表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/251

揺れる星(6)

 

 木星とエウロパの姉弟星の満ち欠けが、エウロパの海(丶丶丶丶丶丶)を揺らす。

 揺れる海に、わずか数キロメートルの薄氷が耐え切れずに裂ける。

 裂け目からのぞくエウロパの海(丶丶丶丶丶丶)、暗くたゆとういつもの姿とは異なり、膨潤する光が裂け目を満たした。

 圧倒的な白い光が裂け目を目指して昇華する。全反射角度域にかからない垂直上昇だ。

 幾重にも稜をまとった白色光が、多目的機(マルチロール)の前に現出した。

「ホン艦ハ、航行中小型船舶、識別符号11348795デアル。貴艦ノ応答ヲ求ム。ホン艦ハ、観光旅行中、ホン星系第ゴ惑星軌道ヲ遊覧中デアル。応答サレタシ。貴艦ノ突然ノ出現ニ、驚キ多シ、重ネテ、貴艦ノ応答ヲ…」

 ジルフーコはジムドナルドの弁説に噴出しそうになった。よくこれだけでたらめが口から出てくるものだ。

「ホン艦は、貴艦ノ…って、おい」ジムドナルドはレシーバーを外した「コンピュータがイカれた、もう説得は無理だな」

 タケルヒノはすでに操縦を手動に切り替えている。

 白色光が螺旋を描いて多目的機(マルチロール)に襲いかかろうとした刹那、宇宙船(ボード)ミーティングルームの壁スクリーン映像が消えた。

「タケルヒノが電磁シールドをはった」

 ジルフーコが他の3人に説明した。

「それで、これからどうなる?」

「どうって言ってもねえ」ビルワンジルの問いに、ジルフーコは右ひじをデスクについて頬杖した。「あの程度の光子体(リーニア)ならシールドで十分跳ね返せるし、…まあ、ボクならすぐ帰ってくるけど、タケルヒノはそんなことしないだろうしなあ」

 

「よし、いいよ、イリナイワノフ」

 タケルヒノの合図で曳光弾が白い光を襲う。

 自身の数万分の1の輝きしかもたぬ曳光弾の飛跡に、何故か、光子体(リーニア)は悶え狂う。イリナイワノフは光の密度が最も高く輝く部分を狙い撃ちした。

「意外と効くもんだな」

「おい、油断するなよ。また潜ったぞ」

 ジムドナルドの忠告に、タケルヒノは左手をあげて返す。

「大丈夫、さっき氷が割れたときに潜航艇を投下した。高出力の短波長レーザー装備してるから、競り負けることはないと思う。耐え切れなくてそのうち出てくるから、イリナイワノフ、そのまま待機して」

「わかったー」

 裂け目の間、固まりかけの氷を通して、青白い光が何度も行きかう。

 レーザー攻撃と自身の減衰に耐え切れなくなった光子体(リーニア)が再び浮上する。

 燦然と周囲に光を振りまくも、あきらかにさっきより一回り小さい。

「ジムドナルド」タケルヒノが後部座席に振り向いた「もう一回頼む」

「応答セヨ、ヤムナク発砲スルモ、ホン艦ニ交戦ノ意思ナク…、ああ、またダメだ」

「イリナイワノフ」

 曳光弾の集中連射。今度は光子体(リーニア)は上空へと逃れ、中心部を渦巻状に回転させると自分自身を吸い込むように、消えた。

「逃げた、か?」

「逃げた、な」

 もういいよ、とイリナイワノフを銃座から戻させる。

「もう逃げちゃったの?」

興奮さめやらぬ、といった感じのイリナイワノフは、口惜しそうに愚痴る「まだ弾たくさん残ってるのに」

「いちおう、交戦の意思なし、って呼びかけてるからね」タケルヒノが慰めた「全弾撃ちつくし、だと説明しづらいから、弾は残ってたほうが良いんだよ」

「誰に説明するの?」

 タケルヒノとジムドナルドは顔を見合わせた。

「ま、そのへんは、いろいろあるんだ」とジムドナルド「だいたいは、この件に何の関係もないヤツが説明しろって言ってくるんだ。何故かは聞くなよ。とにかくいるんだよ、そういうのが。おまけにそいつはいくら説明したって理解できないんだ」

 

「やっぱり、やっつけちゃったか」

 シールド解除後、通信を再開したジルフーコの第一声がこれだ。

「やっつけてない」タケルヒノは弁解した「ちゃんと光子体(リーニア)は帰っていった」

「そういうのをやっつけたって言うんだよ。まあ、交戦データが取れたのは何よりだ」

「交戦もしてないぞ」ジムドナルドが否定した「威嚇のために発泡したのは認めるけどな」

「はいはい、わかったわかった。それより早く帰ってきてくれ、サイカーラクラがダイモス基地データの詳細分析で面白いものを見つけた」

「ほう、何だいそれは?」

第一(ピス)光子体(リーニア)だよ。痕跡が見つかった」

「何だって?」

「だって、いくら第一(ピス)光子体(リーニア)とはいえ、いきなり火星の衛星にやってきて宇宙船作り出すなんてありえないだろ、中継点があったんだ。エリスだ」

「エリスか」タケルヒノは唸ってしまった「確かに妥当な線だが…、エリスかぁ。航行旅程(フライトプラン)作りなおさないとなあ」

「それも含めて相談したいから」

「わかった。すぐ帰る」

「ねえタケルヒノ」イリナイワノフが無邪気に問う「エリスって何?」

「太陽系10番惑星になりそこねた星だよ」タケルヒノは多目的機(マルチロール)宇宙船(ボード)に向けてセットする「あと一息のところで冥王星と一緒に準惑星になっちゃった。軌道の問題とかいろいろあるんだけど、まあ、エリスのせいじゃないよね」

「遠いの?」

「遠い、今はここから地球までの距離の20倍くらい離れてる。ジルフーコにも言ったけど航行旅程(フライトプラン)を見なおさないといけない。帰ったらまたみんなと相談しなきゃ」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ