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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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ジムドナルドの冒険(18)

 

 車の窓から遠目に見るその一軒家は、早寝の多いこのあたりの家にしてはめずらしく、まだ明かりがともっていた。

 町からすこし外れると、家と家との間が5キロあるような田舎だ。

 目印の一本杉も月明かりがなければ見分けられないほどで、まだ家の主が就寝していなかったのは幸いだった。

 さっき酒場から出たところをのした(丶丶丶)男たちは、確かにそこだと言っていた。顔の形が変わるほど殴りつけたので、たぶん、嘘は言っていないと思う。

 ジムドナルドは家の前で車を止める。助手席のエイオークニは先に車を降りたが、玄関の前でジムドナルドを待っていた。

「俺が先なの?」

「そうでしょう? 付き合いの長さから言っても」

 苦笑いするジムドナルドだが、とくに逆らう気はないらしく、黙って扉をノックした。

 はーい、と内側から声がして扉が開くと、サイカーラクラが顔出した。

 あら、と一瞬とまどいの表情を浮かべたサイカーラクラだったが、すぐに微笑んで2人に言った。

「お姉さんのお友だちの方たちですね」サイカーラクラはそう言ってから、ちょっと困った顔になった「…お名前は、…ええっと」

「ジムドナルドです」ジムドナルドは言った「夜分遅くにすみません。思ったより飛行機が遅れましてね」

 後ろのエイオークニも、名乗ってお辞儀した。

 お姉さん、お姉さん、とサイカーラクラが奥の部屋に駆け込んでいく。ほどなく、ボゥシューが現れた。

「やあ、ひさしぶり」ボゥシューが言った「そんなとこ突っ立ってないで早く入れよ」

「タケルヒノとジルフーコも来てるのか?」

 言われるままに家の中に入ったジムドナルドは、ボゥシューに尋ねた。

「ああ、一昨日からな。オマエにもそろそろ連絡しようと思ってたんだが、呼びもしないのによくここがわかったな」

「野暮用で近くまで来てたんだ。空から降ってきた女、って近所じゃ有名らしいからな」

「まあな、慣れてないんで、出現場所と時間は選べなかった」

 奥の部屋の扉に手をかけたボゥシューの手を押しとどめ、ジムドナルドは小声で尋ねた。

「サイカーラクラは? どうも演技じゃなさそうだな」

「ああ、そうだ」ボゥシューは扉を開けた「それについては後で話すよ。とりあえず、タケルヒノとジルフーコに会ってくれ」

 

 部屋に入ると、暖炉の前でタケルヒノとジルフーコが談笑している。その隣りにサイカーラクラも腰かけていた。

「やあ、ジムドナルド、それにエイオークニ」タケルヒノが立ち上がった「ずいぶん早かったな、僕らも一昨日来たばかりなんだ」

 ジルフーコも立ち上がり、皆、互いに握手しあった。タケルヒノは2人に椅子を勧めたが、ジムドナルドは、それを断って、タケルヒノに言った。

「来た早々ですまんが、ちょっと時間もらえるか?」

 タケルヒノはジムドナルドの顔を見つめ、それからチラっとサイカーラクラに、そしてジルフーコに視線を送る。ジルフーコは黙ってうなずいた。

「じゃ、隣りの部屋で」とタケルヒノは言いながらドアを開けた「エイオークニ、あなたはそちらに座っててください。すぐすみますから、どうぞお気楽に」

 

「サイカーラクラは、ずっと、ああなのか?」

 タケルヒノの扉を閉める音にかぶせるように、ジムドナルドはタケルヒノに尋ねた。

「ボゥシューが言うには、胞障壁(セルレス)にいる間は大丈夫だったみたいなんだが、ここ(丶丶)に出てからはずっとらしい」

「空から落ちた、と聞いたが?」

「そんな高空じゃなくて、せいぜい数メートルぐらいだ。スラスターで緩和したらしいから、落ちたと言っても衝撃はあまりなかったようだ。別にその時のショックというわけでもないみたいだな。ボゥシューが言うには…」

「ひと段落して、ホッとしたからだと思うぞ」

 言いながらボゥシューが部屋に入ってきて、椅子に腰かける。

「ワタシのことを姉だ、と思っているのはしかたのないことだが」そう言ってボゥシューはタケルヒノを指差す「コイツのことはワタシの婚約者だと思ってるし、ジルフーコのことはサイカーラクラの幼馴染だと思っている。コイツのことはお兄さんで、ジルフーコはジルちゃん、だそうだ」

「そんなに間違ってるわけでもないじゃないか」ジムドナルドは笑った「胞障壁(セルレス)では、いったん、すべての因果律が切れる。それにサイカーラクラは励起子体(パウフラニア)だ。自分の思う通りの(丶丶丶丶丶丶丶丶)サイカーラクラ(丶丶丶丶丶丶丶)になろうとしているんだろう」

「ワタシは一過性のものだと思ってるんだが…」

「とりあえず、いまのところは問題ないんだろ?」

「まあ、とくにはないね」と、タケルヒノ「しいてあげれば、ジルちゃん(丶丶丶丶丶)と湖でボート遊びをした思い出をとうとうと語られるのが、ちょっと気恥ずかしいくらいだ」

「それぐらいは勘弁してやれよ」

 ジムドナルドは声をあげて笑った。ボゥシューが真っ赤な顔をしてタケルヒノをにらむ。湖の少女のオチがまさかこんな形でつくとは、サイカーラクラは、ほんとうに自分のなりたい自分になる気なのだな、とジムドナルドは思った。

「ところで、君のほうは、どんな感じだい」ボゥシューの視線に耐えられそうもないタケルヒノが、苦しまぎれに、ジムドナルドに話しをふった「なんでも、ずいぶん面倒な仕事をしてるらしいって聞いたけど?」

「まあ、面倒、っていうか…、面倒なのは、たぶん、これからなんだが…」ジムドナルドは、彼にしてはめずらしく、言葉をにごした「…父親になるんだ、と言うより、もう、なったのかな」

 え? という顔でジムドナルドを見つめる2人。2人が口を開く前に、ジムドナルドは言葉をかぶせた。

「たのみがあるんだ。ボゥシュー」

「え? ワタシにか?」

「妻を診てもらえないか? 子供を産んだら、ボゥシューに診てもらったほうがいいんだろう?」

「よし、わかった」それですべてを悟ったボゥシューは、立ち上がった「さあ、行こう。いますぐにだ」

 


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