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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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セルレス突破(3)

 

 渦はいつの間にか消えていた。

 壁は薄暮を思わせる。淡い濃淡のない光だ。

 スクリーンを間接照明に切り替えたわけではないのは知っている。

 そと(丶丶)がこのようになっているのかはわからない。オールレンジの観測装置であってもそと(丶丶)をとらえることができない状態なのかも知れない。

 ただ、皆、そと(丶丶)のことにはそれほど注意を払わなくなっていた。

 いま、重要なのはそと(丶丶)ではない。

 皆、一心にタケルヒノだけを見つめていた。

 

 ボゥシューは夢を見た。

 たぶん、夢だったのだと思う。

 現実にはありえないことだったと思うから。

 現実には、ありえない?

 夢現の最中、どちらかを選べば、それが現実であり、もう片方が夢だ。

 選ばれなかったほうがなくなってしまう。

 最初からなくなるのだ。

 それが夢。

 選ばれなかった、現実。

 選んだのはボゥシューではない。

 選んだのは…

 

「夢を見た」

 ボゥシューは言葉に出した。

「私も見ました」

 サイカーラクラも言った。

「おかしな夢だった」

 まだ醒めやらぬ、そんな感じでイリナイワノフも夢を認めた。

「どんな夢だった?」

「忘れちゃった」

「私もです。…あるいは夢など見ていなかったのかも…」

「ワタシも憶えてない」

 ふとボゥシューは壁スクリーンに目をやった。無限の色が折り重なって渦をまき散らしている。

「あれは、いつからああだ?」

 ボウシューが尋ねた。

「いつから?」イリナイワノフが怪訝な顔で聞き返した「ずっとああだよ」

「ずっと?」

 ボゥシューは眉間を曇らせ、イリナイワノフの顔を見つめた。

「どうしたの? ボゥシュー?」

 はっ、としてボゥシューは我に返った。

「どうしたの? ボゥシュー」

 イリナイワノフがボゥシューの顔をのぞき込む。

「いや、なんでもない」

 ボゥシューは大きく頭をふった。

「夢を見ていたんだよ」

「どんな夢?」

「さあ」もう一度、ボゥシューはスクリーンに目をやった「忘れてしまったよ」

 

「ねえ、あれ、何?」イリナイワノフがうごめく壁の一点を指した。

 ジルフーコがサブコンソールに近寄って、部分拡大する。

 白くぼんやりと宙に浮かぶ、稜線の不確かな球体は、周囲の渦には影響をうけずに独自の明滅を繰り返している。

「なんか、さっきのに似てるな」

 ボウシューのつぶやきに、ジルフーコは録画像をとなりに枠付で表示した。

「これ、ふたつ、そっくりだよ」イリナイワノフの声音が悲痛に響く「もしかして、さっきのところに戻っちゃったの?」

 突然、タケルヒノが笑い出した。ジルフーコもつられて笑う。

 少し遅れて、ジムドナルドも笑い出した。

「これ、レウインデかな?」

「さすがにここまで馬鹿じゃないだろ、皇帝陛下じゃないか?」

「誰でもいいけど、ありがたい、わざわざ出口表示してくれたんだから」

「ねえ、いったい何よ」さっきまで泣きそうだったイリナイワノフが怒りだした「みんな、笑い出して、あたし全然わかんないよ」

「ごめん、ごめん」タケルヒノは謝るが、まだ笑いが止まらない「胞障壁(セルレス)の特性からいって、もとの位置に戻るっていうのはありえないんだよ。胞障壁(セルレス)は一方通行で入り口と出口が違うからね。だからこういうトラップを思いつくのは、胞障壁(セルレス)のことをよく知らないか、あるいは胞障壁(セルレス)を無視できる光子体(リーニア)の発想、ということになる」

「そんなふくれるなってばイリナイワノフ」ジムドナルドが慰める「おかげで俺達が胞障壁(セルレス)突破したのを早く確認できたんだから」

「え? 突破したの?」

「そうだよ」ジルフーコが代わりに説明をはじめる「この二つ、イリナイワノフも言ってたけどそっくりだろ、わざわざそっくりにして同じところに戻ったと思わせようとした。でも胞障壁(セルレス)の特性上、それはありえない。それでトラップがばれたわけだけど、これだけ同じに見えるっていうのは実は胞障壁(セルレス)の近くの同じ側ではまたありえないことなんだ。周囲の渦巻きずっと見てたろ、動きながらほんの一瞬も停止しない、胞障壁(セルレス)は基本的にああなんだ。同じように見えるには対になるもう一方、入り口と出口の双対点でしか同じに見えない。入り口のはさっき見たこっち。当然、いま見えてるのは出口側だ」

「策士策におぼれるか」ボゥシューがつぶやいた「ところでジムドナルド、ずいぶん胞障壁(セルレス)に詳しくなったんだな」

「え?俺が? 冗談よせよ、ボゥシュー」

「さっき、タケルヒノやジルフーコと一緒に笑ってたじゃないか」

「そりゃ笑うさ」ジムドナルドはすました顔だ「二人が笑ったからな。連中がしくじったのがわかった。むこうが失敗したんなら。こっちは成功だ。胞障壁(セルレス)突破おめでとう、だ」

 どうだ、と胸を張るジムドナルド。

 頭の良し悪しは別として、使い方は間違ってないな、ボゥシューはそう思った。

 


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