ジムドナルドの冒険(16)
「何だ、お前?」
フランドガナンは胡散臭い目で、背中から声をかけてきた若造を見上げた。
チュリック地のつなぎに、牧童帽を深々とかぶっている。たいていの輩だとやぼったっく見えるはずの恰好なのに、どうしたわけか、キリッと男前に見える。
「言ったろ? ダイキュロアの紹介だよ」牧童帽は言った「俺がダイキュロアの借りを代わりに返したら、たぶん、あんたが話しを聞いてくれるハズだ、って言ってたぜ」
牧童帽は、そう言って、分厚い封筒をテーブルに投げ出した。フランドガナンは封筒から札束を抜き出して枚数を数え始める。一緒にカードを囲んでいた連中は、ごきげんの口笛を吹いた。
「まあ、奴への貸しはこんなもんじゃ全然足りねぇが、利息ぐらいにはなるか」金を数え終わって、フランドガナンは若造に言った「で? 何が聞きたい」
「別に急ぎじゃないんだ」牧童帽は言う「話しのほうは、あんたが、その金を全部すっちまってからでもいいぜ」
フランドガナンのカード相手たちは、ゲラゲラ笑った。
「よう、この兄ちゃんのほうが、よっぽどカード得意らしいぜ。なんてったって勝ち知らずのフランドガナンをご存じたあ、恐れ入る。悪いことは言わねえから、その金抱いて今日は帰んな。フランドガナン」
もちろん、こんなことを言われて席を立つフランドガナンではない。
親でもないのに勝手にカードを配りだしたが、まわりは、うすら笑いを浮かべて、フランドガナンのしたいようにさせている。
カモがネギを背負うのを止めるやつはいないだろう。
牧童帽は、とくに何を言うでもなく、フランドガナンを見つめていた。
勝負のほうは長くもなく短くもなく、坦々と進んだ。
テーブルを囲んだ面子は、他に用事があるわけではなかったし、暇のある限り、場に出された札束を思い思いに取っていくだけで、まあ、ずいぶん実入りの良い娯楽だったのだ。
牧童帽のほうは、フランドガナンが逃げないように見張っていればいいわけで、こちらも大した手間ではなかった。カードに熱くなっているフランドガナンは、金が底をつくまで他のことに気を取られるおそれはなかった。
そんなわけで牧童帽は、フランドガナンの後ろに突っ立って、たあいもない酒場のよもやま話しを、聞くともなしに聞いていた。
「…」
「そんでよう、あの、空から降ってきた娘らの話しだけどよぅ」
「また、その話しか。デルドンドの話しにまともなものなんて、ねえだろ」
「それがよ、2人とも、えらい別嬪だってんで、野郎、夜中におしこんだらしいのよ」
「1人でか?」
「…」
「さすがにそれぐれぇの知恵はあるさ。木の実かじってるネズミていどのな。いただろ、ほれ、何だっけ…、ああ、ミツヤンクスだ。いつもつるんでる。そいつと2人で押し入って、それで、ほうほうのていで逃げ帰ったって話しよ」
「奴ららしい話しだ」
「だろう? あいつらなら、池の家鴨だって、まともにゃ、さばけねぇ」
「…」
「けど、別嬪てなほんとだぜ。なかなかそそる女だ」
「見たのかよ」
「間合いは、ちぃっと遠かったがな、まずまずだな」
「…」
「けっ、遠目だぁぁ? デルドンドぐらいしか手ぇださねえってんなら、近くに寄ったら知れてんだろ」
「それがよ、最初のうちはおとなしかったらしいが、ちらほら男の影も見えはじめてるらしい」
「ほんとかよ? じゃあ、そろそろ様子見してる場合じゃねえな。さっさと、さらっとくか」
「え? だって、魔女だって噂だぜ」
「バッカやろうが、テメエなんざデルドンドのうすのろと同じだよ、一生、木の又でも相手にしてやがれや」
「まあ、とりあえず、物見遊山で行ってみりゃいい。上玉なら、そこでやっちまえばいいだけの話しだろ?」
「おう、それだな」
「よし、こいつ飲みきったら出よう」
「…」
「なかなか面白そうな話しだな」
牧童帽をかぶった若造が割って入った。
「何だ? テメェは?」
「まあ、そう言うなよ。いい女には目がないんだ」
そう言って牧童帽は新しい酒瓶を3本テーブルに置いた。
「ヤボ用がすまなくてな。まだ時間がかかる。これでも飲んで待っててくれ」
フランドガナンのほうは早々にかたがついた。
なじみのカモだったし、相手のほうも、飽きてしまって搾り取る気になればあっという間だったのだ。
少し貸してくれ、と当たり前のようにフランドガナンは牧童帽に言うのだが、そんなことは聞く必要もない。
「約束だろう?」
牧童帽の言い方は、単調ではあるが迫力があった。
「その金、使い切ったんだから、俺とお話しする時間だよ。…ここは、空気が悪いな。頭を冷やしたほうがいい。外に出よう。」




