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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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となりの星(6)

 

「もう出発なのか」

「ああ、そうだよ」ジルフーコはビルワンジルに答えてから、皆を見回した「新しい宇宙船(ボード)の外殻はほぼ完成した、主駆動部はまだだけど、補助駆動部が動かせるので、火星軌道は離脱できる」

「いま、ボード、って言ったか?」こういうところだけは耳ざといジムドナルド「それ、新しい宇宙船の名前?」

「いや、名前ってわけじゃないけど」

 ジルフーコとタケルヒノが顔を見合わせる。

新しい宇宙船(ボード)古い宇宙船(ダート)」タケルヒノが説明した「ダーツ・ボードと(ダート)に似てるから、とりあえず僕とジルフーコはそう呼んでたんだ。新しい宇宙船(ふね)、古い宇宙船(ふね)とか長くて言いにくいから。正式な名前は、みんなと相談して決めようと思ってたんだ」

「正式な名前って、たとえば、どんなの?」

「え? 人類(ホープ)(オブ)希望号(テレストリアル)、とか?」

 イリナイワノフに答えたタケルヒノの言葉に、場は一瞬、沈黙した。そして噴出。

「ださっ」

「それに長いし」

「さすがに、それはちょっと…」

「…」

「だから、やめとけって言ったのに」

「ボードとダートのが良いぞ、タケルヒノ、ネーミングセンスなさすぎ」

 タケルヒノ、ひどい言われようである。

「じゃあ、新しい宇宙船(ボード)古い宇宙船(ダート)ということで」ジルフーコが言って、皆、うんうん肯く「必要な資材は90%集まったので、これは全部、新しい宇宙船(ボード)に積み込む。ケミコさんも全員だ」

「それじゃ、あたしたちもお引越しだね」

 イリナイワノフが言うと、ジルフーコは首を振って否定する。

「居住区がまだなんだ、ビオトープゾーンもね」ジルフーコはおとなしく伏せているザワディに向かって強調した「だから古い宇宙船(ダート)もしばらくは並走する。そのへんができたら、ドッキングして新しい宇宙船(ボード)を回転させるから、引越しはその後だよ」

「どれくらいかかるの?」

「木星着くまでにはなんとかしたいけど、ケミコさんたちのがんばり次第だなあ」

 

 ひさしぶりに、タケルヒノが食堂の定位置についている。

 エウロパのデータも小宇宙船(ダート)側に移したし、ケミコさんたちへのプログラムも完了しているので、ダイモスでやることがなくなったのだ。

 となりにサイカーラクラがやってきた。

「あの…、いまさらですけど…」めずらしくサイカーラクラがタケルヒノに話しかける「人類(ホープ)(オブ)希望号(テレストリアル)って、私、良いと思います」

 唐突な話に、最初、タケルヒノは面食らっていたが、クスリと笑った。

「ありがとう、まあ、自分でも、ちょっと長いかなとは思ってたんだ」

「そんなことありません」サイカーラクラは強く否定した「地球の船にはよく人名をそのままつけますが、今回はそういうわけにはいきません。誰も地球人の名前など知らないのですから、説明がたいへんです。そして、人名をのぞけば、人類(ホープ)(オブ)希望号(テレストリアル)というのはとてもオーソドックスなものです。あの場では、反対意見が出しにくかったので、ああいう結果になりましたが、私としては…」

 熱弁を奮うサイカーラクラに、タケルヒノはニコニコと笑顔をむけている。ほんの少しの違和感に、サイカーラクラは弁説を止めて尋ねた。

「あの、どうかしましたか?」

「いや、ひさしぶりにサイカーラクラの顔が見れたから、うれし…」

 ものすごい勢いでフェースガードが閉じられた。しまった、とタケルヒノは思ったが、後の祭りだ。

 

「あのね、タケルヒノ」

「ん、どしたの?」

 イリナイワノフは、なにかモジモジしている。

「なんていうかなあ、あの、新しい宇宙船(ふね)の名前ね。さっきはいろいろ言ったけど、そんな、別におかしくないかなあ、って」

「ああ」タケルヒノは微笑んだ「まあ、たとえばの話だからね、いきなり良い名前は出てこないよね」

「うん、なんか、あたしがヘンなこと聞いたから、成り行きであんなになっちゃって、ちょっと、その、ゴメン」

「気にしないで、そんなこと」

「ほんと? 良かったぁ」

 イリナイワノフ、実はだいぶ気にしていたらしい。面白いな、タケルヒノは思った。

「だいたい、新しい宇宙船(ボード)古い宇宙船(ダート)が良いってみんな言うけど、そっちもタケルヒノがつけたんだよね」

「そうだけど、何で知ってるの?」

「やっぱり」イリナイワノフがうれしそうに笑う「だって、ボード&ダートって英語だもん。ジルフーコがつけたらフランス語になるんじゃない?」

――へえ、意外と細かいトコ、気がつく子なんだな

 ちょっと、うれしいタケルヒノだった。

 

「センスないのはあんまり気にしないほうがいいぞ。タケルヒノのイイトコはそういうトコじゃないから」

 馬鹿にしているのか、持ち上げているのか、ボゥシューの言動は判断に迷うことが多い。

――悪気はないんだろうなあ、その分、かえって怒れないから始末に悪いけど

「ところで、あれって、新しいほうの名前だな。古いほうだと、どうなるんだ?」

「うーん、人類(ティアーズ)(オブ)感涙号(テレストリアル)かな」

 ボゥシューは心の内がものすごく顔に出るタイプだ。

 二人は会話を続けるのが不可能になった。

 

「わーははは、ほら、ザワディ、こっちだ、こっち」

 無重量区画で作業をしているビルワンジルとジルフーコ。そのとなりでザワディとジムドナルドが鬼ごっこをしている。

 ジムドナルドは上機嫌だ。ワイヤーが使える分、無重量空間ではジムドナルド有利である。ザワディは壁までいかないと向きを変えられないが、ジムドナルドはワイヤーでいつでも壁に戻れる。ジムドナルドは、ザワディを軽くつついてはワイヤーで戻り、己の優位を堪能していた。

「どうなんだろ、アレ」

「ん? ああ」ビルワンジルはジルフーコの指す方をちらりと見た「ザワディはよくやってるよ。アイツがジムドナルドの面倒みてくれるから、こっちの邪魔されないですむ」

「ああ、確かにそうだね」

 ジルフーコは笑いながら、壁面スクリーンに小さく写る火星を見上げた。

――結局、降りなかったなあ、興味がないわけじゃないんだけど

 反対側のスクリーンには並走する宇宙船(ボード)が写っている。宇宙船(ボード)の壁面についたケミコさんも何体か見える。

 ジルフーコにとっては、こちらのほうが面白かっただけだ。

 たぶん、これからもそうだろう。

 

 

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