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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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24/251

出発(たびだち)の星(1)

 

「なんか、もう、こーんな角度で、ドーン、って突っ込んで来たからぁ」

「えー、こっちは、わざわざ海に着水して、夜になってから移動したのに。そんなのでいいなら、もっと簡単だった。タケルヒノの言うこと聞いて損した」

「急いでいたので、しょうがなかったんです。あのへんは、海から遠いですし」

「それで、サイカーラクラったら、出てくるなり、ババババーッて、50人位を撃ち殺しちゃって」

「撃ち殺してません、それに、針銃(ニードルガン)は、そんな音しないし、人数も18人です」

「似たようなもんだ」

「違います。私は銃を使いましたが、イリナイワノフは素手でやっつけた、って、先生が言ってましたし」

「あたしは5人しかいなかったし」

「私は武器なしなら、一人でも無理です」

「あー、悪いんだけど」多目的機(マルチロール)の操縦をしたまま、タケルヒノが言った「誰でもいいから、ジムドナルドに薬飲ませてくれない? 彼、一人じゃ無理そうだから」

 わかったー、そう言って、ボゥシューが一番後ろの座席で唸っているジムドナルドのそばに行った。

「ほら、飲め」ボゥシューは、鎮痛剤と抗炎症剤をジムドナルドの口に押し込んで水を飲ませた「こうなるのはわかってただろうに、馬鹿なヤツだ」

「そんなこと言ったって、あんなの貰ったら、使ってみたくなるに決まってるじゃないか」

 全身の痛みに身悶えしながら訴えるジムドナルドに、ボゥシューは深く嘆息した。

「オマエ、馬鹿だな。ホームラン級の馬鹿だ」

 8人乗りの多目的機(マルチロール)は、エルブルス山からケニアに向かっている。

「ビルワンジルどうしてるかな」

 イリナイワノフはタケルヒノに聞いた。タケルヒノは渋い顔だ。

「うーん、帰還要請はまだないし、あまりうまくいってないんじゃないかなあ。いずれにしても、あまり時間はないし、最悪、あきらめてもらうしかない」

 

「よう、みなさんおそろいで」

 ビルワンジルは白い歯むき出しの笑顔で出迎えた。

「ジルフーコは?」

「お留守番です」サイカーラクラは真上に人差し指をつきたて、空を指差した。

「ジムドナルドは?」

「中で寝てる」タケルヒノは、皆が乗ってきた多目的機(マルチロール)を指差す「アレ(丶丶)を使ったんだ。少なくとも今日一日は使い物にならないと思う」

「使ったのか、アレ(丶丶)?」ビルワンジルは驚きの顔だ「まあ、アイツらしいと言えばアイツらしいが」

「さっきジルフーコに話したら、大笑いしてた」ボゥシューが言う「まさか動態データが取れるとは思わなかったから丁重に扱ってくれ、と言ってた」

「それで、ビルワンジルのほうはどうなの?」

 イリナイワノフの問いに、ビルワンジルの表情がほんのわずか翳る。

「まあ、あんまり調子はよくないが…」それから思い直したように、切り出した「ちょっと、みんなに来てほしいところがある。すぐそこだ」

 それからビルワンジルは多目的機(マルチロール)のほうに目をむけ、動ける人だけでいいけど、と、付け足した。

 

 家、というよりは、小屋、といったほうが適切な感じがする。

 国立公園動物保護区管理局分室別館、だとビルワンジルは言う。それは本当だと思うのだが、小屋は小屋だ。

 コーヒーでも飲んで、待っててくれ、と言われたので、四人はテーブルについた。コーヒーは本物だった。

 四人はコーヒーを飲みながら小屋の外の草原を見つめていた。地球に戻ってきてから、もっともくつろげた瞬間かもしれなかった。

 かたん、と音がして、皆、そちらのほうに顔を向けた。

 開け放された入り口から、のそり、と動物が入ってきた。

 それほど大きくはない、たてがみも揃わぬ、若いオスのライオンだった。

 四人は、ゆっくりと立ち上がって、身構えた。ライオンは、警戒、というより、不思議そうな顔つきで四人を見つめている。

 害はなさそうに見えるが、いちおう猛獣である。

 四人と一匹は、しばし、見つめあった。

「おぅ、なんだ、こっち来てたのか」

 ビルワンジルが入り口から飛び込んできて、ライオンを抱き上げ頬ずりする。ライオンもビルワンジルの顔をペロペロ舌でなめた。

「ザワディだ」ビルワンジルはライオンの顔を皆のほうに向ける「オレの友達さ」

「ザワディ、いい名前ですね」サイカーラクラは、ザワディの顔に手を触れる。

「わかるかい?」

「ええ」サイカーラクラは肯いた「ザワディは、スワヒリ語で、贈り物です。ザワディ、あなたは私たちへの大切な贈り物」

 


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