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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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出発(たびだち)の星(2)

 

 ライオンのオスは群れをかけてライバルのオスと戦う。勝ったほうが、群れのボスになる。

 元のボスが防衛に成功すれば、挑んできたほうが死ぬだけでどうということはないが、新しいほうが勝つとちょっと厄介だ。古いボスが死ぬだけではなく、古いボスの子供も新しいボスに殺されてしまう。

 ザワディも殺されるはずの子ライオンだった。ビルワンジルがちょろまかしてきたのだが、ことの是非はどうあれ、ザワディは1歳6ヶ月、人の手で育てられている成人前の子ライオンである。

 ザワディをもとの群れに返すわけにはいかない。殺されてしまう。だが、成人して、他のオスのように実力を蓄えて、いずれは群れのボスに、というような道もかなり難しい。ザワディは人間が育てた。育てた、と言っても、食べ物を与えて飢えさせないようにしたというほうが正しく、獲物の狩り方を教えるとか、一人前のライオンになるためのもろもろを教えられるわけではない。

 基本、はぐれライオンとして寂しい一生を送るか、あとは動物園である。

 若気のいたりとはいえ、いったんザワディの生涯にかかわりを持ってしまったビルワンジルは、ザワディに対して責任を持ちたいと思った。

 ビルワンジルはザワディを宇宙船(ふね)に乗せたい、と他のメンバーに相談した。返答は、皆、あっさりしていて、いいよ、というものだった。ただ、タケルヒノだけは条件をつけた。宇宙船(ふね)のオーダーシステムで作れる範囲の物で、ザワディが食べられるものがあれば、というのだ。

 当たり前の条件だ。せまい船内に、食物連鎖最上位の生物を維持する生態系を構築することは不可能である。いま船内で人間が食べている程度か、それより多少マシなくらいが、エサとしての限界だ。それが食べられなければ、ザワディは飢え死にしてしまう。

 

 ビルワンジルは、躍起になって、宇宙船(ふね)から持ってきたエサをザワディの前に並べていく。

 ザワディは義理のようにふんふんと匂いを嗅ぐが、口をつけずにビルワンジルに擦り寄っていく。どうやら遊んでほしいらしい。

「たのむ、どれでもいいから食べてくれ」

 もう、さんざん繰り返したことだし、うまくいかないのはわかっていたが、それでも、ビルワンジルはザワディにエサを勧めるのをやめなかった。

「どう思う? あれ」

 ボゥシューがタケルヒノに小声で尋ねる。

「エサ食べなきゃ無理って言ったのは僕だから」タケルヒノも困った顔で返す「こんなこと言うのはなんだけど、完全にやり方間違ってるな。本人は真剣なんだろうけど」

「だよね」と、イリナイワノフ「言ってあげたほうが、いいんじゃない」

「でも、それで、ビルワンジルが、自信失くしても困りますし」

「問題はそこなんだよな」サイカーラクラとも目配せしたタケルヒノは、小さく嘆息した「本人が気づいてくれるのがいちばんなんだけど…、まあ、いざとなればどうとでもなるし、ビルワンジルが傷ついたって後で慰めればいいだけだ、でも…」

「もうすこしだけ、様子見るか、アレ(丶丶)、できたんだろう?」

 ボゥシューの問いにタケルヒノは肯いた。

「持ってきてる。でも、いまのままじゃ、駄目だし…。とりあえず様子見るのがいちばんかな」

 

 いったん戻ろう、ということで、多目的機(マルチロール)のほうに向かうと、なんと、ザワディがついてくる。

 尻尾を左右に振りながら、サイカーラクラの後をついてくるのだ。

 多目的機(マルチロール)まで来ると、人間を追い越して、ひょいと座席に飛び乗る。床に伏せると尻尾だけを動かしている。

 こうなると、もう、女の子たちのほうが黙っていない。きゃあきゃあ言いながら取り囲んで、背中や首など思い思いに撫ではじめる。

「なんだあ、オマエ。そんなに慣れるんならエサぐらい食べてくれればいいのに」

 多目的機(マルチロール)に乗り込んだビルワンジルが、あきれ顔にいう。

 座席のいちばん後ろで、ジムドナルドがしきりに手を振っている。こっちに来いという動作だ。よく見ると、時々、ビルワンジルを指す動きが混じる。

 オレか? とビルワンジルが応じると、ブンブン、ひときわ手の振りが激しくなった。

「何の用だよ」

 後部座席をのぞき込んだビルワンジルに、ジムドナルドは蚊の鳴くような細い声で言った。

「お前は、まちがっている」

「あん?」

「何度も言わせるな、しゃべるだけでも痛いんだ」それでも、ジムドナルドはもう一度繰り返した「おまえは(丶丶丶丶)まちがっている(丶丶丶丶丶丶丶)。後は自分で考えろ」

 ビルワンジルに、とまどいの表情が浮かぶ、が、次の瞬間、パッとそれが晴れて、とても良い顔になった。

「ありがとう、ジムドナルド」

 ジムドナルドはこきざみに首を縦に振った。もう声も出せないらしい。

――馬鹿も使い道はあるもんだな

 ザワディのお腹に顔をこすりつけながら、一部始終を見ていたボゥシューは、そう思った。

「はい、これ」

 タケルヒノはビルワンジルに真空パックを手渡した。

「ありがとう」

 ビルワンジルは、タケルヒノとボゥシューに礼を言って、真空パックを破り、中身を金属製のボウルに出した。それは、皮のない鶏肉にとてもよく似ていた。それから、ビルワンジルはザワディのそばまで歩いて行って、その前にしゃがんだ。

 女の子たちは、サッと、ザワディから離れ、静かに見守る。

「なあ、兄弟(ザワディ)」ビルワンジルが穏やかな声で言った「オレ、もうすぐ宇宙に帰るんだ。ここにいるみんなと一緒に」

 ザワディの耳だけが、ぴくん、と動いた。

「できれば、オマエにも一緒に来てほしい」

 ビルワンジルは合成肉の入ったボウルを子ライオンの前に置いた。

「宇宙ではこれしか食べるものがない。我慢して食べてくれないか」

 ザワディは、じっとビルワンジルを見つめている。

「ザワディ」ビルワンジルは語りかけた「オレと…、いや、みんなと一緒に宇宙に行こう」

 ザワディは、前足で肉を押さえ、匂いも嗅がずにいっきにかぶりついた。

 やったー。

 歓声があがる。

 ビルワンジルはザワディの首に抱きついた。

「やっと、これで、地球での用事も終わった」

 タケルヒノはホッとして。多目的機(マルチロール)の操縦席についた。

「ほかに何もないようなら、そろそろ帰るので、支度して…」

 地平線の彼方に見えていた機体が、高速で近づいてくる。思い過ごしかとも思ったが、明らかに一直線にこちらに向かっている。

「みんな、座席についてシートベルトを。ビルワンジル、ザワディは一番奥、ジムドナルドのとなりだ」

 タケルヒノは言うより早く、多目的機(マルチロール)の動力をオンにして、上部ハッチを閉め始める。

「待って、待ってください」

 V22垂直離着陸機のサイドドアを開け、ドアの縁にしがみついて拡声器を口に押しあてている男がいる。

「いま行かれたら、この機では追いつけない」エイオークニは拡声器のボリュームを最大にして叫んだ「タケルヒノ、お願いです。ほんの少しでいい、話を聞いてください」

 

 


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