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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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セルレス(6)

 

「やあ、最近、すっかり任せっきりですまない」

 ひさびさに農場(ファームゾーン)に足を踏み入れたタケルヒノは、ビルワンジルと一緒にカブの間引きを手伝った。

「まあ、こっちは暇だしな。手伝いもいるから仕事は捗るよ」

 ビルワンジルの隣でケミコさんが器用にカブを間引いていく。ことによるとタケルヒノよりうまいくらいだ。

「むこうは、じゃがいもかい?」

 タケルヒノの指したほうを見たビルワンジルは首を振った。

「いや、あれは、タロイモだ」

「タロイモは食べたことがないな。楽しみだ」

「あとどれくらいこんな風に過ごせる?」

 ビルワンジルの口調は穏やかだった。タケルヒノもまた、今年の天気でも占うような感じで返した。

「早ければ3週間だが、ことによると半年くらいかかるかもしれない。あと1週間もすればエリスを通過するから、そうすれば、もう少しはっきりする」

「なんだ」ビルワンジルは意外そうな顔つきだ「宇宙の果てに行くような話だったからもっと時間がかかるのかと思ってたぞ」

「ジルフーコがかなりがんばってるからね。もう光速の2%くらいのスピードだと言ったら驚く?」

「ボゥシューがそんなこと言ってたなあ」ビルワンジルは動じない「しばらく宇宙遊泳ができないってぼやいてた」

「さすがに宇宙遊泳は無理だな」

 タケルヒノは笑った。その笑いが収まるまで待って、ビルワンジルが聞いた。

「そう言えば、エリスに行くみたいだけど、行って何をするんだ?」

「いや、何も。もう結構なスピードだから減速してロスしたくないんだ。エリスには止まらないで通り過ぎるだけだ。それで用は足りると思う」

「その先は、胞障壁(セルレス)?」

「そう、胞障壁(セルレス)だ」

胞障壁(セルレス)を抜けるのにどれくらいかかるんだ?」

「時間は関係ないんだよ」タケルヒノはちょっと困った顔になった「一瞬とも言えるし永劫とも言える」

「じゃあ、最短だと1ヶ月足らずで、別世界か」

「確かに別の胞宇宙(セルベル)に行くわけだから、別世界だな」

「どんなところだ?」

「それがわからないんだよ」タケルヒノはお手上げという感じで両手を上げた「情報キューブにある既知の胞宇宙(セルベル)のデータはサイカーラクラにまとめてもらっているんだが、太陽系のデータがないから、正直どこに出るのかまったくわからない。既知の胞宇宙(セルベル)に出られれば、その先はなんとかなると思うけど」

「やっと俺の出番が来るな。頭を使わない方の仕事だ」

「頭も使うとは思うけど、まあ、体力勝負になる可能性は高い」

「ちゃんとトレーニングしておくよ」ビルワンジルは歯を見せて笑った「そのためにも、たらふく食わなきゃな」

 

「おーい、ボゥシュー」

 ビュッフェでくつろぐボゥシューにジムドナルドが声をかけてきた。

「宇宙遊泳しようぜ。みんな誘ってさ」

「あいかわらず超弩級の馬鹿だな。オマエは」ボゥシューは手厳しい「宇宙船(ボード)は光速度の2%で巡航中だ。おまけに加速し続けてる。プラズマシールドがなければデブリで穴ぼこだらけだぞ。こんな時に船外(そと)に出られるか」

「タケルヒノみたいなこと言うなよ」

「オマエ、タケルヒノにも言ったのか。救いようのないヤツだな」

「退屈なんだよ。やることないし」

 いつもなら罵倒して立ち去るところだが…、ボゥシューの瞳の奥底が怪しく光った。

「そんなに暇なら、実験手伝ってくれ」

「お、なんか、面白そうだな」

情報体(リーンファノア)は不死だっていうから、こっちも手立てを考えなくちゃならない」

「ふむふむ」

「オマエみたいなのでも、いないよりいるほうがマシだからな、オマエが死んだ時のためにスペアを作っておこうと思う」

「いいよ、俺死なないから」

「細胞をくれ。オマエが死んだ時に複製(クローン)造るから」

 はい、とジムドナルドは髪の毛を一本引き抜いてボゥシューに渡した。

「こんな末端の分化しすぎて遺伝情報スカスカのやつじゃだめだ」

「どんなのがいいんだよ」

「未分化の完全遺伝情報を持った細胞がいい」

 ものすごーく嫌な予感がして、踵を返し逃げようとしたジムドナルドの右手首を、ボゥシューがつかんだ。

「細胞をくれ、針刺して採取するだけだ。麻酔かけてやるから、な」

「冗談だろ」

「本気だ。すぐすむから」

 ジムドナルドは手を振り払って一目散に逃げ出した。

 

「ボゥシューが実験用の細胞提供者を探しているようですが」

 サイカーラクラはいつも唐突だ。これにはジルフーコもなかなか慣れない。

「ジルフーコは細胞提供しますか?」

「丁重にお断りしたよ」

「そうですか」

「サイカーラクラは提供するの?」

「女性の細胞は必要ないそうです」

「へぇ」

 サイカーラクラは何か考えている風だ。

「私はボゥシューが怪しいと思います」

「そう?」

「ああ見えて、ボゥシューは意味のないことは絶対しない人です」

「ボゥシューの実験にはどんな意味があるの?」

「わかりません。でも興味はあります」

「キミたち似たところがあるからね」

「キミたち? 誰ですか?」

「サイカーラクラ、キミとボゥシューがだよ」

「それは違います」サイカーラクラは驚くほどきっぱり言い切った「私とボゥシューが似ているなんてありえないことです。私は彼女のように可憐ではありませんから」

 

「ねえ、聞いた? ボゥシューが変なことはじめたんだって」

 イリナイワノフがタロイモ畑にやってきた。ザワディも一緒だ。

 ザワディは畑仕事に関してはケミコさんほどは役に立たない。

 じゃあ、休憩にするか、ビルワンジルとタケルヒノは畑の隣に腰掛け、交互に水筒の水を飲んだ。

「変なこと、って何だ?」

「よくわかんない」イリナイワノフはビルワンジルに答えた「注射器で精気を吸い取る実験だ、ってジムドナルドが言ってた」

「ジムドナルド?」

 ビルワンジルとタケルヒノは顔を見合わせる。

「ジムドナルドじゃ」

「いいとこ、話半分だな」

「あたしもそう思うー」

 イリナイワノフはザワディのたてがみをなでつける。最近、ずいぶん生えそろってきたのだ。

「タロイモの収穫でも手伝わせるか」ビルワンジルが言った「どうせ暇を持てあまして、ボゥシューにちょっかい出したんだろう」

「あまり畑仕事は向かないんじゃないかな、彼は」タケルヒノはザワディに目配せした「どう思うザワディ?」

 ザワディは大きくあくびした。

 

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