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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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揺れる星(3)

 

 今週の食事当番はビルワンジルとジルフーコだ。

 ビオトープの畑から取ってきたばかりのほうれん草を調理台に置いて、ビルワンジルはジルフーコに声をかけた。

「3日後、引っ越しだって?」

 夕食用の鶏風味の肉をケミコさんから受け取りながら、ジルフーコが答える

「木星に着く前にすませてしまおうと思ってね」ジルフーコはラウンドテーブルに座るタケルヒノのほうを、ちらっと見る「タケルヒノの意見だけど、エウロパに近づく前に終わらせてしまいたいのは、ボクも同じ。まあ引っ越しと言っても、動くのは人間とザワディだけだし、後はケミコさんがやってくれるよ」

「キッチンは、もう少し広いといいな」

「それはバッチリだ」鶏っぽい肉をソテーしながらジルフーコが言う「女の子たちの意見でね。食堂とミーティングルームもちゃんと分けたし。タケルヒノの席はミーティングルームのほうだ」

「それは何か意味があるのか?」

 ほうれん草を茹でながら、ビルワンジルは聞いた。

「いろいろあるらしいよ。お茶しながら話すときにはタケルヒノがいないほうがいいこともあるらしい。邪魔ってわけではないと言ってたけど」

「難しいな」

「まあね…、あ、そうそう、タケルヒノにはもう言ったけど、畑はいったん全部収穫して欲しいんだ。引っ越し前に小宇宙船(ダート)の回転を新宇宙船(ボード)に合わせて減速するから、小宇宙船(ダート)の重力が3分の1ぐらいになる。影響はあまりないと思うけど、もしダメになったらちょっと悲しい」

「わかったよ」

「ジムドナルドには内緒で」

「そっちも了解」

 食堂の人数が増えだし、むこうでも雑談が始まっている。おっと大変、ジルフーコは5つ目のソテーを皿に移すと、できた分だけ配膳を始めた。

 

 無重量区画に皆が集まっている。

 安全のため、全員宇宙服着用、もちろんザワディもだ。

 壁のスクリーンが新宇宙船(ボード)の全体像を表示している。新宇宙船(ボード)はゆっくりと回転しているが、大きい分、小宇宙船(ダート)より回転が遅いため、小宇宙船(ダート)とは逆回転しているように見える。

「これから小宇宙船(ダート)の自転を減速して宇宙船(ボード)に合わせるよ」

 ジルフーコの声とともに小宇宙船(ダート)の回転が減速される。無重量区画、回転中心にいるため速度が落ちるのを体感できないが、宇宙船(ボード)が徐々に止まっていくのが見えるので、確認できる。

 宇宙船(ボード)の回転が完全に停止し、どんどん近づいてくる。輪輻(スポーク)のひとつに小宇宙船(ダート)が重なると固定された。

「ドッキング終了。もう、むこう(ボード)に移っていいよ」

 

 誰から言い出したわけでもないが、最初は新しいビオトープゾーンに向かった。

「今度のは7分くらいかかるから、我慢してね」

 ジルフーコに言われるまでもなく、無重量から重力空間への移行がゆっくりなのには多少の違和感があった。まあ、すぐ慣れるだろうが。

「うわあ」

 宇宙服を脱いで、ゲートを真っ先に飛び出したイリナイワノフは歓声をあげた。

「空だ、空がある」

 ビオトープゾーンは雲ひとつない晴天、ただし太陽はない。

「ごめん、空は書き割りなんだ」ジルフーコはバツが悪そうだ「船体は湾曲空洞(トーラスチュブ)にしたんで、雰囲気ぐらいはと思って」

「ううん、すごいよ、すごい、それに、ひろーーい」

「あ、おい、ザワディ、待て、ちょっと、ザワデイ」

 ビルワンジルの制止にも耳を貸さず、ザワディは三度飛んで潅木の間に姿を消した。

「あーあ、いっちまった」

「いいじゃないか、別にどこに行けるわけでもないし」タケルヒノが偽空を見上げて言う「首輪(トレーサー)つけたんだろ」

 そうだけどさ、とビルワンジルは不満げだ。

「川があるぞ」

 先に進んだボゥシューが叫ぶ。

「浅いから歩いて渡れるけど、濡れるからやめておいたほうが良いよ」

「そんなことはしない」

 タケルヒノが口に手を当てて上げた声に、ボゥシューが返す。

 止められなかったら入ってた癖に、ジルフーコは思ったが少々考えが甘い。

「濡れても大丈夫だよ、俺はー」

「そうじゃなくてー、滑るんだってばー」

 タケルヒノが叫び終わる前に、ジムドナルドは川の真ん中で背中からひっくり返った。

 誰も助けにはいかなかった。流されるほどの水量はない。

 

 新しい工場区画(プラントゾーン)でタケルヒノが作業している。

 オーダーシステムも悪くはなかったが、やはり実物を見ながら微調整できるのは良い。

「潜水艇か」

 振り向くとジムドナルドがいた。

「無人の探査艇さ」タケルヒノは言った「他のみんなは?」

「ジルフーコに連れられて見学中だ。農場(ファームゾーン)とか、個室(コンパートメント)とか」

 ジムドナルドは探査艇から伸びるケーブルの先を目で追った。巨大なリールを覆う頑丈なボックスが見えた。

「有線制御か」

エウロパの海(丶丶丶丶丶丶)では電波で無線制御ってわけにもいかないからね。地表というか氷の上に制御ボックスを打ち込んでやるしかないだろう。制御ボックスのほうは無線制御にしたいところだけど。情報体(リーンファノア)が出てきたら、そうもいかない。回収は力ずくだろうなあ」

「だったら、俺を連れて行け」

 タケルヒノは真顔でジムドナルドを見据えた。そして、ふっ、と笑う。

「わかった、よろしく頼む」

「理由くらい聞けよ」

 あっけないタケルヒノの応対にジムドナルドがふてくされる。

「ああ、そうか」タケルヒノは操作コンソールに目を戻した「どうしてエウロパに行きたいんだ?」

「エウロパに行きたいからだ」

 なるほど、と一言答えたタケルヒノはコンソールから目を離そうとしない。

「違うだろ」とうとうジムドナルドがキレた「そこは、そんな理由があるか、って言うんだ。そしたら俺が…」

情報体(リーンファノア)相手だと他のメンバーじゃ無理だ、素直すぎるから。君か僕くらいじゃないと惑わされて、むこうの思うツボだ」

「そうだけど…」ジムドナルドは嘆息した「お前、嫌なヤツだなあ」

「まあ、そう言うなって」タケルヒノはジムドナルドの肩をポンと叩いた「頼りにしてるからさ」

「行ってやるさ」ジムドナルドはそう言って踵を返した「お前だけじゃ、心配でしょうがない」

 

 

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