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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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出発(たびだち)の星(3)

 

「話って、何ですか?」

 多目的機(マルチロール)の動力を切ることなく、タケルヒノは上部ハッチを閉めることだけをやめた。

 エイオークニはV-22垂直離着陸機を着陸させ、そのまま飛び降りると、多目的機(マルチロール)のそばまで駆け寄った。

 エイオークニは英語で話しだした。

「あなたたちがばらまいた情報キューブのデータは、地球上のクラウド・ストレージを侵食し、完全コピーがクラウド内で自立しました。もう我々では消去できません」

 タケルヒノも英語で答えた。

「ええ、そうですね。そのようにウイルス、というか情報自体を組み立ててありますから」

 なるほど、とボゥシューは思った。帰還には数週間、準備が必要だとタケルヒノが言っていたのは、この事だったか。

 宇宙船(ふね)の中なら超高速インターフェイスが使えるが、複製レプリカにつけた地球向けの低速インターフェースでは転送に時間がかかる。その時間が必要だったわけだ。

「情報は地球のコンピュータ群に分散して配置されたと思います」タケルヒノはエイオークニに言った「もうインターネット上で誰でもアクセスできます。もしかして、そうなったことを教えに来てくれたのですか?」

「いえ、違います」

 エイオークニは、ここまできて、なにかしらためらっていたが…、意を決して、再び話しだした。

「タケルヒノ、どうしても、あなたに聞かなければいけないことがあるのです」

 あまり気のりはしなかったが、エイオークニの真剣な眼差しに押され、タケルヒノは、しぶしぶ聞いてみた。

「それは、何でしょうか?」

 

「わたしたち、いや、地球人類は、これから何をしなければいけないのでしょうか?」

 

「恥ずかしいことを言うんじゃない」ジムドナルドが、ゆらりと立って、エイオークニを叱責した「よりによって、タケルヒノにそんなことを聞くなよ。恥だろ、恥」

 よりによってオマエが言うなよ、とボゥシューは思ったが、黙ってた。

「あなたの言うとおりだ、ジムドナルド博士」しかし、エイオークニはひるまない「私は、いま、とても恥ずかしい、だが、いくら恥ずかしくても、聞かなくてはならない」

 エイオークニは繰り返した。

「我々は、どうしたらいいんですか?」

 

 タケルヒノは沈黙思考した。

 どんな質問にも、ほぼ即答のタケルヒノしか見たことのない仲間たちにとって、それは永劫とも感じられるほどの長さだった。

「危機が近づいているのだと思います」タケルヒノは口を開いた。

「情報キューブの中身を構築したような文明も抗しきれない危機です。だから僕らが呼ばれた。本来なら、これから長い年月をかけて自ら獲得するはずだった知識を、一足飛びにして、駆けつけなければならない、それほどの危機です」

「それが、どんな危機なのかは僕にもわかりません。しかし、こんな無茶を仕掛けてくるわけですから、当然、僕らが行っただけではおさまらない。おそらく地球も巻き込まれます」

「まきこまれる?」

 エイオークニは確かめるように聞き返した。タケルヒノも、また、同じ言葉を返した。

「巻き込まれます。だから、情報キューブの中身を公開した。人類全員にとはいかなかったが、インターネットアクセスができる人ならもう誰でも情報を得られる」

「公平に、ということですか?」

「公平じゃ、ありませんよ」タケルヒノは少し笑った「ある人はやすやすと情報の意味するところを知るだろうし、ある人にはちんぷんかんぷんです。むしろ格差は広がるでしょう」

「それは各人の努力で…」

 エイオークニの抗弁を押しとどめて、タケルヒノは話し続ける。

「無理やり技術レベルを引き上げたのだから、当然、社会に歪みはでます。歪みが大きくなりすぎれば崩壊するでしょう。でも、どうにかしてもらわないといけません」

「どうにかしないといけませんね」

 こころなしかエイオークニの目に光が見えた。

「どうにかしてもらえますか?」

「わかりました。どうにかします」エイオークニは晴れやかな顔で、タケルヒノの問いに答えた。

「ありがとう」エイオークニは言った「また会える時まで、私たちもがんばります」

「え?」今度はタケルヒノが困惑する番だった「いくら何でも、もう会えませんよ」

「ありがとう、みなさん」エイオークニはタケルヒノの言葉を寄せつけぬ笑顔で、機上の彼ら全員に敬礼した「また会う日まで、みなさんの旅の安からんことを」

 

 


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