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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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となりの星(4)

 

 ダイモス内の集中管理室で、ジルフーコとタケルヒノがコンソールを操作している。ビルワンジルがやってきた。

「改修って言ってたけど、一から作り直すことにしたんだな」

「タケルヒノの提案でね」ジルフーコはコンソール操作の手は止めずに、ビルワンジルの問いに答えた「資材も十分だし、何よりケミコさんを大量補充できたのが大きい、火星基地のケミコさんも、資材収集が終わったら、こちらに来てもらう予定だよ」

「じゃあ、古い方の宇宙船(ふね)はお払い箱かい?」

「いやいや、とんでもない」

 ポン、とコンソールの入力キーを叩いたタケルヒノは、ビルワンジルに振り向いた。

 「新しい宇宙船(ふね)にくっつけて持って行くよ。もったいないからね」

「何に使うんだ?」

 ビルワンジルの顔はヘルメットの遮光バイザーに隠れてよく見えないが、声からするとかなり困惑している様子だ。

「いろいろ、さ」タケルヒノは言った「第一用途は予備だな。宇宙の旅なんて初めてだからなあ、何が起こるかわからない。途中で宇宙船(ふね)が使えなくなる可能性だってあるかもしれない。そんな時にもう1隻予備があれば、なんとか切り抜けられるかもしれない」

「ずいぶん慎重なんだな」

「この件に関しては慎重すぎるってことはないからね」

 タケルヒノは、ふと思い出してビルワンジルに尋ねた。

「火星への遠足組はもう出かけた?」

「うーん、まあな」ビルワンジルは歯切れが悪い「イリナイワノフ、ボゥシュー、ジムドナルド…、ザワディも一緒だから、まあ、なんとかなるだろ」

「ザワディ?」タケルヒノがいかにも怪訝だ、と声を上げた「宇宙服はどうした?」

「ボクが作ったよ」ジルフーコが言う「ボゥシューがうるさくてさ。作った後は何も言ってこないから、サイズはあってるんじゃないかな、たぶんだけど」

 

「ザワディ、もっと胸を張るんだ」

 ジムドナルドはザワディの前にしゃがんで、しきりとけしかける。

「お前は火星に降り立った初めてのライオンなんだ。お前は百獣の王のその中の王、まさにキングオブキング。この火星の大地をかけるただ一匹の…、わぁ」

 ザワディは、ぴょんとジムドナルドを飛び越えて、ててて、と駆けていってしまった。慌ててジムドナルドは追いかけるが、普段ですら、ジムドナルドには捕まえることなどできないのに、重力3分の1である。右に左にひらひらかわすザワディは絶対捕まらない。

 最初、ザワディは宇宙服を着せられて、かなりむずがっていたが、新しい遊びだと認識したらしく、すぐ慣れた。なにより、ひさびさの広い地面であるうえ、なんだかいつもより体が軽い。

「おう、待てよ、ザワディ、待てったら」

 ザワディはまたかわし、走り去って、止まって待つ。

 ザワディは、ジムドナルドが嫌いではなかった、言っていることはいちばんわからなかったが、ザワディといちばん遊んでくれる。他の人は、ビルワンジルですら、ザワディの鬼ごっこにあまりつきあってくれないのだ。

「仲いいね、ザワディとジムドナルド」

「精神年齢が近いんだろうな。アイツら」

 イリナイワノフとボゥシューは、沈みゆく夕日の中、奇妙な鬼ごっこを見つめていた。

 地球で見るよりずっと小さな太陽は、それでも夕焼けを空にかけ、一人と一匹の長い影を地表に描いた。

「ザワディ、いなくなっちゃたらどうする?」

 少し不安げにイリナイワノフが尋ねた。

「大丈夫だ」

 ボゥシューはそばを通るケミコさんの追跡をはじめた。イリナイワノフは少し迷ったが、ボゥシューを追いかけた。

「ねぇ、ボゥシュー、ほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫だ」ボゥシューは繰り返した「ザワディの宇宙服には発信機がついてるし、いざというときには、催眠ガスのアンプルも入れてあるから、逃げまわっても遠隔操作で眠らせて捕獲できる、心配ない」

「そっか」

 ケミコさんがトレーラーにドッキングし、資材を運搬しはじめる。むこうのロケットまで運ぶようだ。

 イリナイワノフは、いったんは落ち着いたものの、また不安を覚えてボゥシューに尋ねた。

「ねぇ、ジムドナルドは?」

「え?」

 聞き返すボゥシューに、イリナイワノフが繰り返し尋ねる。

「ジムドナルドは大丈夫なの?」

 地平線近くに一人と一匹がたわむれる様子がぎりぎり見える。もうほとんど点に近く、ここからではどっちが人間なのかすら判別は難しい。

「無線通じてるから、場所はわかるとは思うけど」ボゥシューの声はやる気なさげだ「ジムドナルドの宇宙服には催眠ガスなんか仕込んでないしなあ。だいたい、アイツがいなくなったって、何か不都合なことあるのか?」

 

 


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