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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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231/251

ジムドナルドの冒険(1)

 

「ボゥシューの宝物?」

 そう、とダーは言ったのだが、ジムドナルドは2度尋ねて、ダーはもう一度、同じように肯定した。

「何だそりゃ?」

「ボゥシューがあなたたちの生殖細胞を保管していたでしょう? その細胞から造られた複製人間(クローン)がいるっていう話しなの」

 ジムドナルドは無言で立ち上がり、ダーに、ついて来い、とうながした。

 宇宙船(ダー)の艦内は、宇宙船(ボード)とまったく同じに造ってある。ダーに必要ないものまで、そっくり同じに、だ。

 だから、ボゥシューの実験室の複製(コピー)も同じ位置にある。

 ジムドナルドは、迷わずにボゥシューの実験室に入り、小型凍結保存庫の前に立つ。

「それは、どこでおぼえたの?」

 保存庫のコードロックを躊躇なく開けるジムドナルドに、ダーが横から聞いた。

「前にボゥシューが開けたとこ見て覚えた。あんたもできるだろ?」

「そりゃあ、できますけど。人間でできる人は少ないですよ」

「そうか? 俺の知ってるやつはみんなできたぞ」

 凍結庫を開けたジムドナルドは、中からアンプルを取り出した。

「そんなものがここにあるなんて、聞いてないけど?」

「そりゃあ、ボゥシューは、培養分枝をここに入れたなんて誰にも言ってないから」

 じゃあ、どうしてあなたは知ってるの? とはダーは聞かなかった。

 アンプルは3本、数を確認したジムドナルドは、アンプルを保存庫に戻して扉を閉めた。

「中を確認する必要もないと思うがな。こっちのバックアップは無事だし、宇宙船(ボード)のを盗むのはもっと大変だろ?」

「まあ、あなたが盗んだのでもなければ、一般の人には不可能でしょうね」

「俺も興味はないんだよ」

「でしょうね」

 ダーは、片手を頬にあてて小首をかしげた。ウェーブのかかった栗色の髪がわずかに揺れ、ほつれた前髪の一本が左の眉にかかる。思案気な瞳が潤んで見えるのは、たぶん、気のせいだが、コンピュータがこんな仕草をして、いったい、何の意味があるのかわからない。

 どこで、こんなことを覚えてくるものやら、ジムドナルドにとっては、こっちのほうがよっぽど不思議である。

「まあ、クローンの件は、デマでしょうから、実際に細胞が盗まれたなんて、わたしも思っていませんけど…」

「…けど、何だ?」

「火のない所に煙は立たぬ、ですからね。実際のところどうなのか? 調べてほしいんですよ。ジムドナルド」

「何で、俺なんだよ」

「だって、タケルヒノやジルフーコに頼むわけにもいかないでしょう? ボゥシューとサイカーラクラを探してる最中だし、こんなこと頼めません」

「ビルワンジルは?」

「彼もとてもいそがしいの」ダーは、にべもない「何でいそがしいのか、わたしから言うわけにもいかないので、自分で聞いてね。だからあなた(丶丶丶)しかいないの。ね、お願い、ジムドナルド」

 

 宇宙船(ダー)宇宙船(ボード)そっくりに造ってある。だから当然、農場(ファームゾーン)もある。

 宇宙船(ダー)農場(ファームゾーン)は存在が微妙である。ダーは料理はするが、料理は食べない。農場(ファームゾーン)で栽培した植物はダー以外の人間が食べるが、量はあまり必要ない。栽培量が少ないのだ。

 だから、ビルワンジルにとって、 宇宙船(ダー)農場(ファームゾーン)では仕事があっというまに終わってしまい、手持ち無沙汰だ。

「何だ、いそがしい、って聞いてきたのに、暇そうじゃないか」

 農場(ファームゾーン)の真ん中に、ぼけっと突っ立っているビルワンジルに、ジムドナルドが声をかけた。

「オレがいそがしいって、誰に聞いた?」

「ダーだ」

 なるほど、とビルワンジルは小さく言って、それから、ジムドナルドのほうを向いた。

「いまは、それほどいそがしくはない。でも、じきに、いそがしくなる」

「何すんだよ?」

「父親になる」

「何?」

 ビルワンジルは照れくさそうに笑った。

「オレとイリナイワノフの子供。生まれるのは半年後だ」

「な、なんだ、こいつぅ」

 ジムドナルドは大声でどやしつけ、ビルワンジルの背中をばんばん叩きながら、笑った。

「うまいこと、やりやがって…、おめでとう」

 ビルワンジルは、叩かれっぱなしの背中は気にもとめず、ぽつぽつ、と話した。

「いろいろな考えはあると思うが、宇宙船、っていうのは、あまり子供を育てるには向かないんじゃないかと思うんだ」

「ま、そうかもしれんな」ジムドナルドは背中を叩くのはやめた「じゃ、どうする? 地球に帰るか?」

「それも考えたが」ビルワンジルの口調が重くなった「途中の胞障壁(セルレス)が子供に与える影響が心配だ」

「それは…、そうかもな」

「だから、ゾンダードに降りようと思ってる」

「ゾンダード? ここ(ファライトライメン)の第2惑星か?」

「ああ、イリナイワノフもそう言ってる。少なくとも子供が大きくなるまではゾンダードですごそうと思う」

「ふーん、なるほどなあ」

 ジムドナルドは納得したような顔をしたが、実際には未知の出来事に遭遇して混乱していた。生物学的な知識としては、もちろん知らないわけではなかったのだが、自分の近しい知人にそういうことが起こるというのは、何か夢の出来事のような気さえした。

「ところで、オマエのほう、何か手伝いが必要なことでもあるのか?」

「え? 何が?」

 ビルワンジルに言われて、我に返ったジムドナルドは、鶏が首をしめられたような声を出した。

「オレが、ひまとか、いそがしいとか、ずいぶん気にしてたみたいだからさ。いまなら、まだ、余裕があるから、何かあるんなら手伝うぞ」

 いやいやいや、ジムドナルドは大げさに頭を振った。

「何でもないさ。なんだ、その…、お前、めずらしく、ぼーっとしてたからさ。ここ(ファームゾーン)で、お前がそんなふうにしてるとこ見たことなかったから…、ただ、それだけさ」

 


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