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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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セルレス(4)

 

 サイカーラクラは浮かれている。

 あまりに浮かれていて地が足についていないぐらいだ。

「サイカーラクラ」

 イリナイワノフだった。

「はい?」

「よかった、元気になったんだ」

 サイカーラクラの顔がみるみる真っ赤になった。

「あの、私」サイカーラクラにも少し自覚はあったみたいだ「最近、おかしかったでしょうか?」

「あ、まあ…」イリナイワノフは適当にごまかした「それより、ボゥシューのことなんだけど」

「ボゥシュー?」

 しまった忘れていた。ボゥシューが元気ないという話だった。

「ボゥシュー、元気ないのですね」

「うーん、一時期よりはマシになったとは思うんだけど…、それでさ、ビュッフェに誘ってみようと思うんだ。だから、先に行って待っててくれる?」

「あ、はい、わかりました」

 サイカーラクラは答えたものの、不思議でしょうがなかった。ボゥシューが元気がないって、どういうことだろう。

 

 イリナイワノフが連れてきたボゥシューを見て、サイカーラクラは心底驚いた。本当に元気がなさそうに見える。

「あ、あの、ボゥシュー?」サイカーラクラは尋ねた「本当にボゥシューですか?」

 イリナイワノフは下唇を噛んで必死にこらえた。こんな場でなければ吹き出している。

――天然にもほどがある

 サイカーラクラを呼んだことをイリナイワノフはちょっぴり後悔した。

「サイカーラクラは面白いな」ボゥシューは少し笑った「ボゥシューだよ、間違いない」

「すみません、私」サイカーラクラは真っ赤になって謝った「私、最近、おかしいみたいなんです。ごめんなさい、ボゥシュー」

胞障壁(セルレス)で悩んでるって聞いたけど、そのせい?」

「それはもうやめました」

「やめた? どうして?」

「考えてもわからないから、考えるのをやめました。私は胞宇宙(セルベル)のことを考えます」

胞宇宙(セルベル)って、多元宇宙のこと?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。難しいことはよくわかりません。でも、宇宙人はたくさんいます」

「宇宙人?」ボゥシューが身を乗り出した「宇宙人がいるの?」

「いますよ」サイカーラクラは胸を張った「この前、あったばかりじゃないですか。情報体(リーンファノア)は宇宙人です」

「ほんとだ、気がつかなかった」ボゥシューの目が輝きだした「宇宙人だよな、あれ、もっとたくさんいるの?」

「いますよ。可算無限個います」

 最近覚えたので使ってみたのだが、実を言うとサイカーラクラにはあまり意味がわからなかった。とても多い、ぐらいのことだと思う。

「どうやって行くんだ?」

「それは知りません。でもタケルヒノが知ってます」

「そうか、そうだよな」

 ボゥシューは、さっきのサイカーラクラの言葉を噛みしめた。

「わからないことは考えなくていい」

「そうです」

「よし、一緒に宇宙人を探しに行こう」

「行きましょう」

 何かおかしな勢いに、イリナイワノフは呆気に取られてしまった。二人の言っていることは、タケルヒノなどとは別の意味でよくわからない。

――ボゥシュー、元気になったし、いいかぁ

 そう思っていちおう納得はしてみたが、イリナイワノフには、宇宙人というのはやっつけるもの、という認識しかないので、ボゥシューとサイカーラクラが何に興奮しているのか、まったく理解できなかった。

 

「最初の突破点の候補は決まった?」

 タケルヒノの問いに、ジルフーコは若干、自信なげだ。

「セドナの遠日点、というか楕円焦点の片方を放物展開した形、かな?」

「いい線だと思うけど、何か不満がある?」

「エリスが気になるね」

「そうだな」

 タケルヒノはちょっと間を置いてから切り出した。

「確かにセドナの遠日点のほうが航路積分の結果としてエネルギーロスは少ないみたいなんだけど、これエリスとほとんど差はないよね」

「まあ、誤差範囲内だね」

「とすると、セドナを選んだ理由は?」

胞障壁(セルレス)までの距離推定の確度だ。推定に使った彗星の軌道から、黄道面付近の胞障壁(セルレス)までの距離は平均2000天文単位、これはほぼ確実なんだけど、黄道面から傾斜すると途端に精度がガタ落ちになる。エリスについては第一(ピス)光子体(リーニア)の航路データがあるから、そこだけは確かだけど、太陽から胞障壁(セルレス)までの距離が170天文単位で一桁以上違うんだ」

胞障壁(セルレス)が扁平なら別に問題はないな」

「黄道面に垂直な方向に薄いってこと? まあ、球面だっていう根拠は何もないからね。ただデータが少ないから自信がない」

「エリスのほうがずいぶん近いな」

「そりゃそうだ」

「たとえばの話だけど…、エリスを経由してセドナの遠日点には行ける?」

「行けるけど、かなりの回り道になる。エリスの公転軌道が黄道面から44度傾いてるのがつらい」

「エリスには降着しなくていい、すれ違うだけでいいんだが」

「それなら多少楽だけど」ジルフーコは右手でメガネを抑えた「何か勝算でもあるの?」

「勝算ってほどでもないけどね」タケルヒノはどこか楽しそうだった「第一(ピス)光子体(リーニア)だよ。いろいろ焦ってるみたいだから。出口の航路を消すのは当たり前として、本来は入り口の航路だって残しちゃいけないんだ。うっかりミスというより、ぎりぎりのルール違反なんじゃないかと」

「試してみる価値はありそうだな。じゃあ全速でエリスに行こう」

「待てよ、他のみんなの意見も聞かないと…」

「無駄なことはやめようよ」ジルフーコは言いながら航路プログラムを変更してしまった「タケルヒノ、ここまできてキミの意見に反対するメンバーなんかいないんだから。もう、みんなの意見を聞くのは来週の献立を決めるときだけにしよう」

 

 

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