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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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セルベル(3)

 

「レウインデと戦ったんですか?」

 最初に聞いた時、サイカーラクラは目をまんまるにして驚いた。

「悪い人だと思ったんだよ」イリナイワノフは弁解した「だからやっつけようとしたの、でもタケルヒノに聞いたら悪い人じゃないんだって、失敗しちゃった」

「アレのどこが悪い人じゃないんだよ」そっちのほうにボゥシューは驚いた「本当にタケルヒノがそんなこと言ったのか?」

「うん、そうだよ」イリナイワノフは素直に肯いた「悪い人じゃなくて、危ない人なんだって。だから一人でやっつけちゃいけなくて、みんなと一緒にやっつけなきゃいけないんだって。エウロパのときみたいに」

「正しいな」

「そうですね」

「それで、なるべく一人で行動しないように、って言われた。みんな一緒なら大丈夫だから」

「あ、それ、良いですね。一緒に住みましょう」サイカーラクラが突然言い出した「個室(コンパートメント)が広すぎて落ち着かなかったんです。前の宇宙船(ダート)ですら広すぎだと思ってたのに、宇宙船(ボード)はその倍ですから。たぶんボゥシューの部屋がいちばん荷物が多いですから、引越しを考えるとボゥシューの部屋に3人で住むのが良いかと…」

「何、馬鹿なこと言ってんだ」ボウシューが声を荒げる「3人で住むのは良いとして、何故ワタシの部屋なんだ? 引越しなんかより掃除のほうが大変だろーが」

「掃除は私がしますから。ボゥシューの部屋は面白い物がたくさんあるので、ボゥシューの部屋が良いです」

「好きなもの持ってってやるよ。サイカーラクラの部屋のほうがいいだろ」

「掃除が面倒です」

「いま、自分で掃除するって言ったじゃないか」

「他人の部屋なら掃除できますが、自分の部屋は無理です」

「そんなむちゃくちゃな話があるか」

 一触即発? そう思ったとき、突然二人がまったく同時にイリナイワノフに顔を向ける。そしてにっこり笑った。

「だめー」イリナイワノフは絶叫した「あたしの部屋は、ぜったい、だめー」

 

「なんか、女性のみなさんが、一緒に住むことにしたらしいぞ。いままでの部屋を物置にして、新しい部屋で3人一緒に暮らすらしい」

「良いんじゃないの? 部屋なら余ってるし」ジルフーコは素っ気無く答えた後、ジムドナルドに向いた「ボクは嫌だからね」

「まだ何も言ってないだろ?」

「オレもヤダ」ビルワンジルが聞かれる前に答えた「トレーニング中に他人がいると気が散るんだ」

「僕は日中、いつも誰かと一緒にいるから」ジムドナルドが口を開くより先にタケルヒノがおおいかぶせる「寝るときはひとりがいいな」

 なんだよ、お前らー、とジムドナルドが一人でいきりたっている。

「もう、お前らとは話さない。彼女たちのところに行こうーっと」

 ジムドナルドが廊下に消えると、ビルワンジルがぼそりと吐いた

「あれは本気で言ってるのか?」

「本気らしいよ」ジルフーコがメガネを直しながら言った「ボクらの本気とは意味が違うらしいんだけどね」

 

「ボゥシュー、ちょっといい?」

 ボゥシューの元個室(コンパートメント)は実験室に改造されている。その入り口から顔を出してタケルヒノが声をかけた。

「2分待って」

 ボゥシューは恒温器(インキュベーター)にシャーレを突っ込んで扉を閉めた。

「これで大丈夫、と」ボゥシューはゴム手袋を外し、抗菌ボックスに投げ入れた「何か用?」

「もうすぐサイユルとベルガーに降りるんだけど、検疫にどれぐらいかかる?」

「降りるほうは難しい。サンプルないんだろ?」

「せいぜい大気サンプルぐらいだな、それも1、2ヶ所がいいところだ」

「ぶっちゃけ、宇宙服滅菌して降りてもらうくらいしか手はないなぁ。帰ってきたら1週間隔離」

「宇宙服脱がなければ大丈夫かい?」

「こっちは大丈夫だけど、むこうは知らないぞ。下手すると星ごと全滅かも」

「脅かすなよ」

「脅しじゃないぞ」

「ま、そうだな」

「データだけなら情報キューブにあるし、適合探査はもう入れてあるけど、あくまで理論上の話だから」

「他の胞宇宙(セルベル)から生物がやってきたことなんかないわけだしなあ」

「行ったことあるのは光子体(リーニア)だけ?」

「そういうこと」

光子体(リーニア)じゃあ、役にはたたないからな。降りないわけにはいかないんだろ?」

「そういう選択肢もないわけじゃないが、それだと光子体(リーニア)と大差ないわけで、わざわざ胞障壁(セルレス)を超えてきた意味がない」

 ボゥシューは目をつぶって考える。

「大気サンプル3と土壌サンプル1、それ受け取ってから2週間」

「ありがとう、恩に着る」

「絶対、確実ってわけじゃないからな」踵を返したタケルヒノの背をボゥシューの声が追いかける「ぎりぎりの妥協案だ。どのみち誰かがやらなきゃいけないんだろうし、やれることは全部やるけど」



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