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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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セルレス(2)

 

 ビオトープゾーンの草の上で寝転ぶビルワンジル。

 ここは最近ビルワンジルのお気に入りで、同じ場所に何度も寝転ぶものだから、そこだけ草が短くなっている。

 ときどきケミコさんがやってきて、ビルワンジルが活動していないことを確認すると去って行く。

 農場(ファームゾーン)では畑仕事をよく手伝ってもらうので、荒地仕様のケミコさんはビルワンジルを見かけると寄ってくる。ケミコさん的には、ビオトープゾーンと農場(ファームゾーン)の区別はあまりつかないらしい。あるいはジルフーコのプログラムミスかもしれない。

「ザワディいないね」

 頭上からの声に目を開けると、上からのぞき込むイリナイワノフの顔が見えた。

「最近、ビュッフェのあたりうろついてるほうが多いんだよ。ボゥシューが贅沢させるから」

「ボゥシュー、かぁ」

 イリナイワノフは、ちょっと別のことを考えたが、思い直して、ビルワンジルのとなりに腰を下ろした。

「ビルワンジルってさ」

「ん?」

「セルレスの話、いつごろ聞いたの?」

「ずいぶん前だなあ、ザワディを引き取りに地球に降りるより前だから」

「あたしもー」

 イリナイワノフはおどけて見せたが、ビルワンジルの反応がいまいちなので、少し恥ずかしくなった。それでも話をしないわけにもいかないので、がんばって話した。

「最初に、セルレスの話聞いたとき、どんな風に思った?」

「どうって言われてもなあ」ビルワンジルにはイリナイワノフの意図がわからず、書き割りの空を眺めている「まあ、ややこしい話だなとは思ったけど、だからどうする、って話でもないしな。どっちかって言うと、政府の役人につかまって宇宙船(ふね)に乗れって言われたときのほうが衝撃的だったから、宇宙がどうのこうの言われても…」

「あたしとおんなじだあ」それからイリナイワノフは、ちょっぴり真剣な顔になった「ボゥシューは一昨日聞いたんだって、なんかショック受けてた」

「ボゥシューはそうかもな」ビルワンジルは何だか納得してしまった「いろいろ宇宙に詳しかったみたいだし」

「うーん、そうだよねー」イリナイワノフは歯切れが悪い「それでさ、どうやって慰めたらいいと思う?」

「え?」

「ボゥシューのこと」思わず声が大きくなった「だって、元気出して欲しいし」

「うーん」ビルワンジルは起き上がって伸びをした「そういうのはタケルヒノにまかせておけばいいんじゃないかなあ」

「え…、でも…」

「て言うか、正直よくわからん」ビルワンジルは本当に困った顔になった「ボゥシューじゃなくて、たとえば、イリナイワノフがショック受けてても、オレどうしたらいいかわからないよ」

「あたしはショック受けたりしないから、いいよ」

「そもそも、オレじゃ女の子の気持ちなんかわかんないし、サイカーラクラにでも聞いたほうがよっぱどマシだと思うぞ」

「それがさぁ」イリナイワノフはうつむいた「実はもう話したんだよね、サイカーラクラには」

「え?」

 なにか、イリナイワノフの様子がおかしい。声もかろうじて聞き取れるほどのかすれ声。

「そしたらさ、真っ青な顔して、私セルレスのこと聞いてません、って言い出して…」

「それは…」

「がたがた震えだして、聞きに行かなきゃ、って言うもんだから、イヤならやめといたほうがいいんじゃない、って言ったんだけど、どうしても行く、って、それで…」

「あのさ、それ、オレじゃなくて、もっと頭のいい…」

 そこまで言ったビルワンジルの頭に、ジルフーコとジムドナルドの顔が浮かんだ。

――無理か

「あたし、馬鹿だから、もうどうしていいかわかんなくて…」

「いや、イリナイワノフ馬鹿じゃないから、オレのほうが馬鹿だし」

 これ慰めにもなにもなってないじゃないか、ビルワンジルはあせりまくったが、これはもうビルワンジルがどうにかできるような類の話じゃない。

「ザワディ」

 のそりと現れたザワディに思わず頼ってしまった。

 ビルワンジルに呼ばれたザワディは、何事? という面持ちで二歩飛んでやってくる。

 イリナイワノフの頬に鼻を近づけ、ふんふん、と匂いをかぐ。

「ざわでぃ」泣きそうな顔でイリナイワノフはザワディの首に抱きついた。

 オレがいなかったら、たぶん泣いてるんだろうな、とビルワンジルは思ったが、いまさら立ち去るわけにもいかず。

 ビルワンジルは、ザワディとイリナイワノフを見守るしかなかった。

 


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