表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

232/251

ジムドナルドの冒険(2)

 

「情報キューブ内のあなたたちの遺伝情報からクローンが作れるかってこと?」

「そう、質問の趣旨はそれ」

 アグリアータは、ジムドナルドの顔を見つめた。ひるまないところをみると、本当の答えが必要なのだろう。

「あたしには、ムリ」アグリアータは答えた「リーボゥディルが、あの子がああなったのは、あたしのせいだから。それが、わかったうえであなたが聞くから、あえて言うけど。ボゥシューか、ダーならできるのかもしれない。でも、そのボゥシューにしてからがあなたたちの生殖細胞を凍結保存してたのだから、情報からのクローン構築はムリだと思う」

「育たないんだな?」

「育たないのよ」

「悪かった。あんた以外に聞ける人がいなかったんだ。忘れてくれ」

「ダーに聞けば良かったのに」

「ダーは可能性の話ししかしないからな。この件では、参考にならん」

「どういうこと?」

「噂だよ。まるで、おとぎ話みたいなもんだ」

 ジムドナルドはアグリアータにボゥシューの宝物(丶丶丶丶丶丶丶)の噂を説明した。

「途方もない話しね」

 呆れ顔のアグリアータに、ジムドナルドはニヤリと笑んだ。

「だろう? こんな莫迦話しにからんでくる奴らは、めんどくさいことが大嫌いなんだ。ダーの厳密な可能性の話しなんか、聞くだけ無駄だ。普通にやって、ちょっとできそうにないようなら、奴ら見向きもしない」

「どうして? あなたたちのクローンが、もし、手に入る方法があるなら、多大な労力を払って当然だと思うけど?」

「しないよ」ジムドナルドは即座に否定した「こういうのにからんでくる奴らが本当に欲しいのは、俺たちのクローンじゃない。金だ」

「ああ」アグリアータはやっと納得した「お金ね。それなら、あまり苦労なんかしたくないでしょうね」

「で、ここからが、本題だ。そういう奴らに心当たりはないか?」

「そうねぇ」アグリアータは視線を天井に向けた「心当たりがありすぎて、いちいちあげるのも面倒なくらいね」

光子体(リーニア)は除いていい。生身の人間でいちばんそれっぽいのを教えてくれ」

「どうして光子体(リーニア)は除くの?」

光子体(リーニア)なら情報キューブに直接アクセスできるからな。いくら間抜けでも、あの情報をを見たら、俺たちが何者かぐらいわかるだろ?」

光子体(リーニア)を買いかぶりすぎ」アグリアータは嘆息した「情報量と頭の良し悪しは、まったく関連性がないのよ。でも、光子体(リーニア)を除くのは賛成かな」

「ほう、どうしてだ?」

「大半の光子体(リーニア)は、光子体(リーニア)だと言うだけで、他より上だと思ってるから。あなたたちがとんでもない人たちなのを知りたくない(丶丶丶丶丶丶)のよ」

 さもありなん、ジムドナルドは笑いながら同意した。

「じゃあ、光子体(リーニア)の対極みたいなのはいないか? 光子体(リーニア)が俺たちに興味ないんなら、逆の奴らなら興味あるだろ?」

「エンポスかなあ」

 アグリアータは自信無げにつぶやいた。

「エンポス?」

「第3惑星シャーンの第2衛星、エンポス。いるのは数千人で数は少ないんだけど、情報体転換しないで精神の高みから宇宙に飛び立つ、と主張してる。宗教みたいなものかな」

「宗教だって?」俄然、ジムドナルドの目が輝きだした「俺の専門じゃないか。よし、最初はそこからだ」

「ちょっと待って」ジムドナルドのあまりの決断の速さにアグリアータは心配になる「さっきは、お金がらみだって、言ってなかった? 彼らの暮らしぶりは質素で、清楚なものよ」

「だって宗教だろ?」ジムドナルドは笑った「どんな宗教だって、金のからまないものはないよ。それに、こっちだってダーに頼まれたからやってるんで、半分、暇つぶしみたいなもんなんだ。最初が外れでも、いっこうにかまわん」

 

「エンポス、というのですか? この惑星は」

 ジムドナルドのコンソールを横からのぞきこんで、エイオークニが言う。

「惑星じゃなくて、衛星だ」ジムドナルドはコンソールから目を離さずに答える「直径1500キロメートル、水なし、大気なし、人口は8900人。小さめの人工居住区だ。情報体(リーンファノア)に対抗、精神体(ファルケノア)に進化して近接胞宇宙(セルパッハベル)に進出すると標榜してる、パルペーゼタア(みんな同じ)の本拠地だな」

精神体(丶丶丶)みんな同じ(丶丶丶丶丶)ですかあ…」エイオークニの口調は、呆れるというよりあきらめ(丶丶丶丶)の感情のほうが多くをしめていた「こういうのは胞宇宙(セルベル)とは関係なく、どこも一緒なんですかね」

「集団の中には、一定数、頭のおかしな奴が出てくるからな。発生比率も発生形態もほぼ同じだ。個体能力値が異常に高いものは発生頻度が極端に少ないから、群れることができるのは普通の馬鹿(丶丶丶丶丶)だけなんで、こういうことになる」

 エイオークニは椅子を運んできてジムドナルドの隣りに陣取る。ジムドナルドが操作してコンソールの内容が書き換わるたびに、目を皿のようにして詳細を確認していく。

「こんなもんに興味あるのか?」

 やっとエイオークニのほうを見たジムドナルドに、エイオークニは微笑みかけた。

「もちろんありますよ。これから自分が行くところですからね。下手したら命に関わりますし」

「何でこんなところに行くんだよ」

「あなたと同じ理由ですよ」エイオークニは、しれっと言う「ダーに頼まれたので…、まさか断るわけにはいきませんし」

 ジムドナルドは、あからさまにムッとした。

「ほか行けよ。ここは俺が行くから」

 まあまあ、そう言わずに。エイオークニはコンソールに割り込むと操作しはじめた。幾重にも連なる原語のかたまりが積層構造をなし、それぞれの端っこにちょっとずつ、エイオークニは手を加えていく。

「人工居住区というのは閉鎖空間ですからね。こっそり入り込むのはなかなか手間だし、人数も少な目だから、よそ者にはキツイ。グラテシオダスさんとユングファーさんには悪いけど、っと」

 コンソール上の、2通の移民申請許可がジムドナルドとエイオークニのものに書き変わった。

「はい、これが、我々の許可証。半年前から申請していてゾンダードからの移民ってことになってますから忘れないでください」

「えらく手際がいいな、偽造とか(こういうこと)しょっちゅうやってるのか?」

「偽造はしませんが、申請ではなくて許可を出すほうをずいぶんやってたのでね」

 エイオークニは立ち上がった。

「役所仕事なんてのは、どこでも同じものです。烏合の衆のまとめ役なんかやってると、こういうことが知らず知らずのうちに上手になってしまう。まあ、たまには役に立つから、それほど卑下する類のものじゃないと思っていますがね」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ