となりの星(3)
全員が食堂に集まっている。
「今回の火星探索は大成功だったと思うな」まず、ジルフーコが話し始めた「精錬ずみの資材も結構な量が手に入ったし、足りなければケミコさんが集めてくれる。倉庫には生産ユニットが併設されて、ってこっちが本体かな。とにかく、宇宙船の建設資材についてはもう心配しなくていいと思う」
「どうやって宇宙船まで持ってくるんだ?」
ビルワンジルが尋ねたが、それは深刻な疑問、という聞き方ではなかった。おそらく、答えはもうわかってるんだろうけど、そんな口調だ。
「宇宙船までは運ばないよ」
ジルフーコが言った。タケルヒノを除く五人が、えっ? という顔をしていると、ジルフーコは大型コンソールの画面を切り替えて、火星表面の様子を写しだした。
数回のズームを繰り返すと、倉庫がコンソールに大写しになる。ジルフーコはカメラの角度を調整して、倉庫のとなりに並ぶ筒状の建造物にフォーカスを合わせた。
「電源を入れてもらったので、いろんな機能が動き出した。これもそのひとつ」
筒の一本の下部から噴煙が上がり、噴射炎をきらめかせて上昇していく。
「ロケットだ。あれロケットだったんだ」
イリナイワノフが声をあげた。
「なるほど、これで宇宙船まで持ってくるんだ」
「いや、だから、宇宙船には運ばないってば」
ジルフーコはビルワンジルの言葉を否定し、コンソール画面を切り替える。
画面中央に、いびつな岩の塊が写る、岩の表面にはクレーターらしきものが二つ。
「ダイモスだー」
ボゥシューが叫ぶ。よくこれだけでわかるな、ジルフーコは、ある意味、感心してしまう。
「ダイモスだ。今度こそ、ワタシが行くぞ。ダイモスだ。無重力だからな、宇宙遊泳経験のあるワタシが行くべき」
「じゃ、俺もー」
「オマエはダメだ」
ボゥシューは即座にジムドナルドを却下した。
「なんでだよー、俺もちゃんと宇宙遊泳したじゃん」
「宇宙遊泳じゃないだろ。オマエのは宇宙漂流だ。タケルヒノに助けてもらったの忘れたのか」
「無事生還したんだから問題はない」
「問題ありすぎだろ、とにかくオマエだけはダメだ」
「あー、もう、いいよ」タケルヒノが笑いながら二人をおさめた「みんなで、行こう、大丈夫だから」
「大丈夫って、なんだ? それに、みんな?」
とまどうボゥシューに、行けばわかるよ、とタケルヒノとジルフーコが異口同音に答えた。
ダイモスは火星の二つの月のうち小さい方だ。大きいフォボスのほうが火星に近くて、ダイモスのほうが遠い。
コンソールに写るダイモスはぐんぐん近づいてくる。ダイモスはいびつな星で、長辺でも15キロと小さく、宇宙船の7倍程度の大きさしかない。
ダイモスの地表から数本のアームリフトが伸びている。宇宙船はアームの中心に向かって進み、横づけして中央部だけが固定された。
「いったいどういうことなんだ?」
リフトを伝って宇宙船に取り付く、おびただしい数のケミコさんを見ながら、ボゥシューが尋ねた。
「もともと、この宇宙船を建造したのは、ここ、ダイモスなんだよ」
船外映像を止めて、ジルフーコが説明図をコンソールに表示した。
「火星の地上基地で収集精製された資材を、ロケットでダイモスに運んで組み立てたんだ」
画面上の火星とダイモスが小さくなって、画面のすみに地球が現れる。
「完成した後、地球まで来てボクらを乗せた、と、こういうわけ。管理データを追うと、ダイモスのほうは宇宙船が出来てすぐ機能停止したみたいだけど、火星基地のほうは最近まで動いてたみたいだな。で、タケルヒノが操作して両方動き出した、と、こんな感じ」
「外に出ていいか?」
説明もそこそこに、ボゥシューが聞く、もう我慢できないらしい。
「いいけど」ジルフーコは早口で付け加えた「中央のコンタクトゲートが毎分1回転で回ってるから、はさまれないように気をつけて」
「え? 何?」
「人工重力止めたくないから、宇宙船は回転したままなの」走り出して振り返りながら聞いてきたボゥシューに、ジルフーコが返す「ダイモスとの連絡通路は固定されてるから、結合部はすり合わせで回転してる。回転ドアの要領で通り抜けて、くれぐれもはさまれないでよ」
わかった、と答えたのがボゥシューではなくジムドナルドだったので、タケルヒノは慌てて後を追いかけた。




