルとベルガーが拡大された。

「これがサイユルとベルガーの人口密度分布です」

 サイユルとベルガーの地表に赤い点が書き込まれていく。ベルガーの人口分布はサイユルと相対する面に集中していて、逆にサイユルは裏側、ベルガーから見えないほうに広く均等に分布している。

「このベルガーで最も人口の密集しているところ、この部分にはフェルトート山という活火山があります。ベルガーの言葉で神の鉄槌という意味らしいですが、ベルガーはこの火山を噴火させてサイユルに向かって火山弾を落下させる攻撃を…」

「ちょっと待て」

 ビルワンジルがサイカーラクラの説明をさえぎった。

「火山を爆発させるって、どうやって?」

「そちらのほうの説明からしたほうが良いですか?」サイカーラクラが聞き返した「私ではうまく説明できませんので、ジルフーコかタケルヒノにお願いして…」

「あ、いや、いい、あとで聞くよ」ビルワンジルは謝った「中断して悪かった。ちょっとびっくりしたんだ。とりあえず先に進めてくれ」

 では、と、あらためてサイカーラクラが説明を続ける。

「火山弾のほとんどはベルガー側に落下します。ごく少数がベルガーの引力圏をふりきって、サイユル側へ、そしてここでも大部分がサイユルの大気との摩擦で燃え尽きます。そこもどうにか通り抜けたほんのわずかの隕石がサイユルの地表に衝突する。と、こういうことです。最初、サイユルはベルガーの攻撃だと思わず、自然災害だと思っていたようで、隕石の落下地点はどんどん過疎化し、それが現在の人口分布に現れています」

「いつからこんな馬鹿なことをやってるんだ?」

「サイユル側の記録では2千年ほど前からのようです。ベルガーのほうは歴史伝承が口伝の域を出ていないので正確なところはわかりません。サイユルが事態を把握したのは、本格的な宇宙調査を始めたここ数十年くらいのことです。無人探査機をベルガーに送っていますが、攻撃と勘違いされて破壊されていますから、有人探査は危険すぎて不可能というのがサイユル側の現状認識です」

「ベルガーは何でこんなことやってるんだ? サイユルにはほとんど被害はないんだろ?」

「ベルガーから見たら、そうではありません」サイユルが拡大されスクリーンを大きく占める「サイユルとベルガーは近いので、サイユルは全天視野角の12分の1を占めるのです。隕石の衝突は肉眼でも確認できるほどです。サイユルの大気中で燃え尽きる分ですら大きな光跡としてベルガーから見えるでしょう。隕石の衝突で山火事でも起きようものなら、大地が変色していく様が見えるはずです。結局、ベルガー側からすれば、ここ2千年の間、圧倒的に勝ち続けているのです。最近相手も攻撃してくるようになったものの被害はまったくない、という認識です。無人探索機ですからね。まわりに被害を及ぼすようには作られていないのです」

「成功体験ってやつは厄介なんだ」ジムドナルドはスクリーン上で擬似的に燃えるサイユルを眺めながら言う「失敗すれば、反省もするし、やり方も変える。そこにいくばくかの成長の目も出る。しかし、成功じゃあ、そうはいかない。全部知ってる俺達から見れば、ベルガーの一人相撲なのは明らかだが、そんなことはベルガーは知らない。成功にどんどんのめり込んでいく。そのためにベルガーは統一されたし、すべての社会機構がその目的に向かって整備された。勝つために。頭上の10分の1を覆う脅威だ。いつか攻撃してくるかもしれない。そんな脅威にベルガーは2千年勝ち続けて答えを出してきている。軌道修正なんか不可能だ」

「でも第一(ピス)光子体(リーニア)は教えたんだろう? 本当のことを?」

「そりゃあ、教えたさ、情報キューブにもそう載ってる」ビルワンジルの問いかけに、ジムドナルドが答えた「でもな、驕り高ぶった人間は、神の言うことなんか聞きゃしないんだよ。地球人だけかと思ってたが、宇宙共通とはな。社会宗教学ってのも意外とつぶしの効く学問かもしれんなあ」

「だいたいの状況はわかったんだけど。そろそろ、どうやって火山を噴火させるのか教えてくれないか」

 ボゥシューの言葉に、皆がいっせいにタケルヒノを見た。

「あの…、それ僕が説明するの?」

 誰も何も言わないので、しかたなく、タケルヒノが説明をはじめる。

「ええっと、これがベルガーの地下ネットワークの状況で…」

 スクリーンを支配していたサイユルの画像が枠外に消え、代わってベルガーの映像が入ってくる。地表が半透明になったかと思うと、血脈のような溶岩流の流れが浮きだした。

「ベルガーの地下溶岩流は、実はすべて繋がっている。本来なら、これは悪いことじゃないんだ。活発な火山活動によるマグマの不均衡な流れが是正されて、総体として安定するはずなんだ。普通の星なら」

「ベルガーは普通の星じゃないの?」

「普通だよ」タケルヒノはイリナイワノフに言った「でも隣にサイユルがある。サイユルの重力による潮汐力はベルガーの海だけではなく地下のマグマにも到達する。そして蓄積された力は定期的に臨界に達する」

「それが決壊するのか?」

 ボゥシューの言葉に、タケルヒノはゆっくりと首を左右に振った。

「決壊などしないよ、本来なら。それで数十億年もの間、均衡を保ってきたんだ。それが、何らかの理由で崩れた」

「何らかの理由?」

「そうだ。初めのところがわからないんだ。でも、きっかけはあったんだと思う。何かのきっかけで大量の有機物がフェルトート山に投げ込まれ、溶岩の熱で分解したガスが、ぎりぎりの均衡点を突き崩した。そして、フェルト―ト山は噴火し、最初の隕石をサイユルに投げた」

 タケルヒノはここで言葉を切った。当然、誰かが後をひきついでくれるものと思っていたのだが、誰も口を開こうとしない。

 そのまま数分が過ぎた。

 いちばん我慢のきかないのは、意外にもタケルヒノだった。

誘引物(トリガー)はベルガー人だ」タケルヒノが言った「フェルト―ト山を噴火させるため、19ヶ月間隔で、約1万人を火口に飛び込ませている。ここ2千年の間ずっと」

 

 


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