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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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27/251

出発(たびだち)の星(4)

 

「やあ、お疲れさん」

 ラウンドテーブル前の椅子に腰掛けたタケルヒノに、ジルフーコが声をかけた。

「疲れたよ」ひさびさの定位置についたタケルヒノは、体調をそのまま口に出した「もう、ほんとう、に、つかれた」

「だろうね」ジルフーコは笑った「ずっと見てたから、よくわかるよ。見てるだけなら楽しくていいんだけどね」

「そりゃ、そうだろうね」やっかみまじりにタケルヒノが返した「でも、もう静止軌道上だ。すくなくとも地球側からはちょっかいは出せない。肩の荷が半分下りた気分だ」

 半分ね、はからずもタケルヒノの本音が顔を出したのをジルフーコは聞き逃さない。

「で、質問なんだけど」ジルフーコはメガネの奥の目をくりくりさせて、タケルヒノに尋ねた「この素晴らしいメンバーを引き連れて、これから前人未到の宇宙空間を旅していかなきゃならないことについて、率直なご感想を」

 思わず睨みつけたタケルヒノの視線は、言うなり逃げ出したジルフーコの背中を追うのがやっとだった。

 

「ジムドナルドはいつまで寝ていますか?」

 サイカーラクラは、個室(コンパートメント)のベッドの上でうんうん唸っているジムドナルドに尋ねた。

「いいよ、別に、俺のことはほっといてくれ」

 あのジムドナルド(丶丶丶丶丶丶丶丶)の口から口説き文句が出ないのだから、かなり調子は悪そうだ。

「ジムドナルドは、放っておくとロクなことをしないから、監視するようにボゥシューに言われたのです」

「じゃあ、黙って監視しててくれ」

「私は本が読みたいのです」

「読めばいいじゃないか」

「あなたがうるさくて気が散って読めません」

 ジムドナルドは毛布をかぶって声が漏れないようにした。

 サイカーラクラはベッドのかたわらの椅子に腰掛けなおすと、フェースガードを閉じ、微動だにしなくなった。

 

「なにしてんの?」

 エレベーターの前で作業をしているビルワンジルにイリナイワノフが尋ねた。

「ザワディが、畑とこっちを行き来できるようにしようと思ってね」

 ビルワンジルはエレベーターの低い位置に、ザワディが頭で押せる大きめのスイッチをつけていた。

「まあ、基本、あっちにいることになるんだろうが、こっちに来たいときもあるだろうからな」

「途中の無重力、大丈夫なの?」

「何回か、行き来して、もう、慣れたみたいだ。他の誰かがエレベーターに乗るとき、一緒に乗ってくるんだよ」

「へぇ」

 イリナイワノフは、しばらく黙ってビルワンジルの作業を眺めていたが、ふと思い出して話しだした。

「地球出る前にきた、あの男の人、ヘンだったね」

 あぁ、とビルワンジルも作業の手を止めて応じた。

「日本人なんだろ? あの人」

「そうだよね。あたしも、そう聞いた」

「日本人って、あんなヘンなのばっかりなのか?」

「ええー? でもアメリカ人がみんなジムドナルドみたいなわけじゃないだろうし、違うんじゃないの?」

「そうかな?」

 二人は、彼らの知っているもう一人の日本人のことを思い浮かべてみた。

 結局、答えは出なかった。

 

「こっちは、この前食べた鶏肉風、こっちは牛肉風、こっちは豚」

 豚は知らないかな、ボゥシューは、ちょっと思ったが、ザワディは全部の肉をがつがつ食べた。

「オマエよく食うなあ」ボゥシューはザワディの頭をなでた。試しにキャットフードタイプのを出すと、これもペロリとたいらげた。

「なんでもいいんじゃん、オマエ」

 ボゥシューは、トマト畑のとなりの草の上に寝転んだ。ザワディがやってきてボゥシューの顔をぺろぺろ舐める。

「わあ、やめろ、やめろってば、ザワディ、やめろ、くすぐったい」

 ボゥシューは、ザワディの首に抱きつき、顔に頬ずりした。

「なあ、ザワディ」ボゥシューはザワディを抱きしめながら言った「ワタシたち、いったいどこに行くんだろうな」

 ザワディは、きゅぅん、と鳴いた。

 それは、誰にもわからない。

 


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