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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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234/251

ジムドナルドの冒険(4)

 

 ほんの少し他の並びと建物の造りが異なる通りに入った。

 左右に並ぶドアを眺めながら物色していたジムドナルドは、やっとお目当ての場所にたどり着いたらしく、エイオークニに声をかけた。

「ここだ、ここ。入ろう」

 ドアを開けて入った店は薄暗く、数脚のテーブルとカウンター席にはまばらに人が座っている。ジムドナルドはエイオークニを促し、ドアに近いテーブルに腰かけた。

 暇も与えずすり寄ってきた店員が手にした照合機を2人に差し出す。ジムドナルドは宇宙服のポケットからアクセスコインを取り出してかざす。

「ジンジャーエールと唐揚げバスケット」ジムドナルドはヘルメットを脱いでテーブルの端にひっかけた「あんたはどうする?」

「同じもので」エイオークニもヘルメットを脱ぎながら言った。

「唐揚げもか?」

「バスケット2つは多いでしょう。ジンジャーエールだけでいいです」

 店員が奥にひっこんですぐ、エイオークニが英語で尋ねた。

「ここはアクセスコインを使うんですか?」

「エンポスの行政とは別会計だからなあ」ジムドナルドもニヤリと笑って英語で返す「識別コードで自動決済ってわけにはいかないんだ。いちおう歓楽街だしな。しょぼいけど」

「しょぼいと言っても、需要はそこそこあるみたいですね」

 エイオークニは店内を見回してつぶやいた。客のほとんどはお一人様で、カウンターもそうだが、テーブルのほうも独りずつ思い思いの皿を目の前に並べて、黙々と食べている。

 ほどなく、ジムドナルドとエイオークニのテーブルにも注文の品が届いた。早さだけなら一流と言っても過言ではない。

「毎日、固形食糧と水じゃ、いくら崇高な志があっても限界があるだろ」言いながら、ジムドナルドは唐揚げを1個取ってほおばる「息抜きが必要なんだ。べつに贅沢しちゃいかん、と言ってる教導会があるわけじゃないが、こういうところで食事するだけでも、かなり負い目があるらしいな」

「そんなものですか」

「まあな。贅沢したいんなら、そもそもエンポスにくる必要がないしな」

「それでジンジャーエール?」

「酒ぐらい、頼めば出てくるさ。でも、こっちの方(ジンジャーエール)がここでは流行りなんだ。あそこの席は別らしいがな」

 ジムドナルドが顎でしゃくった先、いちばん奥のテーブルには3人の客がいた。赤ら顔の太っちょと痩せぎすの2人、とくに痩せたほうの片割れは、死にそうな顔色をしている。3人の前には多すぎる料理と、飾り栓のしてある大きなボトルがあった。

「遠すぎて何を話してるのか聞こえませんね」

「聞く必要もないだろ。どうせたいしたことは言ってない」

「店を出てから…、ということですか?」

「そうだよ。だから、その唐揚げは時間を調整しながら食べてくれ。いつでも出られるように、あと、おかわりしなくてすむようにな」

「おかわりは無理ですか、意外と懐はさびしいんですね」

「財布じゃなくて、胃袋のほうだよ。腹いっぱいで走れるんなら、いくらでも追加してくれ」

「やめておきますよ」エイオークニは陰気な顔で言った「この唐揚げ、みょうに脂っこいし、ダーのを食べなれたせいで、こういうのはどうも…」

「あんた、ずいぶん、ダーに特別な思い入れがあるみたいだが…」話しているのは英語なのだからその必要はないはずだが、ジムドナルドは声をひそめた「改めて言うまでもないが、あれ(丶丶)はコンピュータだぞ」

「そりゃあ、まあ、そうですが」エイオークニは、ことダーのことに関しては、心ここにあらずという感じだった「それを差し引いても…、いや、だからこそなのかな。あの人(丶丶丶)はとても魅力的ですよ」

「そりゃあ、まあ、そうだろうが…」

 異口同音に返したことにジムドナルドのほうが驚いていた。

「人じゃないものに、そういう顔つきをする奴は何人も見たが、ロクな目にあってないぞ」

「タケルヒノやジルフーコのことですか?」

 間髪入れずに返されたジムドナルドは、悔しまぎれに言葉を探した。

「サイカーラクラはともかく、ボゥシューはいちおう人間だぞ」

「この騒動の元凶が彼女なのに?」エイオークニは笑った「私の知っている人間(丶丶)は、こんな面倒を起こせる力はないですからね。そもそも、あなたにしてからが…」

「俺がなんだって?」

 エイオークニは食べかけの唐揚げを飲み込み、もう1個を口に放り込むと、あとはそちらの分、とでも言いたげにバスケットをジムドナルドのほうに押しやった。

 ジンジャーエールを飲みほしたエイオークニは、ヘルメットに手を伸ばしながら言う。

「もう、向こうは出るみたいですよ。それで、3人一緒のままなら良いとして、分かれたら誰を追えばいいんですか?」

「あんたは太っちょのほうで、俺があの死神に取りつかれてそうな痩せっぽちのほうだ」

 バスケットを空にしたジムドナルドは、ジンジャーエールの残りには手を付けず、ヘルメットをかぶりなおした。

 


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