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ワンダー7  作者: 二月三月
近接宇宙への挑戦

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セルベル(1)

 

「別の宇宙に来たって言うのにあんまりかわりばえしないなあ」

 ジルフーコの隣でボゥシューがバナナラテを飲んでいる。バナナとコーヒーは香りだけだし、牛乳もどきは乳化したオレイン酸グリセリドだ。代替品だけで作ったわりには味はそこそこ。

「物理法則があからさまに異なるのは胞障壁(セルレス)近傍だけだからね」

 ジルフーコはチョコシェークだが、これも以下略。

「そもそも宇宙船(ボード)の中じゃ、かわりばえしないのは当たり前か」

「環境移送型宇宙船だからね。かわりばえしないのは、設計が良いからで、もっと褒めてくれたっていいんだよ?」

「褒めたろ? ジルフーコすごい、って」

「ありがとう」

「ところでさ、この間の話なんだけど」

「ん?」

「やっぱり、…その、細胞もらえない?」

 ジルフーコは思わず吹き出してしまった。チェコシェークに口をつけた時でなかったのは幸運だった。

「だめかぁ、だよな、普通」

 ボゥシューがしょげている。こんなボゥシューを見ることはめったにない。かわいいな、とジルフーコは思った。

「なんでそんなに細胞ほしいの?」

 なんとなく尋ねてみたのだが、それに対するボゥシューの答えは意外なものだった。

「もう、ジルフーコの分だけなんだよ。だから、できればみんなの、って思って」

「え? みんな、もう…、提供済みなの?」

「タケルヒノが一番で、そしたらジムドナルドとビルワンジルもくれた」

 他人があげたからどうこういう話ではないのだが、ちょっとは気になる。

「悪いけど、いろいろあってね。あげられない理由はあまり言いたくないんだけど…」

「あ、いいんだよ。もともと無理な話なのはわかってる。3人分も取れたのが奇跡なぐらいだ」

「女の子の分はいいの?」

「女性は内側だから難しい、だからワタシの分だけ。男性は外に出てるから危険が少ないので…」

 どうもボゥシューの歯切れが悪い。言ってることは正しいのだが、ボウシューは普段もっと暴走気味なのに。

 ジルフーコはサイカーラクラの言ったことを思いだした。曰く、ボゥシューは怪しい、と。

 じゃ、また、ボゥシューはバナナラテの残りを一気飲みして、ビュッフェをあわただしく出て行った。

 ジルフーコはチョコシェークを飲みながら、やっとひとつの結論にたどりついた。

 ボゥシューが怪しいのならサイカーラクラだって怪しいのだ。

 彼女たちはとてもよく似ている。

 

「やあ、元気?」

 ビオトープゾーンでザワディと遊んでいたイリナイワノフはその声に硬直した。

「やっとシールド外してくれたみたいだからさ、話しできてうれしいよ。他のみん…、うわぁ」

 イリナイワノフは伸縮警棒を伸ばすとレウインデの胸を襲った。とっさに躱したレウインデの左肩を警棒がかすめ、光が散って、レウインデの像がぼやける。

「わ、ちょ、ちょっと…、待て、何すんの、やめてよぉ」

 連続で突きを繰り出すイリナイワノフから必死で逃げるレウインデ、木の陰に隠れた。

「いきなり、なんだよお、やめてってばぁ」

「あなたは、悪者だからやっつける」

 木の幹は太さが足りなくて、レウインデの体を隠しきれない。はみ出た半身に突きを喰らわすイリナイワノフ。レウインデはすんでに躱す。

「誰、誰だよ、私のこと悪者って言ったの」

 逃げながらレウインデが叫ぶ。

「ジムドナルド」

「ジムドナルドぉ? 確かに彼なら言いかねないな。わ、ちょ」

「ザワディ」

 ザワディがのそりと二人の間に割って入った。すかさずレウインデは這いつくばってザワディに擦り寄る。

「どいて、ザワディ」

「どいちゃだめだ」

 ザワディに懇願するレウインデ。ザワディは二人の顔を交互に見つめる。遊んで、とその目は言っていた。

「タケルヒノ」レウインデはザワディにしがみついたまま叫んだ「タケルヒノは何て言ってるんだ?」

「タケルヒノ?」イリナイワノフは眉根を上げた「タケルヒノがどうしたの?」

「タケルヒノだよ。タケルヒノは私のこと何て言ってたの?」

 イリナイワノフは最初にレウインデが来た日のことをもう一度思い出してみた。

「何か、立場がどうこう言ってた」

「そう、それ」

「あと、友達になりたいのも本当だろう、って」

「ああ、やっぱり彼はよくわかってくれてるんだ。ね、そうでしょ、イリナイワノフ、君はタケルヒノとジムドナルドのどっちを信用する?」

 イリナイワノフはそう言われて、困惑の表情を浮かべる。

「あなた、悪い人じゃないの?」

「違う、違う、もう全然違う、誤解されやすいタイプなんだよ、私。ね、ザワディ、君からもイリナイワノフに言って」

 ザワディは、あおんと鳴いたが、これはとても遊んで欲しい顔だ。ザワディは、ひょいと飛んで尻尾をふりふりした。

「あ、ちょ、ザワディ」

 イリナイワノフとレウインデの間には、もうザワディはいない。

 じりじりとイリナイワノフが近づいてくる。

 もう次の突きは絶対にはずさない間合いまで詰め寄った。

「ごめんなさい」イリナイワノフは泣きそうな顔で謝る「あたし、あなたが悪い人だとばっかり思って…」

「あ、いや、誤解とけたんなら、それで、はは…」レウインデは気が抜けたように笑う「ところで、その棒すごいね。かすっただけで体がバラバラになりそうだった」

「あ、これ?」イリナイワノフは右手の警防を上げた「タケルヒノとジルフーコにもらったんだ。あたし仕組みはよくわからないんだけど、たぶん効くからって」

「あ、そうなんだ。ちょっと見せて…」

 おーい、遠くから呼ぶ声にイリナイワノフは振り向いた。

「あ、ビルワンジル、おーい」

「どうしたー? 何かばたばたしてたみたいだけどー」

 手を振るイリナイワノフめがけて、ビルワンジルが疾走してくる。

「うん、レウインデが来たんだ。あのね、レウインデって悪い人じゃないんだって」

「レウインデ? どこに」

 言われてもう一度もとのほうに振り向いたイリナイワノフ。

「あれえ? いままでここにいたんだけど、帰っちゃったのかな」

「まあ、いいさ、無事なら」ビルワンジルが息を弾ませながら答えた「タケルヒノのところへ行こう。いますぐだ」

 

 


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