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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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ジムドナルドの冒険(12)

 

 部屋の扉はあっけなく開いた。

 部屋の中は、ディアファルケンたちが使っていた電力調整用の制御室とはかなり違っていた。

 計器類はほとんどなく、机がいくつかあるだけだった。

 机の上の機械は、それぞれ、何かの模型のようなものや、ディアファルケンには読めない文字がキラキラ光っていて、その全てが目まぐるしく変化していた。

 金髪は机のひとつに陣取って、何かよくわからない操作をしている。

 文字と模型と映像が、交互に現れては消えて行く。

 金髪は、操作のたびに、ふうん、とか、ああ、とか、勝手に納得しては、それらを眺めていたが、ふと顔をあげると、手持ち無沙汰にぼーっと突っ立ているディアファルケンのほうを向いた。

「そっちの端末を貸してやるよ。それなら読めるだろ」

 金髪が言うと、机の上できらめく文字がダボン語に変わった。

「ほら、ここ、ここのとこ、ほかの所より、目立つ文字があるだろ。こういうの触っていけば適当に表示が変わるから」

 金髪はディアファルケンの前の端末上で、相対座標表示と書かれた文字に触れた。

 表示されていた文字がかき消え、光り輝く球を中心に同心円で周囲を巡る小球を結ぶ模型が現れた。

「真ん中のが太陽、それで内側から1、2、3、4、と、ここが俺たちのいるところ、で、こっちが宇宙船だ」

「宇宙船?」ディアファルケンは頓狂な声を上げた「お前、宇宙人なのか?」

 あ? うん…、金髪はちょっとだけ言葉につまった。

「ま、そういうことになるかな。確かにあんたから見たら、宇宙人だ」

 ディアファルケンの奇異なものを見るような視線に気づいた金髪は、思いきり笑い飛ばす。

「あたりまえだろう? パルスレーザーは、天から、宇宙から降り注いでたんだ。宇宙人でなけりゃ、そんなことできないだろうが」

 ディアファルケンは、恐る恐る宇宙船の模型に触れた。四角で囲まれた文字が現れ、その隣りに、使用不能、の赤い文字がならんだ。

「これをいじれば」ディアファルケンはかすれる声で尋ねた「天の恵み(丶丶丶丶)を、また降らせることができるのか?」

「無理だよ」金髪は、あっさり否定した「宇宙船側のパルスレーザー発振機を止めたからな。こちらでは、もう操作できない」

「何故、止めた?」

「パルスレーザーが地上の集光板に届くまで、この星の大気を通る間にいろんなものを焼く。そのまま放っておくと…、何万年後ぐらい先かな。この星に生物が住めなくなるんだ」

 確かにそんなことを言っている学者もいたような気がする。誰も耳を貸さなかったが。

「でも、ずっと先の話しだ。何万年なんて…」

「何万年なんて、あっという間だぞ」

 金髪が言って、確かに宇宙人にとっては、あっという間なんだろうな、とディアファルケンは思い直した。

「何故、魔法の小箱(丶丶丶丶丶)なんか降らした?」

「俺は、やめとけって言ったんだがな」金髪は、くすり、と笑う「事情はどうあれ、始まってしまったものを途中でやめるのは良くない、って、あいつが言うんだよ。次元変換伝送を使えば環境問題と不公平の問題は解決する、って言うんだ」

「不公平?」

「このシステムだと、赤道直下にしか電力を送れないだろ。だから世界中に次元変換伝送の子機をばらまいた。俺は、そんな甘やかすのはやめとけ、って言ったんだけどな」

「じゃあ、魔法の小箱(丶丶丶丶丶)に電気を送ってるのも宇宙船からなのか?」

「そうだよ」

 それなら、と、ディアファルケンはコンソール上に表示された宇宙船を指差して言った。

「ここからその電気を調整することができるのか?」

「できないよ」金髪は言った「そっちの調整は完全に別システムになってる。地上200キロメートルを周回する人工衛星が制御しているんだ」

「人工衛星?」

「無人の宇宙船みたいなもんだよ」

 途方もない話しだった。ここしばらく謎とされてきたことの真相をディアファルケンはすべて聞いたことになる。が、あまりに凄すぎて、かえってわけがわからない。

「まあ、ここじゃ、たいしたことはできないが、見るだけならかまわんから、適当に遊んでていいぞ」

 金髪はそう言って、自分のコンソールに戻り、作業を再開した。

 ディアファルケンは、

 ディアファルケンはとりあえず椅子に座って目の前のコンソールを凝視した。

 そして、おっかなびっくり指先を伸ばすと、コンソールを操作しはじめた。

 彼は操作にすぐ慣れて、目の前に次々と現れる情報にいつしか没頭していった。

 

 どれぐらいの時間がたったのだろう。

 ディアファルケンは、金髪に呼ばれて、我に返った。

「俺の用はすんだ。帰るけど、あんたどうする? あんたも帰るんなら送ってくぞ」

 ディアファルケンは、金髪の顔と、目の前のコンソールを交互に見くらべる。

 金髪は意味ありげな笑みを浮かべて、じっと、ディアファルケンの返事を待っていた。

「お、おれは」ディアファルケンは勇気をふり絞って声を出した「俺は、もう少し、その…、ここにいたい」

 そこで、はっ、と気づいたディアファルケンは、金髪に尋ねた。

「電気はどうする? 帰るときに止めるのか?」

「いや、いちいち止めるのはめんどくさいから、そのままにしとくよ。好きなだけ使えばいいさ。それから…、そうだ」言いながら金髪はポケットから札束を取り出した「これやるよ。余ったから、好きに使ってくれ」

 差し出された札束に怖気づいたディアファルケンが後ずさりする。

「い、いいよ、こんなの、ずいぶん飲ませてもらったし…」

「いいから、取っとけ。俺が持っててもしょうがないんだよ。だって、帰るんだから」

 金髪はディアファルケンのポケットに無理やり札束をねじ込むと、ぽん、と機械人形のように部屋の入り口まで飛んだ。

「じゃあな、ディアファルケン。いろいろ楽しかった。元気でな」

 呆気に取られたディアファルケンは、しばし、その場に立ちつくしていたが、帰る、と金髪の言った意味がやっとわかって、あわてて部屋の外に金髪を追った。

 息せき切って階段を駆け上がり、玄関まで走って、やっと飛行機のハッチに手をかけた金髪に追いついた。

「おーい」

 ディアファルケンの呼び声に振り向く金髪。

「教えてくれ」ディアファルケンは胸を押さえ、どうにか息を整えて尋ねた「お前、いったい何者なんだ?」

「ジムドナルドだ」

 ジムドナルドは多目的機(マルチロール)の機内に半分足を突っ込んだまま答えた。そして、ディアファルケンに向かって問い返した。

「ディアファルケン、あんたの夢は何だ?」

 夢、夢…、ゆめ…?

 突然の問いかけに、ディアファルケンの頭の中はぐちゃぐちゃにかき回された。

 考えるより先に出た言葉に、口に出したディアファルケンのほうが驚いた。

「宇宙に行く」ディアファルケンは自分が何を言っているのかわからなかった「自分で宇宙に行って、天の恵み(丶丶丶丶)の正体を、本当に宇宙船なのか、この目で確かめる」

 がんばれよ、と声をかけ、ジムドナルドはハッチを閉めた。

 多目的機(マルチロール)が上昇していく。

 ありったけの勇気を使い果たして、だしガラみたいになったディアファルケンは、へなへなとその場に座り込んだ。

 銀色に輝く機体が徐々に小さくなり、

 青空に吸い込まれるように消えていくのを、

 ディアファルケンは呆けたように眺めていた。

 


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