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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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揺れる星(4)

 

「イリナイワノフ、ちょっと」

「なあに?」

 昼食後、タケルヒノが声をかけてきた。

「この間、火星で見せてもらった射撃のことなんだけど、あれ立射でしょ、伏射は得意?」

「どっちかっていうと伏射のほうが得意かな」

「伏射で動くもの、あ、いや、動いてるのはこっちか、伏射で動きながら撃ったことは…、これも違う…」

 イリナイワノフは面食らった。何を言っているのかわからない。

「うまく説明できないや、時間ある? 見てもらえばすぐだと思うけど」

「い、いいけど…」

 

 タケルヒノに連れられて無重量区画までやってきたイリナイワノフ。ローンチにひっかけられた多目的機(マルチロール)の中に入るなり、声をあげた。

「なーんだ、動力銃座じゃない」

「それそれ」

「もう、タケルヒノ、説明わかりにくい」

 座席四人分を取り払って作られた円形のくぼみに、イリナイワノフは伏臥姿勢ではまった。

「これが、左右、で、こっちが、俯角」左右二個ずつ計四個のフットペダルを巧みに操り、銃座を回転させる「単射、バースト、連射、と、とりあえず単射で」

 タ、タ、タ、タ、タ、…

「わぁん」

 周囲に置いてあった的をすべて撃ちぬいてから、イリナイワノフはすっとんきょうな声をあげた。

「実弾入れてあるなら言ってよぉ、撃ち抜いちゃったぁ」

「だいじょうぶだよ、丈夫な的だから」

「ほんと?」

「たぶん」

 いきなり撃たれるとは思ってなかったので、本当はタケルヒノにも怪しいところだ。

「で、どう? クッションとか硬くない?」

「そっちはべつに」そう言いながらも不満気な面持ちのイリナイワノフ「左右はいいけど俯角のペダルはもう少しストロークが欲しい、微調整が効かないから。あと回転速度が遅すぎる。止まってるものならともかく、動体にはついていけない」

「倍ぐらい速くする?」

「その倍、4倍くらい」

「目まわったりしない?」

「それぐらいのほうがいいよ。死ぬよりずっとマシ」

 

 ジムドナルドが赤く熟れたトマトをもぎとってかぶりつく。

 それを見たビルワンジルが、ほう、と感心してうなずいた。

「トマトの食べごろを覚えたか、たいしたもんだ」

「日々学習に余念がないからな」

 ジムドナルドはトマトのへたを畑のむこうに放る。

「俺、エウロパに行くぞ」

「オマエも行くのか?」

「そうだ」

 ビルワンジルは腕組みしながら考えていたが、やがてぼそりと言った。

情報体(リーンファノア)とかいうやつ、詳しいらしいしな。ま、いいとこじゃないか」

「詳しいってわけじゃない」

 ジムドナルドは少し遠い目をしていた。

「社会宗教学、ってのは神を扱う学問じゃないんだよ」

 語りだしたジムドナルド、ビルワンジルはどうしようもないので、とりあえず聞いているフリをすることにした。

「あれは、人間のクズを扱うモンだ。でも、6歳のガキにそんなこと教えてくれる大人はいなかった。別に恨んでるわけじゃない。おかげでクズの扱いにはずいぶん慣れた」

 それでな、とジムドナルドは、やっとビルワンジルのほうを向いた。

「クズの専門家の俺に言わせると、情報体(リーンファノア)、あれな、クズの臭いがプンプンする」

 へえ、そんなもんかい、とビルワンジルは返してみたが、正直なところ、さっぱりわからない。

「情報キューブの中身っていうのは、意外と公正に書かれてる。どこが、と言われても困るが、本を読みつけてるやつにはよくわかるんだ。サイカーラクラもそう言ってる。そして、情報キューブの字面を読んだだけでは、情報体(リーンファノア)が胡散臭いヤツらだとは普通は思わない」

「胡散臭いヤツのことは、胡散臭いヤツにしかわからない、ってこと?」

 そうそう、それ、とジムドナルドはノリノリだ。ビルワンジルの精一杯の皮肉は軽く流されてしまった。

「だからな、今回のエウロパ行きには、クズの専門家、つまり俺が必要、とこういうわけだ」

 ビルワンジルにはクズの専門家とクズの違いはよくわからなかったが、聞くと面倒なことになりそうなので黙っていた。

「よくわからんが」聞きっぱなしというのも癪なので、ビルワンジルは尋ねてみた「情報体(リーンファノア)ってのは悪いやつばかりなのか? たまには善いやつもいるんじゃないの?」

「そりゃいるさ」当然のようにジムドナルドは言う「そもそも宇宙船(ダート)造って、俺たちを呼び寄せようとしてるのは光子体(リーニア)なんだから」

「何だって?」

「いや、俺、物理苦手だからさ」ジムドナルドは言い訳もよくわからない「光子体(リーニア)情報体(リーンファノア)の一種だってジルフーコに言われるまでわからなかったんだ。俺たちを呼んでるのは最初(ピス)光子体(リーニア)ってヤツ。初めて光子体(リーニア)になったからそう呼ばれてるらしい。まあ、俺たちは、情報体(リーンファノア)同士のイザコザに巻き込まれた、そんな感じだろうな」

 

「ねえ、サイカーラクラ」ジルフーコが尋ねた「最初(ピス)光子体(リーニア)の居場所はわかった?」

「わかりません」

 サイカーラクラの答えはあいかわらず味も素っ気もない。

「今の情報キューブの内容から推測するのは無理か」

「あまり良い言い方ではありませんが、最初(ピス)光子体(リーニア)は逃げ回っている、ようですから、地味に(セル)を渡り歩いて情報を集めるしかないと思います」

「こつこつ真面目に、って性に合わないんだよなあ」

「そんなことより」サイカーラクラ、若干きつめの物言いである「当面は胞障壁(セルレス)にたどり着くのに注力したほうが良いのでは?」

胞障壁(セルレス)は太陽系外縁部にあるのがだいたいわかってるから、まあ、行けばなんとかなるでしょ」

「本当に大丈夫なんですか?」サイカーラクラは明らかに疑っている「私は、その、数学は、あまり得意ではないので、よくわかりませんけど…」

 うーん、ジルフーコは大きく伸びをした。

「ボクもエウロパ行こうかな」

「何故ですか?」

「やっぱり、情報欲しいし」

「私が困ります」

 ジルフーコはサイカーラクラのほうを向いた。怒っているようだ。

「あなたまでエウロパに行ったら、ボゥシューとビルワンジルと私だけです。とても無理です」

「代わりにタケルヒノ置いてくよ」

「それだと、あなたのほうが無理でしょう」

「ジムドナルドは?」

「迷惑です」

 まあ、そうだよねぇ、ジルフーコはもういちど思いっきり伸びをしたが、良い考えは浮かばなかった。

 

 


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