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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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ジムドナルドの冒険(16)

 

「何だ、お前?」

 フランドガナンは胡散臭い目で、背中から声をかけてきた若造を見上げた。

 チュリック(長糸麻)地のつなぎに、牧童帽を深々とかぶっている。たいていの輩だとやぼったっく見えるはずの恰好なのに、どうしたわけか、キリッと男前に見える。

「言ったろ? ダイキュロアの紹介だよ」牧童帽は言った「俺がダイキュロアの借りを代わりに返したら、たぶん、あんたが話しを聞いてくれるハズだ、って言ってたぜ」

 牧童帽は、そう言って、分厚い封筒をテーブルに投げ出した。フランドガナンは封筒から札束を抜き出して枚数を数え始める。一緒にカードを囲んでいた連中は、ごきげんの口笛を吹いた。

「まあ、奴への貸しはこんなもんじゃ全然足りねぇが、利息ぐらいにはなるか」金を数え終わって、フランドガナンは若造に言った「で? 何が聞きたい」

「別に急ぎじゃないんだ」牧童帽は言う「話しのほうは、あんたが、その金を全部すっちまってからでもいいぜ」

 フランドガナンのカード相手たちは、ゲラゲラ笑った。

「よう、この兄ちゃんのほうが、よっぽどカード得意らしいぜ。なんてったって勝ち知らず(丶丶丶丶丶)のフランドガナンをご存じたあ、恐れ入る。悪いことは言わねえから、その金抱いて今日は帰んな。フランドガナン」

 もちろん、こんなことを言われて席を立つフランドガナンではない。

 親でもないのに勝手にカードを配りだしたが、まわりは、うすら笑いを浮かべて、フランドガナンのしたいようにさせている。

 カモがネギを背負うのを止めるやつはいないだろう。

 牧童帽は、とくに何を言うでもなく、フランドガナンを見つめていた。

 

 勝負のほうは長くもなく短くもなく、坦々と進んだ。

 テーブルを囲んだ面子は、他に用事があるわけではなかったし、暇のある限り、場に出された札束を思い思いに取っていくだけで、まあ、ずいぶん実入りの良い娯楽だったのだ。

 牧童帽のほうは、フランドガナンが逃げないように見張っていればいいわけで、こちらも大した手間ではなかった。カードに熱くなっているフランドガナンは、金が底をつくまで他のことに気を取られるおそれはなかった。

 そんなわけで牧童帽は、フランドガナンの後ろに突っ立って、たあいもない酒場のよもやま話しを、聞くともなしに聞いていた。

 

「…」

「そんでよう、あの、空から降ってきた娘らの話しだけどよぅ」

「また、その話しか。デルドンドの話しにまともなものなんて、ねえだろ」

「それがよ、2人とも、えらい別嬪だってんで、野郎、夜中におしこんだ(丶丶丶丶丶)らしいのよ」

「1人でか?」

「…」

「さすがにそれぐれぇの知恵はあるさ。木の実かじってるネズミていどのな。いただろ、ほれ、何だっけ…、ああ、ミツヤンクスだ。いつもつるんでる。そいつと2人で押し入って、それで、ほうほうのていで逃げ帰ったって話しよ」

「奴ららしい話しだ」

「だろう? あいつらなら、池の家鴨(アヒル)だって、まともにゃ、さばけねぇ」

「…」

「けど、別嬪てなほんとだぜ。なかなかそそる女だ」

「見たのかよ」

「間合いは、ちぃっと遠かったがな、まずまずだな」

「…」

「けっ、遠目だぁぁ? デルドンドぐらいしか手ぇださねえってんなら、近くに寄ったら知れてんだろ」

「それがよ、最初のうちはおとなしかったらしいが、ちらほら男の影も見えはじめてるらしい」

「ほんとかよ? じゃあ、そろそろ様子見してる場合じゃねえな。さっさと、さらっとくか」

「え? だって、魔女だって噂だぜ」

「バッカやろうが、テメエなんざデルドンドのうすのろと同じだよ、一生、木の又でも相手にしてやがれや」

「まあ、とりあえず、物見遊山で行ってみりゃいい。上玉なら、そこでやっちまえばいいだけの話しだろ?」

「おう、それだな」

「よし、こいつ飲みきったら出よう」

「…」

 

「なかなか面白そうな話しだな」

 牧童帽をかぶった若造が割って入った。

「何だ? テメェは?」

「まあ、そう言うなよ。いい女には目がないんだ」

 そう言って牧童帽は新しい酒瓶を3本テーブルに置いた。

「ヤボ用がすまなくてな。まだ時間がかかる。これでも飲んで待っててくれ」

 

 フランドガナンのほうは早々にかたがついた。

 なじみのカモ(丶丶)だったし、相手のほうも、飽きてしまって搾り取る気になればあっという間だったのだ。

 少し貸してくれ、と当たり前のようにフランドガナンは牧童帽に言うのだが、そんなことは聞く必要もない。

「約束だろう?」

 牧童帽の言い方は、単調ではあるが迫力があった。

「その金、使い切ったんだから、俺とお話しする時間だよ。…ここは、空気が悪いな。頭を冷やしたほうがいい。外に出よう。」

 


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