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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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ジムドナルドの冒険(11)

 

 降り立った場所は、本当に、ドレファー変電所だった。

 敷地内の雑草は伸び放題だが、建物自体はまだ建ってからさほど年数は経ていない。同心円上に並ぶ集光板はまだ表面の輝きを失ってはおらず、放置されて久しいとはいえ、何かの拍子に天の恵み(丶丶丶丶)が復活したら、また動き出すのではないか、そんな錯覚すら起こさせる。

 ハッチを開けて外に出た金髪は、管理棟の玄関前に飛び降りた。

 手慣れた感じで壁の一部をレーザートーチで焼き切ると、金髪は電力ケーブルをむき出しにした。ソケットを外して、魔法の小箱(丶丶丶丶丶)をつなぐ。

「おい、1個じゃ足りないぞ。最低でも100個ぐらいなけりゃ、管理棟の電力は…」

 ディアファルケンが言い終わるより先に、管理棟の内部照明が点灯した。

「この小箱(丶丶)は降らしてるヤツとは違う。制限は解除してあるんだ」

 金髪が玄関前で手招きする。ディアファルケンには降りる義理などないが、興味のほうが先行した。

「電源をいれる前に入り口のガラスドアを叩き割ったほうが良かったんじゃないのか?」

 金髪の隣りに立って、せめてもの憎まれ口をきくディアファルケン。

「今から壊したら、警備システムが作動するぞ。言っとくが、俺は無理やり連れてこられたから、認証カードなんか持ってないからな」

 金髪は黙って玄関わきの認証ボックスに右手をかざす。

 軽い駆動音とともに入り口のガラスドアが左右に開いた。

 どうぞ、と仰々しいお辞儀でうながす金髪に、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、ディアファルケンは久方ぶりの管理棟内に足を踏み入れた。

 

「ひとりで入れるんなら、俺なんか連れてこなくてもよかっただろう?」

 いろいろと期待を裏切られたディアファルケンは、金髪のまわりをぐるぐる回りながら毒づいた。

「それともなにか? お前が、変電所を復活させて、それを見た俺が地団太踏んで悔しがる。それを見たかったのか? え? そうなんだろ?」

「変電所は復活させたりしない」

 金髪はそう言った。

 それを聞いたディアファルケンは、一気にぺしゃんこになってしまった。

 そんなことは、わかっていた。

 変電所など誰も必要としていない。皆、あの小箱(丶丶丶丶)を使う。金髪だって使ったのだ。

 変電所など、公社など、ディアファルケン(丶丶丶丶丶丶丶丶)など、誰も必要としないのだ。

 もう、とっくにそんなことはわかっていた。

 でも、金髪にここ(丶丶)に連れてこられて、淡い期待が芽生えた。

 金髪に不可能はないように見える。

 それなら俺たちが束になってもできなかった変電所の復活を、

 こいつならできるかもしれない。

 でも、金髪は、しない、と言った。

 できない、とは言わなかった。

 おそらく、金髪にはできるのだろう。でも、しない。

 打ちひしがれた哀れなディアファルケンは、すすり泣くような声で、金髪に尋ねた。

「だったら…、何で俺なんか連れてきたんだよ」

「ここ、部屋の数がけっこうあるだろ」金髪は言う「いちいち全部探すのは大変だからな、それで…」

「このフロアと上の2階は会議室ばっかりだ。制御は奥のフロアで、そこは吹き抜けになってる。付属の工作ルームは開発部門の管轄で…」

「いや、そうじゃなくてさ」

 金髪は、早口でまくし立てるディアファルケンを、笑いながら押しとどめた。

「あんたの知ってる部屋はいいんだよ。そこには俺の探しもの(丶丶丶丶)はないんだから。俺の知りたいのは、あんたの知らない部屋、あんたが入れなかった部屋だ」

「俺の知らない部屋?」

「そうだ」

「馬鹿にしてんのか? 俺の知らない部屋なんか、文字通り、俺が知るわけないだろう?」

「ああ、悪い、悪い」金髪は笑った。悪いなんて毛ほども考えてない笑顔だった「ここの運営上、公社の人間が誰も入れない部屋があるはずなんだ。たぶん、そこは、メンテナンス用の機械しか入れない」

 ディアファルケンは、再び、押し黙った。金髪の言いたいことはなんとなくわかった。

「地下だ」ディアファルケンはぼそりと言った「エレベーターでは行けない。非常階段しか通っていない部屋が地下にある」

 やっぱり、それか、と金髪は独り言ち、階段のほうに歩きはじめた。

「あそこは誰も入れないぞ」

 金髪の背中にディアファルケンが言葉をぶつけた。

「だいじょうぶ、俺は入れるから」

 そう言って3歩進んだ金髪は、とつぜん立ち止まった。

 そして振り返り、不思議そうな顔でディアファルケンを見つめる。

「何だよ。一緒に行かないのか?」

 一瞬、はっとしたディアファルケンは、2秒ほどその場で固まっていたが、すぐさま首を振ると、返事の代わりに無言で金髪に駆けよった。

 それを認めた金髪は、また笑い、今度は口笛を吹きながら、ディアファルケンを引き連れて、廊下の奥へと歩いて行った。

 


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