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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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セルレス突破(2)

 

 宇宙船(ボード)中央部、慣性航行時は無重量区画だが、現在は加速運行中なので0・3G分の重さがかかる。

 管制室オペレーティングルームは大気圧運用だが、不慮の災害に備えて、全員宇宙服を着用。もちろんザワディもだ。

「もう胞障壁(セルレス)なの?」

 イリナイワノフはタケルヒノに尋ねた。

「そのへんは難しいんだけどね。胞宇宙(セルベル)胞宇宙(セルベル)の間にはたしかに胞障壁(セルレス)があるんだけど、胞宇宙(セルベル)胞障壁(セルレス)の境界っていうのはあいまいなんだ。まあ、説明するより、そと(丶丶)見てみるかい?」

 壁スクリーンいっぱいに、そと(丶丶)が映しだされる。

 誰からともなく、うわぁ、と声が上がった。

 オーロラのように極彩色の光の渦が壁一面にうごめいている。

「もう胞障壁(セルレス)なのね」

「いや胞障壁(セルレス)じゃない、通り過ぎればわかるけど、それまではまだなんだ」

「この色、プラズマシールドのせいも少しあるんだけどね」ジルフーコが言う「なんならはずしてみる? 胞障壁(セルレス)が近いから本当はシールドなんかいらないんだけど」

「そう思ってはずしたら変なのが来たんだ」タケルヒノは渋い顔だ「まだ邪魔ってほどでもないから、もう少しつけといて」

「わかったよ」

 ジルフーコはクククと笑う。

光子体(リーニア)は、こんなところまで来れるのか?」

 スクリーンの渦巻きのひとつがはじけるのを眺めながら、ビルワンジルが尋ねた。

「来れるか、っていうより、むしろ光子体(リーニア)にとっては大得意だろうな、こういう場は。レウインデは胞障壁(セルレス)を超えるまではこない、って言ってたからいいけど、他のが来るかもしれないし」

「あのヘンなのの言うことなんか信じるのか?」

「ああいうタイプは約束は守るんだよ。逆に言ったら、約束しか守らないけど」

「そうだ、あいつは大悪党だからな。悪党は約束は守る。約束やぶる奴は小悪党だ」

 大笑いするジムドナルドを見て、なるほど、とボゥシューは思った。

「あれ、何だろう?」イリナイワノフがうごめく壁の一点を指し示した。

 ジルフーコがすかさずその点を拡大する。

「ちょっと、ぼやけてて、よく見えないな」

「シールド切るよ」

「そうしてくれ」

 プラズマシールドの影響がなくなると、像はだいぶはっきりしてきた。ジルフーコが多段で画像処理フィルターをかけていく。

「人工物みたいだな」

「ひょっとして、宇宙船じゃない」

 ボゥシューとイリナイワノフがたがいに囁く。

「まあ、見えなくもないかな」

「マシュマロにしか見えないなー」

 ビルワンジルとジムドナルドも参戦してがやがやしだした。

「どう思う?」

 尋ねるジルフーコにタケルヒノは妙な面持ちで返した。

「ノーコメント、てことでいいかな」

「わざわざ、そんなこと言うってことは、何か思うところあるんだね?」

「それも含めて、ノーコメント。正直、あまり関わりあいたくないな」

「わかった」

 まだ、わいわいやっている仲間たちを横目で見ながら、ジルフーコはタケルヒノに声をひそめて言った。

「そろそろ代わってくれないか。もうボクじゃ、無理な領域にさしかかりつつある」

「ありがとう、お疲れ様」タケルヒノは航行オペレーターの席をジルフーコと交代した「いよいよ本番だ。まあ、気楽に行くさ」

 

 タケルヒノが席についてから、皆、あまり話をしなくなった。

 壁いっぱいのスクリーン中を動く極彩色の渦はどんどんスピードを増していく。

 発生と消滅の頻度もいやおうに増す。

 しかし、またそれも、ただ感覚だけの問題なのかもしれない。

 変化があるのかないのか、そして時間さえも、明滅する渦の中に飲み込まれていくようだ。

 女の子たちは、いつのまにか、皆、ザワディに寄り添っていた。

「怖くないかザワディ」ボゥシューが言った。

 ザワディは答えなかった。尻尾をゆっくりと左右に振る。特注のラバースーツはザワディの尻尾のしなやかさをまったく損なわない。

「ワタシは怖いよ。とても怖い」

 サイカーラクラとイリナイワノフはザワディを抱きしめていた。

 ラバースーツの上からではザワディの毛並みを確かめることはできない。それでも彼女たちを落ち着かせるには十分だった。

 ビルワンジルは女の子たちとザワディを見つめている。

 ジムドナルドは渦巻く虚空を睨みつけている。

 そして、ジルフーコは、ずっとタケルヒノを見つめ続けた。

 

 

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