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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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ジムドナルドの冒険(14)

 

 ジムドナルドはディトナックの街を流していた。

 ライザケアルの首都はネフロティアだが、ディトナックもそこそこ大きい。

 ディトナックの街並みは、どことなくマンハッタンに似ていた。マンハッタンから未来への熱気と、成功への夢を除いた、そんな感じの街だった。

 ライザケアルは、もう国家の枠組みは実質的になくなって久しい。国家間の融和が進んだ素晴らしい結果というわけではない。先駆体(リーンファニディア)選抜、ようするに光子体(リーニア)になれるか、なれないかで階級が確定してしまったために、地上にいる人間はやる気をなくしてしまったのだ。出来のいいやつ(丶丶)は、皆、衛星軌道ステーションにいる。地上にいるのは、ディトナックであろうがネフロティアであろうが、結局は落ちこぼれだ。

 先駆体(リーンファニディア)側にもいろいろ言い分はあったのだが、何をどう説明しても、どんな施策をとっても、地上側の不公平感は改善されなかった。不公平(丶丶丶)ではなくて、不公平感(丶丶丶丶)なのだから、こんなものどうしようもない。

 ジムドナルドなら、あんたらがバカなのは俺のせいじゃない、ぐらいのことは言うだろうが、そんなことを言ったって、角が立つだけで状況が改善するわけではない。

 ジムドナルドは、マンハッタンに似たディトナックの街を適当にふらつく。ジムドナルドはディトナックみたいな街は嫌いではない。彼は、怠惰で適当に生きている人間のことが好きだった。人間のクズが大好きだったのである。

 ハビタントレーズは、そのクズ相手に商売をしてのし上がった会社だ。ハビタントレーズ製の光子体転換装置は金のあるクズには人気だった。転換成功率100パーセントが売りのファニアランズ9000は他の光子体転換装置の10倍の価格だったが、それなりに売れた。ライザケアルでの光子体転換は申請して試験にさえ通れば無料だったから、機器の価格に意味があったとは考えにくい。ハビタントレーズ製でなくとも転換成功率は100パーセントだったし、転換後の60日生存率に統計学的な差異はなかった。それでも地上の金持ち老人はファニアランズ9000を買った。買ったからといって使うことなどないのだが、永遠に来ないいざという時(丶丶丶丶丶丶)のための心の拠り所としては、まあまあの機械だった。

 

「よう、(あん)ちゃん」

 ジムドナルドのテーブルをはさんだ向かいに、いきなり男が腰かけた。

「若いのに年寄りに優しい感心な奴だって評判だぜ。一杯奢らせてくれ」

「そうだな」ジムドナルドは、ニヤリと笑った「何のことだかよくわからんが、せっかくの奢りなら、受けない理由はないな」

 ジムドナルドは右手をあげて店員を呼ぶ「ミルクセーキをダブルで」

「ミルクセーキ?」男の片眉が上がった「みょうなものを頼みやがるな」

「そうか?」ジムドナルドは軽く受け流す「ここのミルクセーキはうまいぜ。なんなら、あんたもどうだ?」

「お前、昼前にひったくりにあったご老人を助けただろう?」男はミルクセーキの件は無視することに決めたらしい「大勢見てたんだ。その金髪、そこにいた奴みんなが言ってる。金髪のスーツ着た若いのが、ひったくりからご老人のバッグを取り返したってな。お前は知らんかもしれんが、あのご婦人はけっこうな御身分でな。お礼がしたい、と、こういうわけだ」

「覚えがないな」

「おいおい、何も隠すことはないだろう。悪事ならともかく良い事したんだ。とぼける必要はねえだろ」

「いやあ、良い事なんかした覚えはないんだよ」ジムドナルドは重ねて言う「もっとも、人を雇ってハビタントレーズの社長の母親のバッグをひったくらせて、偶然通りかかったように見せかけ、取り返す芝居ならしたけどな」

 目の前の男の顔色が、サッと音を立てて変わった。

「てめぇ、いったい何のつもりだ?」

「何のつもり、って言うのか?」ジムドナルドは余裕の笑いだ「ティムナーのエネルギー転送システムの設計をハビタントレーズが内緒でやってたじゃないか。そこまではわかったが、首謀者が誰なのか良くわからん。調べるのも面倒だしな。一芝居うったのさ。あんた知ってそうだから、名前を教えてくれないか」

 男が立ち上がって合図すると、別々の席に腰かけていた男たちが立ち上がり、ジムドナルドの席に近づいてきた。

「1、2、3、4、…5人か」ジムドナルドが1人ずつ指差しながら人数をかぞえる「あのなあ、悪いことは言わんから、次からは、もうちょっと数をそろえとけよ。いくら何でも、足りないだろ。もっとも、次はないけどな」

「…だと、この野郎…」

 言いかけた男の左右で、突然、人の倒れる音がする。店内のあちこちから悲鳴が上がった。

 驚いた男が左右に目を向けると、彼の仲間たちが床に倒れて、めたくちゃに手足を動かしながらうめいている。

「てめえ、何しやがった?」

「五感を通す神経をブロックしたんだ。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。話しじゃ、触覚の遮断はかなり気持ち悪いらしいぞ。…おっと、そいつはダメだ」

 横をすり抜けて逃げようとした男の首根っこを、ジムドナルドが笑いながら押さえる。その首をガラス窓越しに往来へ無理やり向けた。

 店内の悲鳴に、店の外で待機していた男たちが、いっせいに入り口に押し寄せる、と見えたものが、何故かドアの前でばたばたと倒れていく。棒を持った男がひとり、瞬時に8方向に移動して、すべての加勢をなぎ倒したのだ。

「あんたのお仲間は、これで全滅だ」ジムドナルドは男の耳元で囁いた「あんたも、ここでのたうってるヤツらや、往来でのされてるヤツらと同じにしてやってもいいんだ。でも、それだと、あんたを担いで雇い主のところまでいかなきゃならない。面倒だろ? 俺もあんた(丶丶丶)もさ。だからあんた(丶丶丶)、自分の足で歩こうぜ」

 


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