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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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揺れる星(2)

 

「情報キューブの内容把握には個人差もあると思うから、まず情報体(リーンファノア)について話すよ」

 タケルヒノは、わからなくなったら途中で止めてくれてかまわない、と付け加えて話しだした。

情報体(リーンファノア)はかつては生命体だったという説が有力らしい。かつては、と言うから今は生命体ではない。情報体(リーンファノア)の構造は、何かしらの実体があって、その複製(コピー)として解釈するのがいちばん簡単だということらしい」

「実体はどうした?」

「滅んだ、というか寿命が尽きた」ボゥシューの質問にタケルヒノは即座に返す「情報体(リーンファノア)は理論上は不死だから実体のほうが先にダメになる。情報体(リーンファノア)自体はそう考えてはいないようだけど」

「どういうこと?」

「実体のほうを情報体(リーンファノア)にいたる過程としてみなしてるってことだ」なぜかジムドナルドが答える「肉体の死を霊的存在への生まれ変わりとするのは、神学では鉄板なんでね。そのへんまでは俺でもわかるんで、その先のよくわからんところ、説明頼む」

「そこから先はボクが説明しよう」ジルフーコが引き継いだ「情報体(リーンファノア)の最初の実用化は光子体(リーニア)からだ。光子、光は波の性質を持っているから周波数で区分が可能だ。光子体(リーニア)は生体の構成情報をすべて周波数変調して光子のみで再構成したものだ」

「それって、コンピュータの中に人間の記憶を入れて人格を作るとかいうやつ?」

「最初はそれでやろうとしたみたいなんだけどね」ビルワンジルの問いにはタケルヒノが答えた「うまくいかなかった。そもそも記憶っていうのが何なのかよくわからない。だから体まるごと光子だけで再構成した。各細胞の仕組み、その間の相互作用、ホルモン、免疫機構、その他もろもろ含めて全部ね。それで、一応はうまくいったように見えた、とそういう感じで…」

「じゃぁ、それ、もしかして、うまくいってないの?」

 おっかなびっくりで尋ねるイリナイワノフ。サイカーラクラが答えた。

光子体(リーニア)は自分自身を保つのが極めて困難なのです。光は周囲に満ち溢れていますから。強い光に影響されて、再構成した情報(リーンファン)が揺らぎだす。それを恐れて、光子体(リーニア)は光の届かないところ、暗いところを好みます」

「おばけか、幽霊みたい」

「確かに、そんなものかもしれません」

「その点を改良した重中性子体(レビフォノア)っていうタイプの情報体(リーンファノア)もいるんだけど」ジルフーコが追加で説明する「こっちは中性子の核スピン摂動で情報記録する、光には強くなったけど、肝心の胞障壁(セルレス)突破能力がない」

胞障壁(セルレス)突破能力だって?」ジムドナルドが驚きの声を上げた「そんな話は聞いてないぞ」

「ちゃんと情報キューブに載ってるよ」ジルフーコが応じた「自分の興味ないところは読み飛ばすからそうなる」

「ジムドナルドの肩もつわけじゃないけど」ボゥシューが控えめにいった「それについてはワタシもよくわからん」

 あたしも、オレも、私もです、続く三人。タケルヒノとジルフーコは顔を見合わせ、こういう時のお決まりでタケルヒノが話しだした。

光子体(リーニア)はもともと胞障壁(セルレス)突破、多元宇宙移行のための技術なんだ。光はどの宇宙にもあるし無限遠まで到達できるから、胞障壁(セルレス)を超えて情報だけ飛ばせば、そのへんにある光子を捕まえて光子体(リーニア)を再構成できる。中性子ではそんなわけにはいかないから、重中性子体(レビフォノア)になっただけでは胞障壁(セルレス)突破ができない」

「オレたちの目的地って、胞障壁(セルレス)の向こう側にあるんだよな」ビルワンジルは不安な表情を隠せない「じゃあ、オレたちも、その光子体(リーニア)とかいうおかしなのにならなくちゃいけないのか?」

「いや、そんなことないよ」ジルフーコは即座に否定した「胞障壁(セルレス)は物理障壁ではなくて数学障壁だということがわかってる。光子体(リーニア)胞障壁(セルレス)突破能力は情報伝播が数学障壁を無視できるという性質を利用したものだから、そもそも…」

 ここまで言ったところで、ジルフーコは、タケルヒノを除く5人の表情が暗くどんより沈んでいるのに気づいた。皆、目が死んでいる。困ったジルフーコはタケルヒノに視線を向ける。

 タケルヒノは、こほん、と軽く咳払いをして話し始めた。

「数学障壁っていうのは、胞障壁(セルレス)に数学の問題がぶら下がってて、それを解かないと先に進めないとかそういうのじゃないから、面倒なことは僕とジルフーコがやるから心配しなくていいよ」

 皆の表情が、ぱぁっ、と明るくなった。だよな、そうだよね、数学とか絶対無理、とか口々に言い合っている。

「あのさ、タケルヒノ」ジルフーコはタケルヒノの耳元でささやいた「数学障壁、ってまさにその数学の問題を解きながら進むってやつなんだけど」

 しっ、とタケルヒノは唇に人差し指を当て、ジルフーコよりもっとちいさな声でささやき返した。

「いいんだよ、そんなこと。大事なのは他のみんなが数学の問題を解かなくていいってことだから、そこは僕と君で頑張るしかないんだから、よろしく頼む」

 キミがわかってるんならいいよ、あきらめ半分の顔でジルフーコが言った。

 


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