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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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となりの星(2)

 

 火星に降り立ったイリナイワノフは、一時間だけ時間が欲しいという。

 彼女は、直径30センチほどの的を立てると、繰り返し歩数を測って100メートル離れた。あんまり遠いと外したら恥ずかしいから、とはイリナイワノフの弁だ。

「望遠鏡みたいなのは付けないんですね」

 宇宙船(ふね)でモニターしていたサイカーラクラが言う。

照準器(スコープ)のこと?」隣にいるジルフーコが説明した「ヘルメットのバイザー越しだと覗きにくいから、オープンサイトで使うって言ってた」

「オープンサイト?」

「うん、銃身の先に照星、尾部に照門っていうのがあって、これを…」

「ジルフーコは詳しいんですね」

 サイカーラクラの視線を追うと、興味は明らかに照準器よりイリナイワノフの射撃の方に傾いていた。まあね、と応じたジルフーコは説明するのをやめて、一緒にイリナイワノフの挙動に見入った。

 タンタンタンタンタン、タンタンタンタンタン…

 5連の銃声が間を置いて5回響く、イリナイワノフは的を代え、繰り返す。

「どうしてイリナイワノフは無駄なことをしているのですか?」

「無駄?」

 サイカーラクラは怪訝そうな顔でモニターの中のイリナイワノフを見ている。

「だって、全部、真ん中に当たってますよ。何かを修正するのなら、弾が外れた時に修正するのであって、全弾命中なら修正の必要はないと思いますが」

「いや…、まあ、撃った時の感触とか…、いろいろ確かめたいことはあるんじゃないの?」

「そうですか」

 4回繰り返し、15分程で、イリナイワノフは100発を撃ち切った。彼女は薬莢を拾い集め、的を片付けると、タケルヒノのほうに歩いてきた。

「すごいじゃない、全弾命中だ」

 拍手しながら迎えるタケルヒノに、イリナイワノフは照れくさそうに笑った。

「オリンピックなら、やっと予選通過ぐらいだなあ…、あれ? ビルワンジルは?」

 あそこ、とタケルヒノは指差した。

 高さ100メートルはありそうな絶壁を、手も使わずに、ビルワンジルがひょいひょい登ったり降りたりしている。

「火星の重力が地球の3分の1ってのはあるにしても、あれはないんじゃないかなぁ」

「降りるのはともかく、どうやって登ってるの、アレ」

 いきなり見たイリナイワノフには、何がどうなっているのかわからない。手品のようだ。

「ほら、いまジャンプしたろ、それで右側の壁を蹴って、左上に飛んでまた左を蹴って上にって、目の前でみてても、ウソっぽいな」

「ねえ、タケルヒノ?」

「ん? なんだい?」

「まだ時間、大丈夫?」

「あ? ああ、一時間って話だったし、まだ30分もたってないから、まだ調整するの?」

「そうじゃなくてさ、アレ、おもしろいから、もうちょっと見てていい?」

 ああ、もちろん、とタケルヒノが答えて、二人はビルワンジルが気づくまで、ずっと崖登りを見続けていた。

 

「終わったんなら、声かけてくれよ」

 照れくさそうに、ビルワンジルは言って、タケルヒノの後ろに続いた。

「ごめんね」と、その後ろに続いてイリナイワノフ「あんまりすごかったから、つい見とれちゃって」

「すごかないよ」ビルワンジルは言った「ちょっとコツをつかめばすぐだよ。地球じゃ無理だけど、火星はやっぱすごいな。あとで練習してみない?」

 あとでね、とイリナイワノフは愛想笑いをしたが、練習ぐらいでどうにかなるものじゃないと思う。

「はいストップ、ここまで」

 前を行くタケルヒノが、二人を押しとどめた。

「アレか?」

 ビルワンジルの問いに、タケルヒノが肯く。

「リモートセンシングの結果、あそこに大量の純金属があることがわかっている。鉱石じゃなくて、純金属ね」

「ここから見ても、倉庫にしか見えないな」

「倉庫だろうね。資材置き場」

 窓のない白壁に湾曲した屋根。自然にできたものとはとても思えない。

「何かいるの?」

 イリナイワノフが尋ねた。

「探査機の情報からは、生体反応はおろか動体反応、エネルギー反応もない、何かがいるような感じではないんだが」

「まあ、ここで考えててもしょうがないし、とにかく行ってみようぜ」

 言うなり、ビルワンジルが前に出た。

 タケルヒノが続き、イリナイワノフは銃に初弾を装填した。

 

 倉庫は三方を壁に囲まれ、屋根もしっかりしていたが、前面はゲートもなく開けっぱなしだった。外光のみで薄暗い倉庫内に三人は足を踏み入れた。

 予想通り、倉庫内には、鋼板、線材、インゴットなどの様々な形をした資材が、整然と積み上げられている。

「あれっ、これは?」

 イリナイワノフが、かたわらの箱のようなものに駆け寄った。

「ケミコさんじゃない」

 残りの二人もやってきて確かめる。

「ほんとだ、ケミコさん、だ」

 船内でお馴染みの自走ボックス(ケミコさん)だ。電源が切れているのか、動く気配はない。

「あ、こっちにもいる」

「こっちもだ。いつもは動いてるケミコさんしか見てないから、止まってるとへんな感じだな」

 タケルヒノはすみの壁の方にむかって歩いて行く。ケミコさんがいるということは、ひょっとすると…

「よし、こいつだ。見つけたぞ」

 タケルヒノは慣れた手つきで卓上コンソールの電源を入れた。

 倉庫内に、うっすらと照明が灯り、しだいに照度を増していく。長い眠りから覚めたケミコさんたちも、各々の仕事を再開した。

「おーい、ジルフーコ、聞こえる?」

「聞こえてるよ」タケルヒノがヘルメット内で叫んだ言葉にジルフーコが反応した「そっちで電源を入れてくれたから、宇宙船(ふね)とそっちの情報キューブを接続できた。内容は同じみたいだな。もうその倉庫は宇宙船(ふね)の管理下に入ったから、こっちで全部出来るよ。あとは、早く帰ってきてくれ」

 

 

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