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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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セルレス(5)

 

「あー、タケルヒノ君、ちょっといいかな」

「いいけど、手短にね」

「いそがしいのか?」

 ジムドナルドは心配そうに声を落としたが、タケルヒノは相変わらずだ。

「いや、暇だけど」

「なら別にいいじゃないか?」

「さっさと用件すましてくれたほうが、ありがたいんだけど?」

 わかったよ、とジムドナルドはタケルヒノの隣にどっかと腰を下ろした。

胞障壁(セルレス)突破の可能性はどれくらいだ?」

「さあねぇ」タケルヒノは笑った「実績という点では、光子体(リーニア)以外で胞障壁(セルレス)を突破できたものはいない。あくまで情報キューブの内容を真実だとすれば、っていう話だけどね」

「情報キューブがその件だけ隠蔽してる可能性があるぞ」

「そんなことをしたら、情報キューブ自体の整合性がくずれる。サイカーラクラはそんなことはないと言っているし、そもそも情報キューブの内容に欠陥があったら、ジムドナルド、君が黙ってないだろう?」

「ああ」ジムドナルドは渋々肯いた「情報キューブの内部整合性については問題ない」

 ジムドナルドは話題を変えた。

最初(ピス)光子体(リーニア)は何故、宇宙船(ふね)に乗って太陽系に来たんだ? 光子体(リーニア)は直接、胞障壁(セルレス)を超えられるんだろう?」

「それはそうだが、超えたとしても光子体(リーニア)だけでは何もできない」

「何故だ?」

光子体(リーニア)胞障壁(セルレス)を超えて持ち込めるのは情報(リーンファン)だけだ。胞障壁(セルレス)を超えて胞宇宙(セルベル)に来たとしても、胞宇宙(セルベル)の知性体の助けを借りないと何もできない。最初はそれをやったみたいだけど。あまりうまくいかなかった」

「オーバーテクノロジーに押しつぶされたり、情報体(リーンファノア)になってしまったり、か」

情報体(リーンファノア)になった例がいちばん多かったみたいだね。一応、不死の体だから、魅力的なんだろうな」 

「なれるのか? 情報体(リーンファノア)に?」

「なりたいんなら、どうぞ」タケルヒノはコンソールを叩いて船内マップの一部を拡大する「装置だけなら作ってある。セルレス突破がなんらかの事情で失敗したときには、最悪、情報体(リーンファノア)になって脱出するしか手がないっていう場合も想定されるから」

「へえ、いっぺん、なってみるかな」

「ご自由に」タケルヒノはコンソールのマップを消した「もとに戻れないけどね」

「戻れないのか?」

「戻れるのなら、こんなややこしい話になってない。光子体(リーニア)になって胞障壁(セルレス)を突破し、元の体に戻る。至極簡単だ」

「つまり、生身で胞障壁(セルレス)を突破したヤツがいないってのが、そもそも騒動の原因か?」

「そうだ。第一(ピス)光子体(リーニア)はどうにかして情報体(リーンファノア)にならない状態での胞障壁(セルレス)突破を成功させようとしている。反対勢力はそれをやんわり阻止したい」

「そりゃあ、光子体(リーニア)としては、光子体(リーニア)にならずにほいほい胞障壁(セルレス)超えられたんじゃあ立場がないな。だが、最初(ピス)光子体(リーニア)が、光子体(リーニア)以外で胞障壁(セルレス)を突破させようとする意図はなんだ」

「本当のところはよくわからない」タケルヒノの声がとぎれ、しばし、何かを考えているようだった「強いてあげれば、理想、かな?」

「理想?」

第一(ピス)光子体(リーニア)は、文字通り、宇宙で一番最初に胞障壁(セルレス)を超えた。彼がどういう思いで胞障壁(セルレス)を超え、その後、胞宇宙(セルベル)を巡りながら何を考えたのかはわからない。けれど、現状が彼の思いとはかけ離れてしまったのは確かなんだろう。その彼の理想を取り戻すために、光子体(リーニア)でない者が胞障壁(セルレス)を超えなければならない」

「手前勝手な話だ」

「あくまで推測だから、本当のところはわからないよ」

「じゃあ、与太話はここまでとして」ジムドナルドはすべてを与太話で片付けてしまった「最初に戻るぞ。胞障壁(セルレス)は突破できるのか?」

「できるよ」

 よし、とジムドナルドは立ち上がった。

「それだけ聞ければ十分だ。邪魔したな」

 タケルヒノは笑い出した。

「理由は聞かないのか?」

「ああ、理由なんか聞いてやらん」ジムドナルドは右手人差し指をタケルヒノに突きつける「この間の仕返しだ。それに最近流行ってるんだ。難しいことはタケルヒノにおまかせ、だ」

「なんだよ、それ、ヒドイな」

「サイカーラクラに教わった。文句があるならあの子に言ってくれ」

「そんなこと言えるわけないじゃないか」タケルヒノは少し寂しそうな顔をした「僕が話しかけると固まっちゃうんだよ。サイカーラクラ」

「おい、お前、それ本気で言ってるのか?」

 この時ばかりはジムドナルドも冗談抜きでタケルヒノに突っ込んだ。

「本気、って何が?」

「いや、サイカーラクラのこと」

「最近、やっと顔を隠す率が減ってきたんだよ。何でだろう。怖がらせるようなことしたおぼえないのに」

「俺、知ってるもーん」

「え? 何が」

「知ってるけど、教えてやらん。ずっと悩んでろ」

 ジムドナルドはタケルヒノを置き去りにして廊下に出た。だって、教えたってジムドナルドに良いことなんてひとつもないのだ。

 

 

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